前野健太のアルバム『ロマンスカー』『さみしいだけ』『ファックミー』が各種音楽サブスクリプション/ストリーミング・サーヴィスで解禁された。
シンガー・ソングライター、前野健太の〈初期三部作〉と呼ばれる『ロマンスカー』『さみしいだけ』『ファックミー』の3作。新たな〈うたもの〉ムーヴメントの火付け役となった、いずれも代表曲と言える名曲が並んだファースト・アルバム『ロマンスカー』(2007年)。すべての楽器をみずから演奏した、完全ひとり多重録音のポップ・フォーク・アルバム『さみしいだけ』(2009年)。そして、人気が急上昇するなかでリリースされた、キャッチーに突き抜けたロックSSWの真骨頂『ファックミー』(2011年)。これらの3作が、本日8月14日に各種音楽サブスクリプション・サーヴィスで配信開始されている。
いずれも、いま聴いても輝きをまったく失っていない傑作で、私にとっても大変思い入れのある作品。2020年の世界にも変わらずに響く珠玉のうたの数々を、ぜひこの機会に聴いてほしい。
また、これを記念して、長編アニメーション映画「音楽」(2019年)の岩井澤健治監督による手描きアニメーション・ビデオ“ヒマだから”(『ファックミー』収録曲)がYouTubeで公開された。このビデオは2011年5月の『ファックミー』レコ発ライブで上映されたきり眠っていた、幻の作品だという。
前野健太からのコメントは以下のとおり。
初期三部作サブスク解禁に寄せて
13年前に勝手にCDを出してデビューということにしました。
今では「シンガーソングライター」という肩書きをつけていますが、
すべてはこの最初の作品群からはじまった、単なる「でっち上げ」にすぎません。
誰もCDを出そうなどと誘ってくれはしませんでしたが、燃え盛っていました。
一撃をくらわしてやる、とよく言っていましたが、それはたわごとで、
でもそれがなければ走り出さなかった車もあったのでしょう。
今聴くと、たとえばセカンドアルバムの『さみしいだけ』なんかは、
一音一音に明確な意思を感じます。指が見えます。演奏している手、その指が。
たとえば誰かの気持ちを振り切って、この一音を録らなきゃいけないんだ、という気持ち。
不思議なのは、愛情から逃げるように選んだ一音が、結果的に何かに手を伸ばしているということ。
一人の女性の顔を思い出します。
一音一音を聴きながら、影のプロデューサーはこの人だったんじゃないだろうかと、
思いました。男はいつだって女にはかなわない。ただ風を見て、歌を紡ぐだけ。
そんな時代遅れな歌がたくさん詰まったアルバムたちです。
街の中で気軽に聴いていただけたら幸いです。
猫が、マンションが、空が、夏草が、静かに揺れると、
少しだけ明日が見えてくる。
特別じゃない夏なんてあっただろうか。
2020年8月14日
前野健太
なお、又吉直樹の恋愛エッセイを原作とする映画「僕の好きな女の子」では、『ロマンスカー』収録曲“友達じゃがまんできない”が主題歌・挿入歌として使われている。渡辺大知(黒猫チェルシー)演じる主人公の加藤が、つかみどころのない性格のヒロイン・美帆に翻弄される様子が描かれるこの恋愛映画は、本日公開。こちらもぜひチェックを。