インタビュー

映画「ソワレ」小泉今日子と外山文治が語り合う、制作会社〈新世界〉の初プロデュース作

映画「ソワレ」小泉今日子と外山文治が語り合う、制作会社〈新世界〉の初プロデュース作

日本映画界に新風を! 注目を集める映画制作会社、新世界。
発起人の小泉今日子と外山文治が第一回プロデュース作品「ソワレ」を語る

 俳優の豊原功補、小泉今日子、映画監督の外山文治らが立ち上げた映画制作会社、新世界。日本の映画界に新しい風を吹き込む彼らの第一回プロデュース作品は、外山監督の長編映画「ソワレ」だ。村上虹郎と芋生悠を主演に迎えた本作は、和歌山の田舎町を舞台に若い男女の逃避行を描き出す。デビュー以来、国内外で高い評価を得て来た新鋭、外山文治。そして、アソシエイト・プロデューサーとして脚本作りから撮影まで密接に関わった小泉今日子に話を訊いた。

 

――「ソワレ」はどういう経緯で、新世界で制作することになったのでしょうか。

小泉今日子「監督から短編3本をまとめたDVDを頂いたんですけど、そのなかの『此の岸のこと』という作品が衝撃的だったんです。映画が終わるまで体が動かなくて、観終わったあとにセリフがひとつもなかったことに気づいた。それくらい、セリフがなくても登場人物の感情が伝わってきたんですよね。そのあと、共通の友人を通じて監督に会って話をしたんですけど、DVDの制作から発送まで全部一人でやられていることを知って、こんな才能がある人がそういう雑務に時間を費やしているのはもったいない!と思いました。その時、何か一緒に出来たらと豊原さんも思っていたようでした」

外山文治「その頃、和歌山で映画を撮らないか、というお話を頂いて。それで豊原さんと小泉さんに相談しました」

小泉「運命が作用する出来事ってスピード早いんだよね。豊原さんが、手伝うんなら本気でやろうと言って会社を立ち上げてくれました」

――「ソワレ」のために新世界を立ち上げたんですね。脚本に関しては、監督を中心に豊原さんや小泉さんも関わって意見を出し合ったとか。

外山「僕が和歌山で合宿して書いた叩き台のようなプロットを二人に見て頂いて、1年くらい時間をかけて本打ち(脚本の打ち合わせ)をしました」

小泉「いろいろしつこく言わせてもらいましたね。長編だし、台本はきっちり作り上げておいた方が良いので。でも、監督が一人で時間をかけて考えても、同じところに辿り着けたのかもしれないけれど」

外山「いや、一人だと変にバランスを考えてしまうというか。〈長編映画ってこんな感じだな〉って折り合いをつけてしまったと思います。そうじゃなくてもいいっていうことを、二人から教えてもらった。〈リスクなんて考えずにやれ!〉って言われるのは幸せなことではあるんですけど、そこで〈やります!〉って言えるところまで行くのに時間がかかりました」

小泉「洗脳外しだね(笑)。今の映画界とかエンタメ界って、きっとこういう企画なら通るだろうな、というもので作られているものが多い。でも、誰かが歩いたところをなぞって行くよりも、自分の足で歩けばいいんだよ」

外山「確かに洗脳外しですね。今、役者は演技を磨くよりも、ツイッターのフォロワーを増やす努力をしている。そういう話題性ではなく、演技がよければ採用するっていうのは新しいやり方なんですか?」

小泉「新しくはないよ。私たちの頃はそうだった。例えばアイドルとして売れてても、映画の世界に入ったら最初は脇役で、いろんな役者さんの演技を見て勉強した。アイドル映画と呼ばれるジャンルがあったけど、それは別枠とされていた。今はそういう境界線が曖昧になっちゃっているのかもしれないね」

――その点、今回の映画は役者の演技や魅力をじっくり見せる作品ですね。ヒロインのタカラ役を芋生悠さんに、というのは監督の強いこだわりだったとか。この映画で注目を集めることになりそうですね。

外山「芋生さんはエネルギッシュなんだけど素朴で、昭和の女優さんみたいな佇まいがあるところに惹かれたんです。彼女だったらタカラの犠牲者という面だけではなく、ひとりの人間として再生していく姿を描けるんじゃないかと思って」

小泉「映画を撮り終わって編集をやっている時、翔太に手を取られてタカラが走り出す映像を見た瞬間に、彼女で正解だったと思いました。彼女の肉体が持つエネルギーがキラキラ輝いていたんです。お父さんにひどいことをされて心は幼い頃のままで固まっていたけど、男の子が手を引いてくれたことで心が身体にぱっと追いついたのが見えたんですよね」

――この映画は二人の走る姿を見せる映画でもありますよね。自然の中を、街の中を、二人が駆け抜けて行く。その躍動感、生命の輝きをカメラが捉える。

小泉「そう、二人の若さをね。若いからあれだけ走れるし、走ってる姿がきれいなんです。二人とも身体能力が高かったし。二人が宙に浮いているスチールもあるんですよ。まるで空を飛んでるみたいに」

外山「走るシーンが重要になるとは思ってたんです。二人とも解放されたがってるから。でも、ここまできれいなフォームで走れるとは予想してませんでした」

小泉「それと走ってるシーンに、蝉の声とか水のせせらぎとか、監督が意図的に入れた祭り囃子とか、そういう自然音がすごく合ってて。この作品は音楽をほとんど使ってないんですけど、自然音で持ってっちゃう」

――確かにロケーションも良かったですね。新緑の山や海の青など色彩が鮮やかで。

外山「地元の皆さんが映画プロジェクトを立ち上げてくださったんですけど、撮影が入るのが初めての町で(風景に)手垢がついてないんですよね。まだ誰も撮っていない自然のなかで撮影できたのは幸せでした」

――ロケーションが翔太とタカラの生命力を際立たせてました。逃避行のなかで二人の関係は少しずつ変化していきますね。

外山「二人がぶつかりながら、自分に対して新しい価値観を見出すところを描きたいと思ってました。なので、交わるようで交わらない二つの個性、みたいなところは大事にしたつもりです。そういう関係性は虹郎くんと芋生さんの間でも意識していただろうし、虹郎くんが芋生さんをうまく引っ張ってくれているのもわかりました」

——役に関して主役の二人といろいろディスカッションされたのでしょうか?

外山「僕は登場人物の履歴書みたいなものを書くんです。それを役者に見せる時もあれば見せない時もあるんですが、今回は見せましたね。二人とは個別に役について話をしたし、撮影に入ってからも疑問があれば、その都度、ディスカッションしたので二人ともイメージ通りでした」

――小泉さんは連日、撮影現場に立ち会われたそうですが。〈女優〉小泉今日子から見て監督の演出はいかがでした?

外山「うわー、嫌な質問だ(笑)」

小泉「私だったらボロクソ言ってたかもね(笑)。若い俳優さんと監督だったから、これでもありかな、と思ってたけど。やっぱり、私はフィルム時代に自分にとって重要な監督に出会っているので、本番を回す時の意識が古臭いところがあるかもしれない」

――簡単に撮り直しが効かない緊張感があった?

小泉「そう、それが強いかも。(ビデオになった)最近では、何回も撮って編集でどうにかするっていうやり方が流行ってるけど、それって少し苦痛だったりするんです。私は〈このカットは一回しかできない〉っていう感覚で育ってるんで」

外山「これまではビデオは何回も撮れるから便利だと思ってたんですけど、そうじゃないことをお二人(小泉と豊原)から教わりました。確かにその通りだと思うショットがいくつかあって。橋の上で虹郎くんが涙を流すシーンは〈一回しかできません〉って彼が言ってたんです。それを逃さずに撮ったショットが、どれほど強いものなのかを身をもって知りました」

小泉「その瞬間、楽しかったでしょ?」

外山「楽しかったですね」

小泉「そういう魔法のような、奇跡のようなショットが映画を撮っていると1回か2回は絶対あって、それを味わったら楽しくて仕方ないんだよね」

――監督自身、発見がある作品だったんですね。

外山「そうですね。学ぶことが多かったです。これまで今の映画界に自分は馴染めないと思って一人でやってきたんですけど、今回、豊原さんと小泉さんに、そういう違和感を感じることが大事だと言ってもらえたことが一番大きかったです」

小泉「さっき監督が〈新しいやり方〉って言ってたのが意外で。私にとっては当然だけど、若い人たちにとって新しいと思えるんだったら〈新世界〉っていう名前はぴったりだと思います。監督も、村上くんも、芋生さんも、才能を持て余していた人たちがこの作品で思う存分、力を発揮することができた。これからも、私たちがそういう場所を作っていけたらいいなって思いますね」

 


小泉今日子(Kyoko Koizumi)
アソシエイトプロデューサー。1966年生まれ。神奈川県出身。82年、歌手デビュー。日本歌謡史に不滅のヒット曲を数々残す。同じ82年には、テレビドラマで女優デビューも。翌年、崔洋一監督の「十階のモスキート」で映画初出演。和田誠監督の「怪盗ルビイ」(88年)、相米慎二監督の「風花」(01年)、黒沢清監督の「トウキョウソナタ」(08年)、前田司郎監督の「ふきげんな過去」(16年)など、映画女優としても類い稀なる個性を発揮。舞台出演も多く、2016年の「日の本一の大悪党」以降は、演出・プロデュースも積極的に手がけている。

 


外山文治(Bunji Sotoyama)
監督・脚本。1980年、福岡県生まれ。日本映画学校演出ゼミ卒業。老々介護の厳しい現実を見つめた短編「此の岸のこと」(10年)がモナコ国際映画祭2011で短編部門・最優秀作品賞など5冠に輝くなど、海外の映画祭で絶賛される。シルバー世代の婚活を溌剌と描き、長編デビューを飾った「燦燦-さんさん-」(13年)は全国公開され、モントリオール世界映画祭2014にも出品された。2017年、製作・監督・脚本・宣伝・配給すべてを手がけた「映画監督外山文治短編作品集」を発表。渋谷・ユーロスペースの2週間レイトショー観客動員数歴代1位となる。

 


CINEMA INFORMATION

映画「ソワレ」
監督・脚本:外山文治
プロデューサー:豊原功補 共同プロデューサー:前田和紀
アソシエイトプロデューサー:小泉今日子
音楽監督:亀井登志夫 音楽:朝岡さやか 音響:弥栄裕樹
出演:村上虹郎 芋生悠  
岡部たかし 康すおん 塚原大助 花王おさむ 田川可奈美 江口のりこ 石橋けい 山本浩司
配給:東京テアトル(2020年 日本 111分 PG12+)
©2020ソワレフィルムパートナーズ
◎2020年8月28日(金)よりテアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開
soiree-movie.jp

©2020ソワレフィルムパートナーズ

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