新進気鋭の小説家、奥野紗世子。「逃げ水は街の血潮」で第124回文學界新人賞受賞した彼女は、文壇に新風を吹かせる存在として注目を集めている。4月に発売された「文學界」2020年5月号には、待望の受賞後第1作「復讐する相手がいない」が掲載されたばかりだ。

そんな奥野が堀込高樹の歌詞・言葉に着目したKIRINJI『cherish』のレビューは、2019年のヒット記事になった。そこで今回Mikikiは、奥野に再び歌詞についての執筆を依頼。彼女が大好きだという、ゆらゆら帝国および坂本慎太郎の〈歌詞が好きな曲ベスト10〉を選んでもらい、各曲への思いを綴ってもらった。

記事の最後には奥野が選んだ楽曲をまとめたプレイリストもあるので、ぜひそちらも聴いてほしい。 *Mikiki編集部


 

坂本慎太郎の歌詞の話をしたい

わたしはゆらゆら帝国が大好きである。わたしの思春期はゆらゆら帝国と共にあった。

思い返すと十五歳のわたしには間違いなく、世界で一番ゆらゆら帝国を愛している瞬間があったと思えるほどだ。

初めて買ったCDは『Sweet Spot』(2005年)だし、中学三年生の時に『空洞です』(2007年)のツアーで地元にやってきたゆらゆら帝国が初めて観たライブだ。東京の大学に進学してゆらゆら帝国のライブを観るという動機で勉強していたのに、高校3年生の時にゆらゆら帝国が解散した。

わたしは音楽のグルーヴ具合を表す言葉を持っておらず、〈めちゃくちゃかっこいい〉としか言えない悲しい人間なので、今回は坂本慎太郎の歌詞の話をしたいのだが、考えているうちに自信がなくなってきた。

細かいことはすべて端折るが坂本慎太郎は親のつぎにわたしの人生に影響を与えているとしか思えないので、考え出すと〈人生とは〉みたいになりがちだからだ。

考え始めると永遠に終わらない気がしたので、深く考えずざっくりと〈わたしが好きな坂本慎太郎が作詞した曲10選〉をやってみた。順不同。

・頭炭酸
・はて人間は?
・あえて抵抗しない
・何かが違う
・昆虫ロック
・まともがわからない
・ザ・コミュニケーション
・グレープフルーツちょうだい
・男は不安定
・無い!!

過不足ないと思う。どこが好きなのかそれぞれ要点をまとめたい。