ロックンロールやリズム&ブルースといったルーツミュージックへの愛とヴィンテージサウンドに強くこだわる英ロンドン出身の3姉弟、キティー・デイジー&ルイス。2023年10月に開催した来日ツアーはソールドアウト、〈朝霧JAM〉でのパフォーマンスも盛り上がり、日本のファンに向けたスペシャルCD『Singles Collection』も発表したばかり。デビューアルバムのリリースから15周年を迎え、ますます絶好調だ。
そんな3人に、ファンに囲まれたサイン会をおこなって好評だったタワーレコード渋谷店6階のTOWER VINYL SHIBUYAで、お気に入りのアナログ盤を選んでもらうことに。選盤に込めた思いについて、あるいはレコードとその音について、松永良平(リズム&ペンシル)が話を聞いた。 *Mikiki編集部
母がこのカセットを買ったせいで僕らはこうなったのかも
──まずはデイジーさんのセレクトで、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ『The Velvet Underground & Nico』(67年)です。
デイジー「私たちがまだ小さかった頃、休日になると一家でよく出かけていた。車を借りて、母とケンティッシュ・タウン※にあるウールワースに行くんだ。もう潰れちゃった店だけどね」
ルイス「ウールワースってのは何でも売ってるスーパーさ」
デイジー「その店で母はいつもカセットテープを1本買ってた。みんなで食事に出かけるときには、母が選んだカセットをかける。だから休日になるとカセットを聴きながらちょっとした旅をしていた感じ。このアルバムは、そのうちのひとつかな」
──ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコを聴きながら家族で出かけるのって、すごいというか素敵ですね。
デイジー「最高のアルバムだよね。どの曲も素晴らしい。1曲だけキーキーうるさいけど(笑)※」
──子ども心にはルー・リードが書くアンモラルな歌詞はどう感じてました?
デイジー「すごく小さかったから、歌詞はちゃんと聴いてなかったな。いいメロディと演奏を気に入ってた」
ルイス「音楽が持つエネルギーに惹かれてたんだと思う。子どもは〈何て言ってるの?〉って感じで、歌詞の世界はまだよくわからない。もっと感覚的な受け入れ方で、このアルバムの生々しさにやられてたんだろう。プロデュースされすぎていなくて、すごく生。バンドが演奏したそのままが作品として聴こえてくるんだ」
デイジー「好き勝手にやってて、ぶっ飛んでるなって思えるところがたくさんあった」
ルイス「完全にフリーフォームな音楽だよ。サイケデリックな要素は微塵もない。その根底にあるのはリズムだと思う。
僕ら姉弟の誰もヴェルヴェット・アンダーグラウンドもアンディ・ウォーホルも知らなかった。母がこのカセットを買ったせいで、僕らはこうなったのかもね」
キティー「(笑)」
──やがて物心がついて、このアルバムの存在価値や背景を知っていったわけですね。
デイジー「大きくなればいろいろわかるようになるしね。さっき、ルイスがエネルギーとリズムに惹かれたって言ってたけど、歌ってる内容もわかってくる。ドイツのバンド、ザ・ボスホス(The BossHoss)と“Run Run Run”とやったこともある。
とにかく、ヴェルヴェッツの音楽スタイルが持つ生々しさとエネルギーに、私たちが一緒に部屋で演奏を始めたときはすごく大きな影響を与えられていた。部屋でやってることを純粋に楽しむうえでね。何かすごく凝ったことをしようとするんじゃなくて」