Page 2 / 3 1ページ目から読む

オリジナル盤の音は〈ズルい〉

オリジナル盤と再発アナログ盤のジャケットを見比べて、「ちょっと色がちがいますね」と松本さん。とはいえ、再発盤の帯にはオリジナル盤と同じ半透明の紙が使われており、再現度の高さや精密さにこだわりが見て取れます。田中さんは2つの盤を手に持ち、「再発盤のほうが厚くて重いね。重量感がある」と言います。

『FLAPPER』再発盤の裏ジャケット

まずは、オリジナル盤に針を落としてみましょう。A面2曲目の“かたおもい”をかけながら、「矢野(顕子)さんっぽいね」「ピアノが効いていますもんね」と語り合う田中さんと松本さん。

『FLAPPER』収録曲“かたおもい”。作詞作曲は矢野顕子

『FLAPPER』オリジナル盤の盤面

ここで、レコード針を田中さんの私物であるNAGAOKAのDJ-03HDにチェンジ。「音、良くないですか?」と訊く田中さんに、「そうですね! 音圧、音量も上がっていますし」と返す松本さん。

「田中さんの盤は状態がいいね」(村越さん)。「10数年前に買ったから、いまよりずっと安かったですよ(笑)」(田中さん)。

NAGAOKA DJ-03HD

TOWER VINYLは、その優れた音響システムも売りのひとつ。真空管ステレオ・パワー・アンプのMcIntosh MC275を通って、劇場用の大型スピーカーであるALTEC A5から太く力強いサウンドがぶわっと吐き出されます。まるで、音が全身に覆いかぶさってくるかのよう。

TOWER VINYLの音響システム。(上から)McIntosh MC275、ALTEC A5

そして、A面3曲目の佐藤博が作曲したメロウ・チューン“朝は君に”へと針は進んでいきます。

口々に感想を言い合う3人。「やっぱり良い音ですね。オリジナル盤は、悪く言えばモコモコした音。でもアトモスフェリックな、もわっと立ちのぼってくる何かがある」(田中さん)。「懐が深い音。贔屓にしたくなる、ズルい何かがありますよね(笑)」(村越さん)。「トータルで、あの時代の雰囲気や温度を感じられる」(松本さん)。

『FLAPPER』収録曲“朝は君に”。作曲は佐藤博

 

全然ちがう!​ 再発盤のブラッシュアップされた音

ひとしきりオリジナル盤を聴いたあとは、お待ちかねのリマスター・アナログ盤をターンテーブルに。先ほどと同じ“朝は君に”に針を落としてみましょう。

「全然ちがう!」と驚いた様子の田中さん。村越さんは「オリジナル盤は振り切れた音だけど、こっちは明瞭でバランスが良いから、方向性がちがう感じ」と応えます。

「どっちが良い音かっていうと、甲乙つけがたい……」(松本さん)。「パッと聴いた瞬間は、こっちのほうが良い音。ブラッシュアップされていて、CD寄りのハイファイなサウンドですね」(田中さん)。

『FLAPPER』再発盤の盤面

ちょっと曲を飛ばして、田中さんが「細野さんっぽい曲ですよね」と語る、A面の最後を飾る“ラムはお好き?”へ。トロピカルでファンキー、ふくよかなリズムがフロアに響きます。

『FLAPPER』収録曲“ラムはお好き?”。作曲は細野晴臣

「『FLAPPER』は、曲によってリズム隊がちがうんです」と松本さんが解説。「高水健司さん(ベース)と村上“ポンタ”秀一さん(ドラムス)、細野さん(ベース)と林立夫さん(ドラムス)とが、だいたい交互に入れ替わる構成。それによって曲のノリが全然ちがって聴こえるのが、アルバムのカラーになっていますね」。

 

繊細な音でクリアに響く“夢で逢えたら”

ここで田中さんは、さらに針を換えてみます。「ortofonのMC-3 Turboです。MCカートリッジの音は線が細いのですが、解像度が高いんです」と田中さんが語るMC-3 Turboで、名曲“夢で逢えたら”をオリジナル盤→再発盤と聴き比べてみました。

『FLAPPER』収録曲“夢で逢えたら”。作詞作曲は大瀧詠一

ortofon MC-3 Turbo

ortofon MC-3 Turboでは、高音が繊細に鳴っているように感じられます。再発盤では特にそれが顕著で、フィル・スペクター風の豪華なアレンジが特徴の“夢で逢えたら”では、カスタネットやチェンバロの音が立体的に響いてきました。音の分離が良く、リズム楽器の音がくっきりと際立ちます。

「オリジナル盤だと埋もれちゃっている音も、ちゃんと粒が立って聴こえる。細野さんのベースの柔らかさとか、高水さんのベースのファンキーさとかも」(松本さん)。「ドラムは〈木っぽい〉音がしますね」(村越さん)。「そうですね。どしっとしていて、締まった音で」(松本さん)。

(左から)松本さんと村越さん。再発盤の音について語り合っている

そのまま再発盤のB面に聴き惚れる3人。

「“チョッカイ”は、ポンタさんのドラムのフィルインがヤバい。高水さんのベースもすごくファンキー」(松本さん)。「ピアノの弾き語りの“忘れかけてた季節へ”は『扉の冬』っぽい。しみじみしちゃうね。最後の2曲(“ラスト・ステップ”“永遠に”)が達郎さんの曲」(田中さん)。「“ラスト・ステップ”はシュガー・ベイブっぽいですね」(村越さん)。

『FLAPPER』収録曲“チョッカイ”。作曲は佐藤博

『FLAPPER』収録曲“夢で逢えたら”。作曲は山下達郎

レコードを聴いたあと、SACDハイブリッド盤も聴いてみました。

「悪い音ではないけど……やっぱりちがうね」と田中さん。村越さんは「アナログの音のほうが気持ち良い(笑)。でも、ちゃんとSACDのシステムで聴かないと、本当の価値はわかりませんね」と言います。TOWER VINYLのシステムはレコード再生のために構築されているので、CDとの相性はそれほどではないのかもしれません。