リリース以降のDJセットが想像できない新作『PLANET'S MAD』
――バウアーのファースト・アルバム『Aa』から、新作までの作風の変化はありますか?
「僕が先日リリースした『DECADE4ALL』もキャリアで最初のアルバムだったので、自分のアーティスト・イメージをいろいろ試しながら伝えることを心掛けたんです。同じように、バウアーも1枚目では、すごく幅広いことに挑戦していたと思います。
今回の2作目は、ストーリー性があってサウンドトラックのようにも聴けます。リード・シングル“PLANET'S MAD”のミュージック・ビデオもCGの怪獣が出てきたりと映画的ですよね。
Netflixのドラマ『アイアン・フィスト』(2017~2018年)のサントラをバウアーが手掛けたことも影響しているのかなと思います。あれ、ものすごい出来が良くて。サントラの経験から本人も実験してみたくなったのかなと」
――今回のアルバム『PLANET'S MAD』の印象はいかがでしょうか?
「今回のアルバムは、トラップのビートなのか、どうなのかというギリギリのところを攻めていますね。あと、音響のミキシングがすごい。スピーカーで聴いたときの低音のニュアンスが多種多様で。普通のトラップのサウンドだったら、下のサブベースがブーンって鳴っているだけなんです。
あと、バウアーの魅力のひとつはパーカッションにあって、よく聴くとものすごく(打ち込みが)細かい。今回のアルバムでは、生音をサンプリングしたものやオーケストラを思わせるような大きめのドラムも使われながら、ローはサブベースもありつつ、音響効果としての響きや振動がすごい。そこにビート・ミュージック的なトライバル感も混在していて、どうやって作ってんだろうなと思いました」
――いままでの作品は、音響的に抜けが良かったですよね。それが今回は音数が多くなっている。
「今回のアルバムは、重心が低くてめちゃくちゃ重い感じがします。アルバムの曲を一体どうやって掛けるのか、DJセットがどうなるのか楽しみです」
――想像がつかないですよね。自分が聴いた感じでは、ビッグ・ビートやデジタル・ロックと呼ばれていたジャンルの影響が大きいと思いました。
「僕もそれは思います。初期のテクノに戻っているような雰囲気もあります。あと、レイヴの影響はありますよね。8曲目の“AETHER”は、ジャングルのような曲で。昔からこういう曲をDJでは掛けていたので、自分でもやりたかったんだろうなと。
バウアーが〈BBC Essential Mix〉に出たときのDJセットが良くて。同じBBCの番組〈Diplo & Friends〉なんかだとパーティー・トラックを掛けるんですけど、〈Essential Mix〉だからか不穏な曲やレイヴに寄った曲、本人の未発表曲を掛けていて良かったですね。そういった過去のジャンルから受けている影響はずっとあったと思います」
――〈Essential Mix〉はUKダンス・カルチャーを支えている老舗番組なので、UKのノリに合わせているのかもしれないですね。
「それといままでの曲はトラップだったから、DJするときもトラップに寄せてたと思うんですけど、今回のアルバム以降、変わってくかもしれないですね。バウアー本人は、家庭の関係でいろいろな国を転々してた時期があって、UKにもいたという話を聞いたことがあります。UKのフェスに出た動画では、UKガラージの名曲“RIP Groove”やグライムの曲も掛けていたし、UKからの影響をは大きそうですね」
プリセット全盛の時代にサンプリングで戦う
――彼のサウンド自体、無国籍な感じがしますよね。マッド・ディセントらしいというか、ディプロの影響が大きそう。僕が思うのは、ディプロがいろいろなジャンルを再発掘していくのに似ているのかなと。バウアーは今回、ビッグ・ビートを再解釈して、新しく提示していこうという意気込みを感じました。では、Masayoshiくんが今回のアルバムのなかでいちばん好きな曲は?
「3曲目の“MAGIC”は、トラップ・ビートのギリギリ限界に挑戦していて好きでした。サブベースとパーカッションで引っ張っている感じが、これは限界までチャレンジしてすごいなと。トラップというジャンルの崩し方の限界というか、こんなビート、いままで聴いたことなかった。そういった意味で、単純にプロダクション・スキルがすごい。
最後の“GROUP”も結構好きでした。ビート・ミュージックのいくつかがLAビートと言われてた時期のフィーリングもあるし、エレクトロニカみたいな要素もあるし、何とも言えない感じが好きですね。明確なジャンル名を言えないですよね。よっぽどいろんなものから影響を受けて作ってるんだろうなって思います」
――バウアーは、いまのシーンではどういった立ち位置になるんですか?
「本人の狙いとしては、あまりフェスでのDJをやらなくなり、表に出ないようにして、プロデューサーとして今回のアルバムを作っていたと思うんです。これを出したあと、どうなっていくのかは気になりますね。これで急にドープなショウの見せ方をしてきたらおもしろいですよね。今後の動きに期待です」
――バウアーの新作も、ファースト以上に〈アルバムらしい〉作品性の高いものになっていました。Masayoshiくんが今日話してくれたように変化した作品ではありますが、そのうえでバウアーらしさはどういったところに感じましたか?
「やっぱりいまの時代のフェスティヴァル系の音楽には、どうしてもプリセットを中心に戦うというのがあると思うんです。そうではなくて、フェスティヴァル系だけどサンプリングが主体になってて、そこのバランス感がバウアーらしいなと思いました。踊らせてくる曲なのにサンプリングを使うことによってビート感やヒップホップ感が失われてない。
あとサンプルの話では、声ネタ使いがすごい特徴的で“Harlem Shakeの”頃から変わってないんですが、よくわからないところから持ってきて聴かせるサンプリングのセンスがすごいです」
――ちなみにMasayoshiくんのアルバム『DECADE4ALL』も、サンプルはおもしろいところから引っ張ってきたものが多いんですか?
「まったく違うジャンルのサンプル・パックから持ってきたものもあります。ディスコハウスのサンプルから探したり」