天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、ここ日本では7都道府県を対象に緊急事態宣言が発令。事態は悪化している、としか言いようがありません」
田中亮太「海外では新型コロナに感染して亡くなる方が増え続けています。アメリカのヴェテラン・シンガー・ソングライター、ジョン・プラインは73歳で逝去……。ご冥福をお祈りします」
天野「ボブ・ディランも愛した、カントリー・フォークの大御所ですね。ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとも共演していました。彼の死を悼んで、ブルース・スプリングスティーンやシェリル・クロウがメッセージを発しています。さらに、なんとハル・ウィルナーまでもが亡くなってしまいました。まだ64歳なのに……。優れたトリビュート・アルバムの制作、『サタデー・ナイト・ライブ』の音楽監督、ルー・リードやレナード・コーエンのプロデュース、と彼の功績は本当に大きいです。米国音楽界を代表する知の巨人に、RIP」
田中「これ以上かけがえのない命が奪われないよう、新型コロナをめぐる状況が好転することを願ってやみません。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」
1. Phoebe Bridgers “Kyoto”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はフィービー・ブリジャーズの“Kyoto”! 文句なしの一曲でしょう。2月にも“Garden Song”を〈SOTW〉に選びましたが、曲を発表するごとにどんどん良くなっていっている! 稀有な音楽家ですし、現代アメリカの最重要SSWだと思います!!」
田中「ボーイジーニアス(boygenius)やベター・オブリヴィオン・コミュニティー・センター(Better Oblivion Community Center)での活動を経て、一回りも二回りも成長したように感じますね。この曲は、デモっぽいローファイな質感のイントロから、ドラム、ベース、ギターが入ってきて、景色がぶわっと広がります」
天野「さらにサビではホーンがどーんと入ってきて、あまりの感動に鳥肌が立っちゃいました。まるで永遠のインディー・ロック・クラシック、ニュートラル・ミルク・ホテルの“Holland, 1945”(98年)じゃないですか! 泣ける……」
田中「曲名が〈京都〉なのも注目ですね。歌い出しはこうです。〈京都での休日/お寺で退屈して/セブンイレブンの店内を見ていた〉。〈東京の空を通して夢を見る〉というラインもありますね。この曲は日本での経験をもとにして書いたとのことで、〈いつか行ってみたい場所だった日本で初めて演奏したんだけど、まるで他人の人生を生きているみたいだった〉といったことを述懐しています。これって、僕と清水祐也さんが取材した2019年の来日時のことでしょうか? あの取材はよかったな~」
天野「いいなー。僕も会いたい……。〈ディス・イズ・ジャパン〉な感じのミュージック・ビデオもかわいらしいので、必見です。フィービーのニュー・アルバム『Punisher』は6月19日(金)にリリース。待ちきれませんね!」
2. Baauer “Planet’s Mad”
天野「2位はバウアーの“Planet’s Mad”。バウアーは米NYが拠点のプロデューサー、ハリー・ロドリゲス(Harry Rodrigues)によるソロ・ユニットですね。2012年にリリースしたトラップ調の“Harlem Shake”は、同曲を使ったダンス動画がインターネット・ミーム化したこともあり、特大ヒット曲になりました。その後もジェイ・ZやM.I.A.、ダニー・ブラウンといったアーティストとコラボを重ねている人気プロデューサーです。日本のリスナーにとっては、Awichの“Open It Up”を手掛けたひと、と言えばわかりやすいかもしれません」
田中「ベース・ミュージックがEDMを巻き込みながら強大化していった2010年代の牽引者である一人と言えますよね。前述の“Harlem Shake”も、そうした潮流における顔役と言うべきディプロが主宰するレーベル、マッド・ディセントからのリリースでした」
天野「この“Planet’s Mad”は、彼が6月5日(金)にリリースするセカンド・アルバム『Planet’s Mad』からの最初のシングル。亮太さんはいたく気に入ったそうですね。正直、僕はあんまりピンとこなかったんですが。だってなんか、〈ああ、懐かしいな~〉って感じるサウンドですし(笑)。いや、もちろん悪くはないんですけど」
田中「そんなー(涙)。クレイジーでぶっ飛んだ曲で最高じゃないですか。出だしのノイジーなギター・サウンドからテンション上がちゃって、つい〈デジロック〉なんて言葉を思い出しちゃいました。日本盤のリリース元であるBeatinkが出したプレス・リリースには〈ハイパー・ビッグ・ビート〉と書かれていましたが、それもちょっと納得。ビートはトラップやBmoreクラブの流れにありますが、タイトル通りにマッドなくらいアッパーでドラッギーな全体のムードは、98年前後のビッグ・ビートを彷彿とさせます。ある意味、21世期のデジタル・ハードコアと言えるのかもしれません。昨今の閉塞感をぶち壊してくれるような勢いもあって、個人的にはアガった一曲でした!」
3. Pop Smoke feat. Dave East “How We Move”
天野「3位は、2月に20歳の若さで亡くなったポップ・スモークの“How We Move”。ただこの曲、日本ではまだ配信されていないようで……。そのうち聴けるようになるとは思いますが、YouTubeで探して聴いてみてください」
田中「ポップ・スモークはNYのラッパーで、ブルックリンのドリル・シーンを代表するアーティストでした。彼が殺害されたのは強盗目的だったとも、ギャング間のトラブルによるものだったとも言われており、いまだ犯人は捕まっていません。死後にシングル“Dior”がチャートインした、というニュースもありましたね。生前に完成されなかったデビュー・アルバムを50セントが仕上げる、という情報も入ってきています」
天野「これはそこからのシングルなのでしょうか? フィーチャーされているのは、同じNYの先達であるデイヴ・イースト。ビートは、ポップの曲の多くを手掛けていた英ロンドンのプロデューサー、808・メロ(808 Melo)によるもので、リズムはトラップっぽいんですけど、ベースのうねりがドリルですね。ビートに合わせて3連系のフロウをしているのが、ポップにしては珍しいです。あいかわらず、かなり暴力的なリリックで、それがなんだか空しく響きますね……。ちなみに、ポップのリリックによく出てくる〈flossy〉は、彼の地元であるブルックリン南東部の地域=カナージーを指すスラングです。ここ一週間はシェフ・G(Sheff G)“Moody”、スムーヴ・L(Smoove’L)“Just A Dream”、22Gz『Growth & Development』、ブルックリン・ドリル・シーンから充実作がたくさん届けられています」
4. Charli XCX “Forever”
天野「4位はチャーリー・XCXの新曲“Forever”。チャーリーは2010年代を通して活躍したイギリス人ポップ・シンガーですね。〈PSN〉の常連で、何度も紹介しています」
田中「2019年にはサード・アルバム『Charli』をリリース。クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ(Christine And The Queens)やリゾ(Lizzo)ら、女性とクィアを多数フィーチャーした力強いコンセプチュアルな作品でした」
天野「チャーリーはポップ・シンガーなわけですけど、かなり攻めた音楽性が特徴で、アヴァンギャルドなエレクトロニック・サウンドをポップに聴かせるのがすごいんですよね。『Vroom Vroom』(2016年)ではソフィー(SOPHIE)を起用し、『Number 1 Angel』(2017年)以降はA.・G.・クック(A. G. Cook)とのコンビで曲を制作。個人的には、『Charli』はメッセージ性に重点を置いた結果、サウンドがわかりやすくなって、毒気が減った気がしたんですよね。でも、この新曲は〈これだ!〉っていう感じで」
田中「イントロから、ものすごく歪んだ電子音が暴れていますね。その後も、チャーリーの歌のバックでは8ビットっぽいシンセサイザー・リフや〈シャー〉というノイズがのたうち回っています。プロデューサーはクックとBJ・バートンです」
天野「納得です。電子ノイズはバートンによるものでしょうね。ボン・イヴェールの『22, A Million』(2016年)やロウ(Low)の『Double Negative』(2018年)に携わっていたので、彼の志向が“Forever”にはがっつり出ていると思いました」
田中「歌詞はボーイフレンドのハック・クウォン(Huck Kwong)に宛てたものだとか。別れた後のことまで見据えた〈あなたのことを永遠に愛し続ける/たとえ一緒にいないときでさえ〉というリリックは、コロナ禍のいま、別の意味を持って響きますね。それもそのはず。この曲は、チャーリーが〈self-isolation(自己隔離)〉しているなかで制作されたもの。そんな状況下で制作された新作『How I’m Feeling Now』は、早くも5月15日(金)にをリリース!」
5. Omar Apollo “Imagine U”
田中「最後はオマー・アポロの“Imagine U”。米インディアナ州出身、メキシコ系の彼は、ファンクやR&Bを取り入れたポップを得意とするSSWです。今年の2月には初来日公演を行ってましたね。同時期に開催していたフリー・ナショナルズ(Free Nationals)の東京でのライブにもゲストで出ていたんだとか」
天野「TOWER DOORSの小峯崇嗣くんからは、〈いまさらオマー・アポロを取り上げるんですか?〉って怒られそうですけど(笑)。オマー・アポロは2010年代後半のベッドルーム・ポップの流れで捉えていい作家だと思います。とはいえメロディーは洒脱、ビートはダンサブルなので、親しみやすいサウンドですよね。日本のリスナーからも受け入れられる音楽性だと思うので、トム・ミッシュのようにブレイクしてもおかしくなさそう。この曲、アレンジはかなり簡素ですけど、不思議な中毒性があります。〈タイニー・ベッドルーム・ファンク〉といいますか」
田中「本人曰く、この曲のインスピレーション源はダフト・パンクだそう。確かに“Something About Us”や“The Game Of Love”といった、ダフト・パンクのなかでもメロウでAORっぽい曲と併せて聴きたい感じ。“Imagine U”のプロデュースを手掛けたケニー・ビーツ(Kenny Beats)は、これまでもアポロと組んでいるので相性がいいんでしょうね。今後の飛躍が期待されるアーティストだと思います!」