RYUTistが​7月14日(火)にリリースする4作目のアルバム『ファルセット』特集、第2回目は、先行配信されたばかりの楽曲“時間だよ”を作詞・作曲・編曲したキーボーディスト・プロデューサーのKan Sanoと、宇野友恵、佐藤乃々子、五十嵐夢羽、横山実郁のリモート対談の模様をお届け。今までのRYUTistとは一味も二味も違った楽曲はどのようにして生まれたのか、PENGUIN DISC主宰でもある南波一海が話を訊く。 *Mikiki編集部

RYUTist 『ファルセット』 PENGUIN DISC(2020)

どちらにとっても新しいものになった​

――RYUTistサイドからSanoさんに曲のオファーがあったときはどう思われましたか?

Kan Sano「最初は〈本当に僕でいいんですか?〉みたいな感じで、大丈夫なのかなっていう不安が大きかったです。それで最初に、本当にいいんですかっていう確認を何度もした気がします(笑)」

――不安だったんですね。

Sano「僕はアイドルに曲を書いたことがないですし、いわゆるアイドル・ソングみたいなものはできないので。どういうものが求められているのかを確認しておきたいというのはありました。でも、こっちの作風をわかった上でお願いしてくれたので、それなら大丈夫なのかなってことでやってみた感じです」

――そして制作を進めていくことになり。

Sano「好きにやってくださいと言われて、それもまた困ったんです。あまりに選択肢が多すぎるというか。いわゆるリファレンスみたいなのがなかったんですよね。Kan Sanoの曲で言えばこういうのっていうのはいくつか送っていただいたんですけど、それも参考の参考の参考くらいな感じで。なので、どうしようかなと結構悩みながら方向性を考えて決めていきました」

――RYUTistが歌うというのは念頭に置きつつも。

Sano「そこはもちろん。ただ、お会いしたことがなかったので、なるべく本人たちのキャラクターを理解した上で書きたいなと思って。それでYouTubeを見たり、インタビューを読んだりもしたんですけど、それでも掴み切れなかったので、直接電話をさせてもらいました。曲を作る前に、いまどうやって過ごしているのか、どんなことを考えているかみたいな話を聞きました」

宇野友恵「ひとりずつ、1対1でお話しさせていただきました」

佐藤乃々子「びっくりしました。初めてのことなので」

五十嵐夢羽「うん。お電話だなんて」

宇野「LINEのグループを作っていただいて、〈今からできますか?〉と言われて。そのとき私がなにもなかったので最初になったんですよ。どこから話したらいいのかわからなくて緊張しました」

――結構長い時間話したんですよね。

Sano「覚えてないんですけど、20分くらいですかね?」

横山実郁「そうですね、20~30分でした」

――それぞれどんな話をしたのでしょうか。

宇野「私は一番だったのでRYUTistの歴史から話しました。あとは趣味の読書のことを話して。あのときミステリーが好きって言ったと思うんですけど、そうしたら、 “時間だよ”の歌詞に〈予想を軽く超えてくミステリー〉っていうフレーズが出てきて。これは私と話したことかなと思って嬉しくなりました」

――話したことがばっちり反映されたんですね。

Sano「させましたね(笑)」

宇野「やった!と思いました」

佐藤「私はお電話していただく前に、ちょうどKanさんが出演されていたテレビ番組を見てて。そこで電話がかかってきたので、〈テレビの人からかかってきた!〉っていう不思議な気持ちになりました(笑)。音楽についてとか、真面目な話をされるんだろなと思って緊張していたんですけど、意外と日常のこととか、私が言うのもおこがましいんですけど、お友達みたいな感じでお話ししてくださって。猫の名前を訊かれたり。〈ぽてまる〉って言ったらKanさんは笑ってました」

Sano「そうだそうだ、ぽてまる。そのときのメモを見返したら〈ぽてまる〉〈もこた〉って書いてありました(笑)」

五十嵐「私は三番目で、どんな感じが気になっていたので、RYUTistの4人のグループLINEで〈どうだった? 重たい感じ? 明るい感じ?〉って情報を探ってて」

Sano「そうだったの!?」

宇野「密告してました(笑)」

五十嵐「情報交換して、のんの(佐藤)とともちぃ(宇野)から堅くない感じだから安心して大丈夫と聞いて。そのタイミングで電話をいただいたのでリラックスしてお話しできました。友達のこととか学校のお話が多かったです。でも、電話が終わったあとに、このお話でどう歌詞とか曲に反映されるんだろうと思って。自分のことしか話さなかったので、これでよかったのかなと思いました(笑)」

横山「私はお電話の前に『想い出喫茶ヒッソリー。』(※テレビ新潟の音楽トーク番組)の収録でお会いしたので、お話しさせていただくのは二度目でした。当時は高校生だったので、学校で楽しみなことはどんなことか、みたいな話をしました。あとはKanさんの学生時代の話も聞いたり、SNSについての話をしたりしました。夢羽さんと一緒で、これがどう曲になるのかなと思いつつ、楽しくお話しさせてもらいました」

Sano「それが具体的にどこまでリリックに反映されたかというのは僕自身わからないんですけど、年も違うし、住んでる場所も違うし、RYUTistのメンバーがどんな暮らしをしているのかがわからなかったので、ちょっとでも知っておきたいという気持ちが強かったんですよね。本当はお会いできたらよかったんですけど。レコーディングのときに初めてみんなにお会いしたら、やっぱりその印象が一番強かったですね。実際に会ったらこんな感じなんだなというのがよりわかったし、メンバーの仲の良さも伝わりました」

――曲はいままでのRYUTistが歌ってこなかった形になっていると思います。

宇野「こういう曲、歌ってみたかったんです。ミステリアスな雰囲気で」

横山「最初に聴いたときは自分たちで歌うのが想像できなくて。以前からKanさんの曲を聴いていたので、もらったときは普通に〈あ、Kanさんの新曲だ〉っていう感じでした(笑)」

佐藤「〈なにこのかっこいい曲〉みたいなね。それがまさかの私たちの曲っていう」

宇野「歌いこなせるか心配でした」

横山「仮歌をKanさんが歌ってくださっていて、それでもう完成してるんですよ。これをRYUTistの曲にするために頑張らないとなって」

Sano「僕はみんなが歌っている姿を想像しながら作ってましたけど、そもそものRYUTistの音楽と僕の音楽がだいぶ離れたところにあるので、お互い歩み寄ったという感じなんですかね。僕としてはいつもの自分より、なんというか、僕のなかの引き出しではだいぶアイドル寄りと言いますか。いままで行ったことがないところに行った感じがあるんですけど、それは多分RYUTistのみんなにとってもそうで。その結果、どっちにとっても新しいものになったんじゃないかなと」

――ベースがかなりゴリゴリなのも新鮮で。

Sano「去年ビリー・アイリッシュが流行ったじゃないですか。低音が効いているのはそういう影響も多少はあるかもしれないですね。踊れるトラックにしたかったというのはあります。ライブでやってるんですか?」

五十嵐「まだやってないです」

横山「ついこの間、振り入れが終わったばかりで。バリバリに踊ってます。お客さん絶対びっくりすると思います(笑)」

宇野「色気がね」

横山「なんかクネクネしてるよね」

佐藤「タコじゃないんだから(笑)」

Sano「ダンスもいままでにない感じになってるってことですか? それは楽しみ。早く見てみたいです」

 

女の子同士のことを歌にできたらな

――新潟でのヴォーカル・レコーディング時の印象的なエピソードなどはありますか?

Sano「みんなびっくりするくらい真面目というか、素直で。それは電話のときも感じたことだったんですけど、レコーディングもその印象が強かったです。例えば、こっちがもっとこうしてとちょっと言うと、すぐにそれを踏まえて返してくれるんですよね。その素直さとスピード感はすごいなと思いました。でも、やっぱり緊張しちゃうだろうから、どうやってほぐしたらいいのかというのは考えました」

五十嵐「緊張は……してました(笑)」

横山「Kanさんが私たちに気を使って緊張をほぐそうとしてくださっているのもわかりました(笑)」

宇野「レコーディングはすごい勉強になりました。いままでは表現とかニュアンスを重視した録りかただったと思うんですけど、Kanさんのときはピッチを正確にとるということで苦戦したんです。いままでやってきたようで、じつは自分は思ったよりゆるめにピッチを取っていたのかなって気付かされました」

――これまで何年もレコーディングしてきたけれど、それでも今回はシビアだった。

宇野「シビアでした」

Sano「すみませんでした(笑)。友恵さんは最初に録ったので、全体の軸だったんですよね。あとからみんなが歌を足していくことになるので、最初が大事だよなと思って。僕は普段、あまりピッチ修正をしないタイプなんです。修正するよりはワンフレーズごとでもいいからきっちり正確に録っていきたいんですよね」

宇野「何度も歌いました。〈どうしよう。これ終わるのかな……〉って思いました(笑)」

Sano「結果的に友恵さんが一番時間かかっちゃいましたよね」

五十嵐「そうやって、先に歌った人の歌を聴きながら次の人がそれに合わせて歌っていくというやりかただったんです。その方法は初めてでした。私、人の歌につられちゃう傾向にあるんですよ。だから緊張しました。人に合わせるのは難しかったです」

――普段はそれぞれ別個に録っているから、大きな違いがありそうですよね。

五十嵐「最後の人は3人分の声を聴いて歌うんですよね」

Sano「そうですね。その方法でやるのは、なるべく後からの編集をせずに進めたかったというのが一番ですかね。ほかのメンバーの歌を聴きながら歌っておかないと、あとで合わせたときに〈ここズレてるな〉というのが出てくると思うので。でも……単にみなさんが普段どうやって録ってるか知らなかったというのもあります(笑)」

宇野「そういえば、誰もいつもと違うって言わなかった!」

横山「不親切ですよね(笑)」

――そこを自分からは言わないというのがRYUTistっぽいなと(笑)。Sanoさんのやりかたで録ると歌と歌との結びつきは強くなりますよね。

Sano「そうだと思います」

五十嵐「あと、サビの頭の部分が難しくて。〈it's time, time〉は苦戦しました。クリックを聴いてもなかなかできないんですよ」

横山「事前にメンバーで歌ったものをKanさんに送って聴いていただいたときも〈it's time, time〉のリズムが違うってことになって。そのことを教えていただいて、メンバーで何回も練習してはいたんですけど、やっぱりレコーディングになると大変で。ここはみんな苦戦した部分だと思います」

Sano「あそこは16分音符の細かい譜割りになっていて。僕はソウルとかブラック・ミュージックがルーツにあるのでそういうリズム感が普通に出るんですけど、J-Popでそのリズムはやや珍しいというか、やっぱりちょっと難しいのかなというのが実際に歌ってみてもらってわかったんですよね。僕も勉強になりました」

横山「Kanさんが手拍子しながら教えてくださるんですけど、明らかに手拍子の動きじゃないところでリズムを取ってるんですよ。だから一生懸命Kanさんを観察しました」

――ノリとかグルーヴみたいなことですよね。たしかにRYUTistはオンで真っ直ぐに歌うイメージがあって。

宇野「体のなかにかなりリズムを刻み込んでいかないといけないなと思いました」

――乃々子さんはレコーディング時に印象深かったことはありますか?

佐藤「レコーディングが始まる前にKanさんがこういうテーマで作ったよというのを教えてくださったんです。私はこの歌詞をいただいたとき、男の人と女の人のちょっと危険な感じの恋愛の曲だと思っていたんですけど、Kanさんは女の子同士の友情がテーマっておっしゃったんですよ。ええっ!と思って。女の子と女の子の友情とか恋愛の雰囲気もあるよっていう。なるほどと思ったのを覚えてます」

Sano「あの……みんなと電話で話したときに、男の話が全然出てこなかったんですよ」

一同「あははは!」

Sano「会ったこともない人にいきなりプライヴェートな話はしづらいですよね(笑)。女の子の友達と喋ったりしてるときが一番楽しいという話があったので、女の子同士のことを歌にできたらなと思って。それで、女の子同士の恋愛っぽく取れなくもない感じになりました」

――RYUTistは曲をもらうとメンバー同士で歌詞について話し合ったりするじゃないですか。今回は予想が外れてしまった。

佐藤「当たってた人いた?」

宇野「いないいない」

横山「みんな男女の恋愛だと思ってたよね」

五十嵐「でも、女の子同士だともっとドロドロな感じもする。世界がもっと色濃くなったというか、ドロドロ極まってるなって思った(笑)」

――実郁さんはほかにレコーディング時のエピソードなどはありますか?

横山「私の歌声は元気というか、スーっていう感じじゃないので、こういう大人な曲のときは基本、歌割りが少ないんですよ(笑)。でも今回はユニゾンが多いので、みんなの声を聴きながら、ひとりだけ突拍子もない声にならないようにしつつ、しっかり表現できるように意識して頑張りました」

Sano「みんながユニゾンで歌っているときの声が好きだったので、サビは4人で歌ってもらいつつ、ちょっと組み合わせを変えてふたりで歌うところも作ったりしましたね」

――そうしてできた曲の仕上がりを聴いてみていかがでしたか?

横山「かっちょよくなってました!」

五十嵐「レコーディングのときより音がいっぱい盛り付けてあって。さらにパワーアップしてました」

横山「イントロから違ったよね。別の曲になってるくらいの。主旋律だけじゃなくて、〈oh baby, oh baby, is this love?〉のハモリの部分もすごい広がりが出ていて」

Sano「あそこ、素敵な感じになりましたよね。コーラスのパート分けもなるべく平等にしたほうがいいのかなと思って。誰かが歌い過ぎると裏でケンカになったらどうしようとか思って」

佐藤「それは大丈夫です(笑)」

Sano「なので、ハモリはみんななにかしら歌ってますよね」

横山「Kanさんがその場でキーボードを弾いて、〈じゃあこの音で〉って指示を出されていたのがかっこよかったです」

Sano「いやいや、それは普通のことですよ(笑)。みんなもその場ですぐに対応してくれたので、その対応力のスピード感はすごかったです」

――RYUTistはダンスも歌も飲み込みが早いんですよね。

Sano「それは感じました。いい意味でクセがないので、どういうふうにも染められるんだなっていうのがよくわかりました。実際にお会いしてレコーディングを経験すると、もっとこういうことができるんじゃないかとか、想像が膨らみました」

佐藤「じゃあ、それを踏まえての新しい曲も……(笑)」

横山「断らないでくださいね!」

――仮に次があったら、より深いところまでいった曲ができるかもしれない。

Sano「それは本当にそうですね」

佐藤「楽しみだな~(笑)」