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部室のドアを開けたら黒田卓也がいた

――そして“Three Birds”はサンバのリズムです。サンバ=三羽=スリー・バーズって、まさかそんなことはないですよね。

「すいません、その通りなんです。ただのダジャレで……(笑)」

――すごくわかりやすい。そういうユーモアというか、ダジャレが根底にあるんですね。

「そっち寄りですよ、僕は」

――中学・高校の先輩である黒田卓也さんも、ものすごく面白いでしょう。

最近彼のPodcastに呼んでいただいたんですが、めっちゃ、ようしゃべってます」

――音楽がかっこよくて、しゃべりが面白いって最強じゃないですか。

「僕たちの部活がそういう雰囲気だったから。先輩でサックスの西口明宏、吉本章紘、もっと先輩の宮崎隆睦さんとかすごいOBがいっぱいいるんですけど、まぁなんかほんまにこうやかましく楽しく演奏してきたんですよ。みんな和気あいあいと」

――中学でブラスバンドに入ろうと思ったのは?

「入学すると、各部活が〈うちに入ってください〉とプレゼンするんですよ。そこにブラバンがバーンと出てきてドーンって演奏して、管楽器の生音を初めて聴いて、かっこいいなと思った。僕たちの中学・高校ってずっと全国大会で1位をとっていたし、やっぱりめちゃくちゃ上手かったんでしょうね。でもブラバンは第一希望じゃなかった。姉ちゃんからも〈あんた、運動部に入らなモテへんで〉って言われて、モテるためにもサッカー部に入らなと思っていたけど、たまたま友達と〈ブラバンの部室に行ってみようぜ〉って、冷やかしでガチャッてドアを開けたら黒田さんがいた」

――黒田卓也さんが?

「はい。僕がバーッと部室に入ったら目が合ったんです。いまだに覚えていますよ、〈あ、お前トランペットね〉っていきなり言われて。本人は覚えていないかもしれませんけど」

――学園物のテレビドラマみたいです。

「黒田さんが持ってきたトランペットを吹いたら、ちょっと音が出た。そしたら〈君は天才や、俺は音出るのに2年かかった。君は有望や〉って黒田さんに言われて、そのうちに、〈あ、そうなんですかね。僕、素質あるんですかね〉って気分が変わった(笑)。部活の雰囲気もすごく良かったんですよ。みんな優しくって、上下関係もそんななかったし、そんなんもあってやりやすかったですね。で、トランペット担当になりました。黒田さんはクリフォード・ブラウンが大好きで、僕も〈黒田さん、クリフォードが好きなんや。俺も聴いてみよ〉と思って実際に聴いて、かっこいいなと思ったり。その頃はとにかくいろんなトランペッターを聴いた。フレディ・ハバード、ケニー・ドーハム、リー・モーガンも好きでした」

――中学に入る前からジャズは聴いていたんですか?

「いえ。家で流れていたのはサザンオールスターズが多かったですね。母がファンだったので。父はビートルズが好きで、ギターも弾いて。クラシック・ピアノは小学校1年生の時に習わされたんですけど、いやですぐにやめたんですよ。その後自主的に弾いたりはしていましたが。それが一応最初の音楽の体験ではあります」

――そして10代の頃からプロのトランペッターとして活動を開始し、2003年にNYへ向かい、2014年に帰国します。

「NYでは音楽学校に入らず、英語学校で勉強しながら、ビザを取って音楽活動をしようと思っていたんです。マイケル・ロドリゲスにはめちゃくちゃ世話になりました。僕のお兄ちゃんみたいな存在ですね。挟間美帆さんとバンドをやっているジョナサン・パウエルとは一緒にサルサ・バンドで何度もツアーしました。NYはビッグバンドも盛んだし、新たな試みっていうのがすごくいっぱいあって、常にミュージシャンを必要としている感じです。もう閉まってしまった〈ティー・ラウンジ〉には毎週いろんなビッグバンドが出ていたんですが、毎週のように行って、全然違うコンセプトの音楽を演奏して。ある種のサークルに入ると、いろんな仕事が回ってくるんですよ。NYの頃は本当にいろんなジャンルをやっていました。ヒップホップもサルサもアルゼンチン・タンゴも。ベース奏者のペドロ・ジラウドのアルバムにも参加しましたね(ZOHOからリリースされた『Cuentos』)」


こんなに意欲的に制作できている期間はちょっと久々

――8月には、新作『The Golden Mask』と同じメンバーによる発売記念ライブが行われます。3日間連続でしかも違う場所で、相当にタフでテンションの高いツアーになりそうですが。

「とにかく楽しみです。『The Golden Mask』のレコーディング前にも、2日間ほど同じメンバーでライブをしたんです。それで音をだいぶ固めてレコーディングに挑めたのも良かったかなと思っているんですが、8月のツアーはレコーディングからしばらく空いてしまうので、また異なるサウンドが構築できるのではないかと思っています。アルバムの曲が中心になりますが、このコロナウィルスの期間に神戸市から依頼されて書いたオリジナルもあるので、それもお届けできたらいいですね」

――コロナによって、生活のリズムも相当変わったのではないですか?

「練習して曲作って三食ちゃんと食べて散歩して、こんなに意欲的に制作できている期間はちょっと久々ですよ。やっぱりどうしても、毎日忙しかったから。練習も落ち着いてできて、自分の弱点と向き合うことができた。いま、業界がすごく大変ですけど、こんな時こそ改めてこう自分の音楽を磨いて、コロナがパッと終息した時にええもんが出せるようにがんばろうと思っています」

――これからの広瀬さんがますます楽しみです。最後に読者の方にメッセージをお願いいたします。

「『The Golden Mask』はいまの自分が思っている音楽の集大成です。現在の自分のベストを素晴らしいメンバーの力を借りて、素晴らしいレーベルを通じて皆さんに送り出すことができた。自信作です。ぜひ楽しんでいただけることを願っています」

 


LIVE INFORMATION

8月1日(土)東京・お茶の水NARU
開演:19:45~/21:45~(2ステージ入れ替えなし)
料金:2,500円
メンバー:広瀬未来(トランペット)、山口真文(テナーサックス)、片倉真由子(ピアノ)、中林薫平(ベース)、山田玲(ドラムス)
詳細はhttp://ocha-naru.com

8月2日(日)愛知・名古屋Mr. Kenny's
開場/開演:18:00/19:30
料金:予約3,000円/当日3,500円/学生2,500円
メンバー:広瀬未来(トランペット)、片倉真由子(ピアノ)、中林薫平(ベース)、山田玲(ドラムス)
詳細はhttps://www.mrkennys.com/

8月3日(月)大阪・梅田ROYAL HORSE
開場/開演:17:30/19:00
料金:SS席4,000円/S席3,500円/A席3,000円/barcounter席2,000円
メンバー:広瀬未来(トランペット)、片倉真由子(ピアノ)、中林薫平(ベース)、山田玲(ドラムス)
詳細はhttp://royal-horse.jp