天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。ナイジェリア出身の伝説的なドラマー、トニー・アレンが79歳で亡くなったというニュースが飛び込んできました……。死因は腹部大動脈瘤。最期まで現役の音楽家だったので、とても残念です。RIP」

田中亮太「18歳からドラムを叩きはじめた彼は、60年代にフェラ・クティと出会い、活動を共にしました。アフロビートはフェラ・クティと彼の2人なくしては存在しなかった音楽でしょうね。アレンのキャリアについてはPitchforkの訃報記事が簡潔にまとまっているので、おすすめです」

天野「アレンの偉大さ、そしてその喪失は筆舌に尽くしがたいです。今日はフェラの輝かしい作品群や、アレンの遺作となったヒュー・マセケラとの『Rejoice』(2018年)、ブルーノートから発表した『The Source』(2017年)などを聴いて、彼を偲びましょう」

田中「そうですね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. Megan Thee Stallion feat. Beyoncé “Savage Remix”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はこれしかないでしょう! メーガン・ザ・スタリオンのヒット・ソング“Savage”にビヨンセが参加した“Savage Remix”!! いまめちゃくちゃ話題になっている曲です」

田中「そのとおりですね! メーガンは〈2020年期待の洋楽アーティスト50〉でも紹介したラッパーで、2019年にデビュー・ミックステープ『Fever』で注目を集めました。95年、米テキサス生まれで、ヒューストンのサウス・パーク育ち。お母さんも〈Holly-Wood〉というラッパーとして活動していたそうです」

天野「メグはサイファーやフリースタイルによってインターネット上で話題になって、のし上がってきた実力派なんですよ。今年の3月には早くも新しいEP『Suga』をリリースしていて、そこに収録されているのがこの“Savage”。“Savage”は、TikTokのダンス・チャレンジによってヒットした曲なんです。この売れ方はイマっぽいですね」

田中「そんな話題の曲に、同郷ヒューストン出身のビヨンセが参加したと。イントロの〈Queen B〉という歌いだしから、ものすごい存在感。〈Ooh〉〈Okay〉といったアドリブはまさにビヨンセ印で、とにかく主張が強い(笑)。ビヨンセのヴァースになると、ほとんどビヨンセの曲に聴こえます」

天野「ビヨンセ色、濃すぎですよね。音楽的な支配力がすごい……。メグの〈Like Beyoncé, like me〉っていうラインもかっこいいです。なお、この曲の売り上げはヒューストンにおけるCOVID-19の救助活動に寄付されるんだとか。アートワークは同地の自然を描いたものなんでしょうか。いろいろな意味で、重要な一曲だと思います」

 

2. Petite Noir & Kingdom “Alive”

天野「2位はペティート・ノワールとキングダムによる新曲“Alive”。ぺティート・ノワールは、2018年のEP『La Maison Noir / The Black House』に収録された“Beach”をこの連載で紹介していましたね。南アフリカのケープタウン出身のプロデューサー/シンガーです」

田中「みずから〈ノワールウェイヴ(Noirwave)〉と称するダークで呪術的なサウンドが魅惑的なアーティストですよね。で、今回共作をしたキングダムはどんな人なんです?」

天野「キングダムことエズラ・ルービン(Ezra Rubin)はLAを拠点にしているプロデューサーで、これまでドーン・リチャード(Dawn Richard)やケレラ(Kelela)の楽曲を手掛けてきました。UKベース・ミュージックを代表するレーベル、ナイト・スラッグス(Night Slugs)からリリースした作品や、彼が運営するフェイド・トゥ・マインド(Fade To Mind)から積極的に作品を発表していますね。SZAやジ・インターネットのシドが参加した2017年のアルバム『Tears In The Club』は傑作でしたよ! 2010年代の重要な一角を担ったプロデューサーです」

田中「へ~。いま聴いてみましたけど、トラップとUKベースの間を行くようなサウンドでかっこいいですね。インダストリアルっていうよりメタリックな質感。この“Alive”もビートが前面に出ていて存在感たっぷり。キングダムのサイバーパンク的な音色とぺティート・ノワールの〈ノワール〉なムードがうまく融合しています」

天野「2人の音楽的な魅力がいい化学反応を起こしていますよね。なおこの“Alive”は、両者のコラボレーション・シングル『CoeurWorld』に収録されています。もう一曲の“Throough The Bad Times”もフューチャリスティックなR&Bでかっこいいので、そちらもお聴き逃しなく!」

 

3. Paloma Mami “Goteo”

天野「3位はパロマ・マミのニュー・シングル“Geteo”。2019年12月に発表された“Mami”以来の新曲です。僕は彼女から新曲が届けられるのをずっと待っていたんですよ! なんていったって、2020年一押しのアーティストですからね!!」

田中「〈2020年期待の洋楽アーティスト50〉で熱心に推していましたよね。そんなパロマ・マミはNY生まれ、チリ育ちのシンガー。ヒット・シングル“No Te Enamores”(2018年)やタレント・ショーで注目された逸材で、“No Te Enamores”はYouTubeで1億回以上再生されています」

天野「そうなんですよ。チリやラテン・アメリカでは、かなり人気があると思います。で、今回のシングルは制作陣に注目してください。なんと、作曲にスペインのロザリア(Rosalía)、プロデュースにエル・グインチョ(El Guincho)が携わっているんです。つまり、ロザリア・チームの2人なんですよね。彼女に続くラテン・ポップのスターとして注目されていることがよくわかります。ロザリアのファンとしてはたまりません」

田中「そんな“Geteo”は、つぶやくような艶めかしいマミの歌と抑えめな音色のレゲトン・ビートがセンシュアルな一曲ですね。格闘ゲームを模したミュージック・ビデオも楽しくて、彼女の魅力を伝えています。パロマ・マミは今年、ソニーからデビュー・アルバムをリリースする予定。楽しみですね!」

 

4. Dixie Chicks “Julianna Calm Down”

天野「続いて、ディクシー・チックスの“Julianna Calm Down”が4位。彼女たちについては、3月にリリースされた13年ぶりのカムバック・シングル“Gaslighter”を紹介したときに語りましたね」

田中「ええ。ざっくり言うとテイラー・スウィフトに先駆けて、カントリーからポップ・シーンを代表するスターとなったアメリカの国民的トリオ。カントリー界では珍しく、リベラルな態度を表明していることでも知られています」

天野「その説明は、ざっくりしすぎな気がしますが……(苦笑)。ともあれ亮太さんはディクシー・チックス、すごく好きですよね。前述の“Gaslighter”に続いて、この“Julianna Calm Down”も激推しって感じだったじゃないですか」

田中「そうなんですよね~。もともと好んで聴いていたんですが、“Gaslighter”以降はジャック・アントノフとタッグを組んでいるところも大きくて。当代随一のポップ・プロデューサーであるアントノフが、彼女たちの魅力をうまく引き出していると思うんです。この“Julianna Calm Down”も、キャリア30年以上のバンドと思えないくらい、軽やかで瑞々しいじゃなですか」

天野「生音と打ち込みのバランスも絶妙で、アントノフらしい音作りですよね。彼女たちの力強さや包容力が感じられて、パートナーとの複雑な関係に悩まされる若者に向けて、〈ジュリアナ、落ち着いて/別れが迫ってきているけど、慌てる必要はないから〉と声をかける歌詞もグッとくる。アルバム『Gaslighter』は本日5月1日にリリースされる予定でしたが、新型コロナの影響を受けて延期になっています。残念ではありますが、アルバムが届けられるのを楽しみに待ちましょう!」

 

5. Retirement Party “Compensation”

天野「今週最後の一曲は、リタイアメント・パーティーの“Compensation”。彼女たちはシカゴのエモ・バンドで、ヴォーカリスト/ギタリストのエイヴリー・スプリンガー(Avery Springer)を中心とするトリオ。2018年にファースト・アルバム『Somewhat Literate』をボストンのエモ・レーベル、カウンター・インテュイティヴ・レコーズ(Counter Intuitive Records)からリリースしています」

田中「僕はこの曲を聴いて〈普通のエモだな〉って思ったんですけど、どこにそんな惹かれたんですか(笑)?」

天野「やっぱりメロディーですね! スプリンガーの、ちょっとくぐもった歌声もいいです。先々週紹介したダイエット・シグ(Diet Cig)の“Who Are You?”についても同じことを言ったんですけど、90年代末から2000年代前半のポップ・パンク・バンドの曲っぽい、キュンとするような切ないメロディーがいいなって。で、あの頃やそれ以降に出てきたエモとかポップ・パンクとかって、時代が一回りして、いままた重要になってきていると思うんですよ。というのも、ジュリアン・ベイカーのように、そういった時代の音楽を子どもの頃に聴いてきたミュージシャンたちが活躍し始めているからなんです。ライターの天井潤之介さんが、そのあたりの第一人者だと思いますけど。あと、〈ポスト・クラウド・ナッシング〉と呼びたいデトロイトのドッグレッグの登場も、最近の大きなトピックでした。10~20年前のポスト・ハードコアやエモ、それらとはちょっと毛色はちがいますが、ポップ・パンクも含めて、ああいった音楽が背景にあるエモ・バンド、パンク・バンドの層が厚くなってきていると思います」

田中「なるほど~。デトロイトの郊外で育ったスプリンガーは、子どもの頃にグリーン・デイを聴いていたそうですからね」

天野「そうなんですよ。エモ/ポップ・パンクの次世代バンドが台頭している流れのなかで、このリタイアメント・パーティーにも注目してほしいんです。彼女たちのセカンド・アルバム『Runaway Dog』は5月15日(金)にリリース。アルバムのタイトル・トラックも最高ですよ!」