複雑な感情をストレートなR&Bに昇華してきた繊細な表現者が、メジャー・デビュー10年を数えて最高傑作を完成! 伝統と現代性を内包した『Kehlani』は何を歌う?
ルーツとキャリアの集大成
2020年に発表したアルバムのタイトルで〈ダメになるまではよかったんだけどね(It was good until it wasn’t)〉と謳っていたケラーニは、恋愛をテーマに、嘆きや怒りをエモーショナルに歌い上げながらみずからを労わってきた。が、このたび発表した新作『Kehlani』では、トラウマを主題にしていた過去と訣別し、喜びを歌う作品として、シンプルに音楽の楽しさへ重心を置いている。
ファースト・アルバム『SweetSexySavage』から今年で10年。遡れば、地元カリフォルニア州オークランドで、故ドウェイン・ウィギンス(トニー・トニー・トニー)の息子ディラン・ウィギンスたちとポップライフというバンドを組み、2011年には人気オーディション番組「America’s Got Talent」でお茶の間を沸かせていた。その後ソロとなり、2014年には初のミックステープ『Cloud 19』を発表。当時19歳だったケラーニも、いまや30代となり、一児の母親でもある。去る4月24日、31歳の誕生日に発表した『Kehlani』は、そんな自身の音楽ルーツとキャリアの集大成と言えるアルバムだ。
昨年、先行シングルの“Folded”が自身最大のヒット(全米6位)となり、今年のグラミー賞で〈最優秀R&Bソング〉と〈最優秀R&Bパフォーマンス〉の2部門に輝いたこともアルバムへの追い風となった。ドラマティックなストリングスで始まる同曲では、関係を終わらせようとしている恋人に〈服を取りに来て……ちゃんと「畳んだ」から〉と告げながら、〈でも、心はあなたに「抗えない」〉と、〈Folded〉という言葉に複雑な感情とエロティックさを重ねて歌う。この曲はEP『Folded Homage Pack』に6種のリミックスが収録され、新作の日本盤CDにはニーヨ、トニ・ブラクストン、ブランディによるそれぞれの客演版がボーナス収録されている。残る3組の客演陣は、ジョジョ、マリオ、タンク。つまり6組とも2000年前後のR&Bを彩ったシンガーであり、今回のニュー・アルバムは同リミックスにおける人選の延長線上にある。
