Keith's Counterpoint

いま音楽業界の話題をさらうTikTok

いま音楽業界の話題をさらうTikTok

最近、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)向けに音楽関連の仕事をしていた友人に連絡を取ったところ、仕事を辞めて中国のスタートアップ企業、バイトダンス(ByteDance)のTikTokに参加したと聞いて驚いた。トリプルA企業の仕事を辞めて中国のスタートアップに参加するなんて彼はおかしくなったのだろうか。そう考えた私はこの会社について調査を始めた。バイトダンスは15秒のビデオをアップロードできるプラットフォームを提供する会社である。すでに時間制限なしにビデオをアップロードできるし、世界中どこからでもアクセスできるYouTubeがあるにもかかわらず、これがなぜ人々の興味を引くのだろうか? 若者層の自己表現のツールとして魅力があるのだろうか――奇妙だったり、笑えたりするビデオを、ある程度限られた層でシェアするような。この私の考えは、半分当たっていたが、もう半分は、かなり、いやとても、ピントがずれたものだった。

 

現在、TikTokは音楽業界の話題をさらっている。コンテンツが若者層向けという私の読みは当たっていたが、年齢層というだけではない激しいインパクトを音楽業界に与え、さらに業界の将来を占う試金石ともなっている。どれくらいのものかとの疑問に答えよう。2017年9月に国際市場にローンチされたこのアプリは、2019年2月には10億ダウンロードされている。モーガン・スタンレーやゴールドマンサックス、KKRやソフトバンクなどの大企業から投資を集め、780億ドル(日本円で約8兆3千9百億円/2020年5月のレート)の事業価値があると試算されている。音楽レーベル世界最大手のユニバーサル(事業価値5兆ドル)、ストリーミングの最大手Spotify(事業価値2兆5千億ドル)をも優に超えている。TikTokは世界150か国、75言語で提供されているが、中国では、共産党の情報制限範囲内で似たようなサービスを提供するDouyin(抖音)があるためか、提供されていない。

このリーチの長さから考えると、このアプリはミュージシャンに大きな収入の可能性をもたらすように見える。が、必ずしもそうとは言えない。

中国は、こと著作権を無視することに関しては非常に著名な国である。TikTokは音楽メジャーと何らかの協定を結んでいるようだが、内容は不明で、定額報酬か、視聴数のパーセンテージに対する金額ではないかと言われている。しかし、TikTokはインディーズを含む多くの音楽コンテンツに対する使用許諾権を持っていない。また、TikTokに上げられるビデオの多くは、音楽に対してきちんとクレジットを表記していない。音楽業界サイトのPitchforkはこの件についての記事を発表し、iLOVEFRiDAYの“Mia Khalifa”という曲が400万以上のビデオで使用されていたにも関わらず、著作権保有者であるパキスタン系アメリカ人のスモーク・ヒジャビ(Smoke Hijabi)には1ドルの収入にもならなかったという。

ミア・カリーファという元ポルノスターをディスったことで話題となったiLOVEFRiDAYの“Mia Khalifa”
 

YouTubeと同様に、TikTokはアメリカのデジタルミレニアム法(書面での抗議を受けた場合、会社が当該ビデオを削除すれば法廷での闘争を避けることができるという法律)に隠れることができるという訳だ。新人アーティストの中には、名前を売ることができれば無料で楽曲を使用されることにこだわりがない人もいるだろう。しかし、すでに確立されたミュージシャンは、同じように許容する人ばかりではない。ただ、その中でも、ジャスティン・ビーバーのように新曲披露にTikTokを使うミュージシャンもいる。

驚くべきことの一つに、TikTokでの人気曲とビルボードチャートがほぼ重ならないということがあるだろう。このアプリで最大の人気を誇る曲は、無名のアーティストによるものが多く、かれらの出身国も多彩(日本も含まれる)で、ジャンルも問わない。

 

金銭問題以外にも、このアプリに対して音楽ファンが問題提起をしていることがある。

iTunesやYouTubeが〈アルバム売り〉というコンセプトから撤退し、曲売りをメインに事業展開していることにようやく慣れてきたユーザーも多いだろう。TikTokは、さらに短く、音楽も15秒という切れ端でしかない。当然のように、使用される部分は笑えたり猥褻だったりするものに偏りがちで、多くがあからさまにセクシャルなラップのトラックとなる。

16歳以下の女性がこのアプリを使用するべきではないという人も多い。理由としては、彼女たちが淫らな曲に合わせて踊ることや、過剰にセクシャルな踊りをネットで拡散するからだ、という(訳注:アメリカでは若年層に対する性犯罪に対する忌避感、罰則が非常に強く、予防策を講じることにも熱心だ)。

他にも、アメリカ軍は、このアプリが諜報目的で使われるとし、兵士がTikTokをダウンロードすることを禁止している。アラブ首長国連邦では政府が、このアプリを使って市民をスパイしていると糾弾された。バイトダンス自体は自社のウェブサイトに、ユーザーを分析することにより〈我々は世界が知ることのなかったマシン・インテリジェンスの新たな領域に踏み出すことができたのだ〉と表明している。

 

また、業界の推移を見守る人々は、エンターテインメント業界でのパワーシフトに驚きを隠せない。1986年には、6つのメジャーなレコード会社、コロムビア(アメリカ)、EMI/キャピトル(イギリス/アメリカ)、MCA(アメリカ)、ポリグラム(オランダ/ドイツ)、RCA(アメリカ)、ワーナー(アメリカ)が業界に君臨していた。現在、メジャーと言われるのは3社、ユニバーサル(フランス)、ソニー(日本)、そしてワーナー(プーチンの取り巻きでもあり、現在イギリスのパスポートを所持するロシアの大富豪レン・ブラヴァトニクが支配する複合企業が所有。現在サウジアラビア政府が購入を考えているとの噂がある)だ。最近、中国の企業、テンセントがユニバーサルの株式の10パーセントを購入、さらに10パーセントの追加購入を検討しているという。テンセントはスポティファイの7.5パーセントも所有している。

TikTokで使用される音楽の影響力も非常に強い。多くの人がダンスを披露し、口パクで歌マネを披露し、スキットを作り、歌に合わせてポージングをする。一つでも有名になるものがあれば、多くのユーザーが真似をし、別ヴァージョンをつくり、披露する。結果として、このアプリは新曲のお披露目に効果的であることを証明し、メジャー・レーベルでもプロモーションにこのプラットフォームを利用している。しかし、TikTokは新曲のみならず、懐メロやカルト的人気のトラックも使われ、それらの曲が新たなブームを巻き起こす一助となっている。

また、TikTokのパフォーマーが人気になり新たなセレブとなることもある。数々の若者たちが200万フォロワーを超えるファン層を獲得しているのだ。新たなスラングも生まれている。〈e-thot〉(thotはThat Ho Over Thereの略、出たがり女子、目立ちたがり女子の意)はオンラインで注目されたい、有名になりたい女子を意味する新語だ。例えば――

かのあい♡(marumaru8)――日本人のダンス女子で、アメリカのヒップホップ・スーパースター、ミーガン・ジー・スタリオンの曲に合わせて踊る。TikTokで25万フォロワーを誇る

@marumaru.8

🐯❤️大阪魂

♬ Savage - Megan Thee Stallion

 

最後に、いくつか動画をご紹介する。

@georginamazzeo

Mondy mood 😎🌊 ##fyp ##foryou

♬ Dura - Daddy Yankee

Georgina Mazzeo(@georginamazzeo)――ダディ・ヤンキーの“Dura”に合わせて、セクシーな夏のレゲエ・ダンス

 

@kyoka_a.smiley

地雷メイクしてみた##顔だけどあっぷ ##おすすめ ##地雷 ##闇 ##病み

♬ kream bebiisan edition - bebiisan

安藤京香(@kyoka_a.smiley)――ユーモラスなイギー・アザレアの“Kream”

 

@melissabecraft

Make it rain finale. 🌧 ##flashdance ##maniac ##raindance ##MagicMoment ##dancer

♬ Maniac (Flashdance Version) (Re-Recorded / Remastered) - Michael Sembello

melissabecraft(@melissabecraft)――映画「フラッシュダンス」で大ヒットになったマイケル・サンベロのヒット・ソング“Maniac”を雨で踊れば

 

 

【プロフィール】
キース・カフーン

キース・カフーン (KEITH CAHOON)

キース・カフーン - 家族代々カリフォルニア育ちの4代目。人生のほとんどを音楽に費やしてきたその職歴には、サクラメントでのレコードショップ店員、輸入盤/インディーズ盤の販売会社経営、ロンドンでのA&R業務、日本のタワーレコードの社長兼CEO、iTunes Japanの取締役、自身が立ち上げた音楽出版/コンサル会社のオーナー兼経営者、はたまた多種のメディアでのライターとしての数々の幅広い活躍が含まれる。昨今はアジアおよび北欧の音楽シーンにも深く携わり、造詣が深い。28年間の東京生活を経て、現在はカリフォルニア州バークレーに在住――Keith Cahoon is a fourth generation Californian, who has worked in music most of his life, including stints as a record store clerk in Sacramento, running an import and indie distribution company, doing A&R in London, CEO of Tower Records Japan, Director of iTunes Japan, owner/operator of his own music publishing/ consulting company Hotwire K.K., and as a writer for a wide range of media. He has also been extensively involved with Asian and Nordic music. After a 28 year of living in Tokyo, he now resides in Berkeley, California.

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