大学時代の楽しかったことを入れ込みたい
――現在、成山さんは福岡在住、餓死さんは都内にお住まいで、曲作りはどのように行っているんですか?
成山「最初に楽譜を書いたらそれをDTMに入れて曲にして。歌詞を書いて、僕が仮歌を歌った状態で餓死ちゃんに投げるんです」
餓死「そのデータをいただいてから、私がヴォーカルと最近はギターのコードを入れて、送り返してミックスしてもらって。前まではどちらも東京にいたので一緒に録ることもあったんですけどね」
――歌詞はどう作っていますか?
成山「いくつかパターンがあって、思い浮かんだワードから連想して韻を踏んでる言葉をはめていく方法と、小説とかを読んだ後にその小説の世界観をモチーフにして歌詞を書くパターン。あとは純粋に面白いと思うワードをふざけてバンバン入れていってギリギリ歌詞として成立させていくパターンですね」
――歌詞はやっぱり〈レトロ〉という世界観を大事にしてる?
成山「レトロっていう単語はすごい曖昧で、1920年代の大正モダンをそう呼ぶ人もいれば、大量生産・大量消費の昭和レトロの時代のことをイメージする人もいる。人によっては30年経ってしまったらレトロだっていう人もいるし、それぞれの解釈はあると思うんです。でもいずれにせよ、そのどこかに当てはまるような形で書こうとは思っています。
それと、友達に言われたのが歌詞が衒学的らしいんですね。僕の知識をひけらかすような要素がめちゃくちゃ入ってる、と。例えば〈ヘミングウェイ〉とか〈ウラジオストク〉みたいな単語が出てくるからなのかもしれないですけど。でも聴く人の知的欲求を満たせられればいいかな、みたいなことは思ってますね。ちょっとミステリーな部分があったり、〈これって何のこと言ってるんだろう?〉って思うことがあったりして、調べて知らないことを知ってもらえたらうれしいです」
――よく東京の地名も出てきますよね。
成山「いちばん出てくるのが新宿とか西八(西八王子)といった京王線の地名なんですけど、それは卒業制作だった時の名残ですね。僕が大学時代に部活でよく多摩に行ってて、そこで起きた楽しいことを卒業制作に入れ込みたいと思って」
――餓死さんは知ってました?
餓死「そういう話もしますね。初めて聴いた曲が“新宿経由で三千回”で、あれって京王線の曲じゃないですか。私も大学が多摩のほうだったから親近感を感じて」
成山「電車で会ってるかもしれないね」
餓死「もしかしたらね」
――餓死さんが歌う時に成山さんから注文とかはありますか?
餓死「“私の大総統”は最後のサビで〈巻き舌にしてもらえますか〉って言われましたけど、普段は優しいですね」
成山「基本注文はしないですね。何も言わなくてもいいものが返ってくる。まず音程を外さないんですよ」
餓死「いやいやいや」
成山「一発で綺麗な音程がハマってくる。感情を込めないで歌ってもらってるんですけど、感情を込めてほしいところだけ言いますね」
餓死「語尾を切りがちなので語尾伸ばせとかね」
レトロかモダンか、答え合わせしてください
――今回『タワレ娘』というミニ・アルバムと、ファースト・アルバム『1限目モダン』を立て続けにリリースすることになりました。まだライブを一度もしていないようなお二人がどうやってリリースすることになったんですか
餓死「なんでなんですかね(笑)」
成山「まだ3曲しかアップしてない時、大学を卒業していよいよ来週から就職するという3月30日に、当時一緒に住んでた友人が〈成山さん、デモテープ送った方がいいですよ。送らなかったら後悔しますよ〉って言うんです。それでいくつか送ったなかからactwiseさんがすぐにコンタクトを取ってくださって、リリースに向けた話になっていったという感じです。まだ全然曲も出してないのに、ありがたかったですね」
――光るものがあったんでしょうけど、社会人1年目なのにすごい展開ですね。大学時代そこまで本気ではなかった人が、いまどうしてそこまで創作意欲が出るんでしょう?
成山「歩いてるとメロディーが浮かぶんですよね。それをボイスメモで残しておいて。仕事が終わって曲を書いて、土日で一気に仕上げるみたいな生活をしてます。曲が出来るスピードはすごい早くて」
餓死「なんかすごい作曲家っぽいですね(笑)。天才じゃない(笑)?」
成山「(笑)」
――2作品に分けた理由は?
成山「まずはタワレコ限定で名刺代わりのミニ・アルバムを出して、次にフル・アルバムを、ということですね。配信もしますけど、物としても価値を残したいと思ってます」
――『1限目モダン』というタイトルは?
成山「レトロとモダンって相反しているようですけど、いま見たらモダニズム建築ってレトロですよね。要するに、どこに視点を持つかでレトロもモダンも意味が変わっちゃうワードなので、そこがいいなと思って。今回は学校ソングも多いので、さっき言ったように学生時代に思ったことを女子の主人公に言わせているから、というのもあります。5限目くらいまではシリーズ化させたいですね」
餓死「そうそう、レトロかモダンか、答え合わせしてくださいって感じですね」
――そういえば、キャッチコピーも〈こたえあわせをしよう。〉となっていますね。
成山「音源を聴いていつかライブを観た人が〈こういうアーティストだったんだ〉と思ってもらうのもいいし、リード・トラックが“さんすうのこたえ”というのもあり、楽曲に聴いてる人のいろんな想像を詰めてもらえたらいいなと思って」
――たしかに。餓死さんのツイートを見ていて、もっと過激な人かと思ったらそうでもないし、まずひとつ答え合わせができました(笑)。
餓死「なんでですか~! ひどい!」
――(笑)。バンドを組んだこともないし、ライブを経験してない、というお二人ですが、今後はどのように活動していくんですか?
餓死「ライブはもちろんしたいです」
成山「したいですね。集団行動と対バンしたいです」
餓死「(笑)。デカく出たね。私は『みんなのうた』に出たいです。でも自分の名前がNHK的にアウトなんじゃないかという気もしています」
――そこは玉袋筋太郎さんのように名前を変えるとか。
餓死「(爆笑)。マルチに活動していきたいですね。あとは、〈しゃにかま〉な人に聴いてほしいです」
成山「僕たちがそうなんですけど、ちょっとズレてるような人ね」
餓死「ひねくれてる感じの人こそ、〈分かるわ〉ってなるかもしれないよね」