独学で作詞作曲編曲を学び、全楽曲を手掛ける成山まことと、サブカルとバンドを愛し、アイドル経験もある佐藤餓死による男女ユニット、レトロな少女。ミュージック・ビデオという形でYouTubeに曲を上げ続け、どこか懐かしさの残るサブカル度の高い楽曲とセンスあふれる映像によって徐々にフォロワーを増やしていった。まだ曲を配信したことも、デモCDを売ったことも、バンドを組んだことも、ライブをしたこともない二人だが、8月5日(水)にはタワーレコード限定ミニ・アルバム『タワレ娘』(たわれこ)を、そして9月9日(水)にはファースト・フル・アルバム『1限目モダン』をリリースする。二人の実態を知るべく、彼らにとっては初となるインタビューを行った。
いわゆる〈真部脩一っぽい音楽〉を自分の手でもやろうと思った
――個人的には、レトロな少女のことを橋本アンソニーさん(進行方向別通行区分の元ベーシスト/弁護士)へのツイートで知ったんですけど、それもあってかアンソニーさんが関わっていた進行方向別通行区分や古都の夕べ好き、もっと言っちゃえば、その周辺でも一番影響力の大きかった相対性理論のフォロワーなのかなと最初は思ったんです。でも、YouTubeで次々発表される曲を聴いていると〈それだけではないな〉と思って、何度か連載でも取り上げさせていただきました。
成山まこと・佐藤餓死「ありがたい~」
――まずはお二人のことを詳しくお訊きしたいのですが、成山さんは独学でDTMを学んで、レトロな少女以前もユニットをやってらしたんですよね。
成山「はい。もともと作曲が趣味で、高校の頃から打ち込みで音楽を作ってたんです。その頃は音楽で生きていきたいと思っていて。でも大学に入ってからは〈音楽は趣味でいいかな〉と思い、同じ寮の友達と遊びでやる程度だったんです。とはいえ音楽理論や楽器を習ったこともないし、ライブどころかバンドもやったことないし。単音を増やしてコードにして、曲を作るくらいですね」
――そんな人がCDリリースまでしてしまうのがおもしろいですよね。レトロな少女は最初は別の方がヴォーカルで始動しますけど、お二人はどうやって出会うんですか?
餓死「私は昔から音楽アプリのnanaで相対性理論とかのカヴァーを上げてたんですよ。で、成山さんが〈相対性理論のカヴァー〉で検索して見つけてくれたみたいで、〈いいね〉をくれたんです。で、オリジナル曲を上げてるので聴いてみたらめっちゃ好きな感じで。そしたら〈ヴォーカルをやりませんか?〉ってメッセージが来たんです」
成山「餓死ちゃんの前に頼んでたヴォーカリストが4人くらいいたんですけど、全員予定をすっぽかす人か〈なんか合わないな〉って人だったんです。nanaだったら同じ音楽が好きないい人と出会えるかなと思ったんですよね」
――お二人が共通して好きな音楽というのは、相対性理論の他には?
成山「集団行動。あとはラブリーサマーちゃん」
餓死「あとsympathy。みんな女性ヴォーカルで」
成山「かわいくて、でもエッジが効いてて。メロディーがペンタトニックのスケールを駆使していて、どこか懐かしさもあるような、そんな音楽が好きですね」
――レトロな少女という名前の由来は?
成山「僕がレトロチックなものが好きなだけなんですけど。そもそもレトロな少女は大学の卒業制作として始めて」
――YouTubeに最初に上げた“私の大総統”は卒業制作だったんですよね。
成山「そうです。大学を卒業する前にもう一度音楽を本気でやりたくなって、そのきっかけが集団行動のライブだったんです(2018年11月に行われた全席指定着座公演〈Sit down, please〉)。あのライブによって〈これは本気で音楽やりたいぞ〉となってしまって、それでいわゆる〈真部脩一っぽい音楽〉を自分の手でもやろうと思ったんです。で、そういう音楽をどういうプロセスで文字化したり視覚化したりすればいいかなって考えた時に、カギになるのは〈懐かしさ〉だと思ったんです。だから〈レトロ〉という言葉と結びつくんじゃないかなと」
――なるほど。たしかに真部さんの音楽には懐かしさを感じます。〈少女〉というのは?
成山「やっぱり女性ヴォーカルが良かったし」
餓死「語感もありますよね。どこかサブカルチックで」
――そうして卒業制作からレトロな少女がスタートして、成山さんは餓死さんと出会います。餓死さんのどこが良かったですか?
成山「やっぱり声ですね」
餓死「恥ずかし!」
――餓死さんはこの前、歌に自信がなさそうなツイートをしてましたけど、いい声ですよね。
成山「それまでのヴォーカリストも含めて、ウィスパー・ヴォイスで、あまり感情を込めないような歌い方の人を求めてたんですけど、いちばん思い描いてた歌声に近かったんです。吐く息が多くて、聴いててまったく疲れない感じ。〈これは是が非でも手に入れたい〉って思って」
餓死「照れるわマジで」
――そんな餓死さんはアイドルのオーディションを受けたり、実際にアイドルとして活動したりもしてたわけですが、もともとは何になりたかったんですか?
餓死「何かになりたいっていうヴィジョンが見えてるわけでもなく、ヒマだから何か活動したいっていう気持ちだけが大きくて。で、大学の先輩から〈アイドルやってみたら?〉って言われたからオーディションを受けてみたり、誘われたから歌ってみたりしてました。ちょうど大学をサボってる時期で」
――その何かになりたいというヴィジョンはいまは見えてきましたか?
餓死「だいぶ見えてきました。レト女で大成したいですね」
レトロな少女らしさとその音楽を視覚化して結びつけたMV
――こうして出会った二人がYouTubeにどんどん楽曲を上げていって、2019年だけで11曲もアップしています。そのなかでも特徴的なのが、MVに必ず女性が登場しますよね。
成山「もともと音楽だけで発表してもよかったんですけど、発信するのをYouTubeにしたくて。どうせYouTubeで出すんだったら動いてる絵のほうがいいし、レトロな少女らしさとその音楽を視覚化して結びつけたほうが面白いと思ったんです。で、禁断の多数決というグループの動画を観ていた時に、かわいい女の子が出てくるんですけど、完成された映画みたいな感じではなくて、ノスタルジーを感じる遊園地が舞台だったり、虹色のエフェクトがかかっていたり、いい意味でB級グルメみたいなんです。〈これがいいぞ〉〈レトロな少女にもピッタリ合うはずだ〉と思い、自分で作り始めたのがきっかけですね」
――音楽面では真部さんの音楽、映像では禁断の多数決を参考にしつつも、それだけではただのパクリですよね。それらとはどうやって差別化を図ろうと思ったんですか?
成山「音に関しては、実は最初はできるだけ極端に真似をしようと思ってました。コード進行も近いものを使ってみて、ギターの音も単音でポンポン鳴る感じにして。でも何曲か作っていくうちに、僕がいままで聴いてきた他の音楽の要素も入ってきて、〈だったらそれはそれでいいか〉って思うようになっていったんですね。例えば〈この曲はピアノのリフが入ってくるし、ピアノの音も強いし、集団行動っぽい音とは違うけど、それもいいか〉って。
映像はどうかな……。禁断の多数決のMVはタランティーノ監督の映画とかに影響を受けてるのかな、なんて勝手に推測してるんですけど、それに比べると僕らはもっと和風で、子供の頃に好きだった場所とか本に出てきた場所を使って表現してます」
――中野ブロードウェイとか(笑)。
餓死「あのMVからやっと私が出ました(笑)」
――餓死さんは毎回MVに出るわけじゃないんですよね。
餓死「当時アイドル活動をしてたというのもあるし、最初はあんまり顔を出したくなかったんですよ」
成山「僕は〈餓死ちゃん顔出せばいいじゃん〉って言ってるんですけど、出ないって言い張って」
餓死「だってコンプレックスだらけの恥ずかしい顔で(笑)」
成山「1作目のMVから当時のヴォーカリストが〈MVに出たくない〉というので知り合いの子に出てもらって、餓死ちゃんになっても餓死ちゃんも〈出ない〉というので、これで突っ走るしかないと思ってます」