音を〈観察する〉

――岡田さんは、バンド時代からポップスを作りながらも、その傍らでこのユニットに通じるようなドローンやアンビエント等の実験的な音楽を作り続けていると思うんですけど、改めて、なぜそういった両輪的な表現に取り組んできたんだと思いますか?

岡田「ポップスと実験的な音楽って、自分の中で違うスイッチに繋がっているようでいて、同じでもあるという両方の感覚があって……。その両方を並行してやるのは自分にとってあくまで自然なことなんですよね。

僕の世代だとギリギリ、インディー・ロックとかを聴く延長で大友良英さんとかジム・オルークさんの音楽を聴いていた人は多かったと思います。ポップスへの興味と同じくらい実験的なものへの関心は強かったんだと思います」

岡田拓郎の2020年作『Like A Water, Like A Song』。岡田はBandcampやSoundCloudでドローン、アンビエント、即興演奏の作品を多数発表している

――duennさんもポップ・フィールドの方とコラボレーションされていますが、そういう〈両輪の感覚〉みたいなものってありますか?

duenn「自分の場合は、これまで基本的にエクスペリメンタルな感覚しかなくて、ポップスのチャンネルはないという意識ですね。

ただ、岡田くんみたいに両方のチャンネルを持ってる人にはすごく興味があるし、話が合うんです。もちろん、ポップスを聴く行為は昔から好きですしね」

――ファーストの『mujo』は、duennさんの音響と岡田くんのギターという基本編成でしたが、今作ではduennさんがメロディーを、岡田さんが楽器を弾かず主にポスト・プロダクション等を担当したらしいですね。

duenn「そうですね」

岡田「duennさんと一緒にツアーを周っていたときに、〈duennさんはいつもライブでサンプラーを触っているけど、演奏中は何を考えてるんですか?〉とか、〈どの音を聴いてるんですか?〉とか、〈どんな音を出してるんですか?〉とか、いろいろ質問攻めしたんです(笑)。で、〈僕は音を観察してる〉と答えてくれて。器楽奏者である僕からするとその感覚が凄く新鮮だったんです。

そこから、音を自分で演奏して〈発する〉んじゃなくて、〈観察する〉というくらいにミニマルな状態として音楽を捉えて、何か新しいものが作れたらいいなと思ったんです」

okada takuro + duennの2016年作『mujo』

 

〈自然の音〉と〈都市の音〉

――その上で今回は〈都市の音楽〉というコンセプトを設定したらしいですね。具体的にどういうイメージなんでしょう?

岡田「最初は特に何かのオマージュ的なものを目指すというよりは、ぽんと頭に浮かんだ言葉でした。

音楽の中でざらつきとか、やわらかさとか、暖かさとか、冷たさとか、そういう感覚を引き起こすのを〈自然の音〉だと考えるなら、音そのもの、響きそのものを〈観察的に〉抽出しようとするとき、視覚的にはコンクリートや鉄鋼が浮かんできたんです。そういう意味での〈都市の音楽〉ということなのかなと思います」

duenn「タイトル通り、〈都市計画的〉という感覚が近いのかもしれないですね。都市計画においては、必ずどこかに緑地が配置されると思うんですけど、その空間にこそアンビエント的な風情があるというか、結果的にそういうことを再認識できたのも僕としては面白かったですね」

ミュージック・ビデオ「“Urban Planning” by Okada Takuro + duenn」。『都市計画(Urban Planning)』を3時間強ループさせたもの

岡田「そうそう。無機質な音楽を狙っていたけれど、じっさいに出来上がってみると、有機的な響きも入り込んでいるように思います。

duennさんの持つミニマリズムをポップな方向に引き出すとどうなるのかな?という視点もあったので、それが反映された結果かもしれません」

duenn「こういうコラボレーションって、普段自分がやらないようなことをやることによって引き出されるものが見えてくる場だと思うんです。今回の場合、自分は素材の一つとなって、岡田くんに料理してもらったというか……」