PR
コラム

映画「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」オアシス解散後のどん底から復活までを描き、人間像に迫るドキュメンタリー

©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED @AsItWas Movie

オアシス解散後、彼はどう生き、復活したのか。
人間像を浮き彫りにするドキュメンタリー

 90~00年代に圧倒的な人気を得て、英国音楽史上最も成功したロック・バンドのひとつとなったオアシス。そのバンドを率いたギタリストのノエルとリード・シンガーのリアムのギャラガー兄弟は愛憎入り組む関係で争いが耐えず、結局2009年に修復の出来ない仲違いの結果、バンドを解散させてしまった。そんなオアシスの大成功までの歩みと兄弟の関係は2016年のドキュメンタリー映画「オアシス:スーパーソニック」で描かれていたが、その後のリアム、彼の人生の第2幕を描くドキュメンタリー映画が「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」である。

 その幕開けは2009年8月28日だ。パリでのロック・フェスで出番直前に大喧嘩。ノエルがその場で脱退を宣言して会場を立ち去り、観客に出演中止が告げられたオアシス最後の日の模様から始まる。その後、リアムと残りのメンバーは、ビーディ・アイと名前を変えて5年間活動を続けるが、大きな成功を得られなかった。カリスマのあるフロントマンとして、リアムがどれだけ崇められようが、ほとんどの曲を書いていたソングライターで音楽的リーダーだったノエルを失った穴はあまりに大きかったのだ。さらに、私生活に多くの問題を抱えてきたタブロイド紙の常連は他の女性の妊娠を認め、2人目の芸能人妻ニコール・アップルトンと離婚と、またもや騒動を引き起こし、長兄ポール・ギャラガー曰く「やつの人生で初めて、すべてがうまくいかなくなった」時期を過ごすことになる。

©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED @AsItWas Movie

 この「アズ・イット・ワズ」は最初の30分ほどで、その転落までを速足で振り返り、そこから本題である復活劇を追いかけ始める。2人の監督のうち、チャーリー・ライトニングは元々ビーディ・アイのプロモ映像のために雇われた人だ。それからの10年間ずっとリアムを追いかけてきたので、舞台の表裏の貴重な映像がたっぷりと登場するが、そこでの彼の素顔は、多くの人が考えるものと異なるのに驚く。口が悪く、傲慢で、ふてぶてしい。多くの人がリアムをそう考え、そういった生意気な態度は、その歌唱スタイルと同じくらいに、彼をその世代のカリスマにした理由だったが、その人柄はそれほど単純なものではないようだ。近く結婚予定の公私のパートナー、デビー・グワイサーはこう説明する。「矛盾した人よ。すごく繊細だけど、衝動的で、時にすごく傲慢。恐れを知らず、自分で考える以上に野心的なの」と。この映画では、愚かしい虚勢や人を馬鹿にしたような傲慢な発言もまだあるが、時に謙虚さもうかがわせ、年を取っただけの変化、成長が感じられるし、心の痛みや不安も隠さず見せている。本作の大きな魅力は、リアムの人柄の多面性が映し出されているところだ。

©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED @AsItWas Movie
©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED @AsItWas Movie

 密着取材のなかでも、最も心温まる場面は今も母の住む生家への里帰りで、まさに放蕩息子の帰還だが、母子のやりとりに深い愛情を感じられる。また2人の息子がツアーに同行するが、母の違う兄弟同士も父との関係も良好のよう。家族総出のハイキングでは、20歳になるまで一度も会うことがなく、その存在がスキャンダルにされた娘もいるが、今は関係も悪くなさそうだ。あの万年不良少年のようだったリアムもすっかり良い父親だ。

 我々を驚かせるのは、それだけではない。酒やドラッグで不健康の極みかと思いきや、リアムはジョギングを楽しんでいる。悪習慣は以前より控えめらしい。「以前は出演前に(コカインを)8gやってたけど、今は2gだけだよ」などと嘯きながら。特に印象的な場面のひとつは、早朝のゴールデン・ゲート・ブリッジをジョギング中に足を止め、そこから見える美しい景色を指して「俺くらいの年齢になると、これが生きる意味なんだよ」と語るところ。確かに彼はもうオアシス時代のリアムとは別人のようだ。

©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED @AsItWas Movie
©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED @AsItWas Movie

 さて、物語の本筋は、音楽への情熱を取り戻し、曲作りに真剣に取り組み、2017年に発表されるソロ・デビュー作『アズ・ユー・ワー』を制作。そのアルバムが全英No.1に輝き、見事復活を遂げるまでの過程である。この復活劇の意味は、単にスターの座に返り咲いただけでなく、オアシスの成功はノエルのソングライティングのおかげという多くの人の見方に対して、自分も兄に負けぬクリエイティヴなミュージシャンと世に示したことにある。この映画でも、ノエルやアンディ・ベルらが傍にいない今、彼自身がバンドリーダーの自覚を持ち、ミュージシャンに指示を出して、自分の構想を実際の曲に形作っていくスタジオでの作業の模様がアーティストとしての成長を示す一方、テロ事件後の〈ワン・ラヴ・マンチェスター〉コンサートでのクリス・マーティンらとの共演やグラストンベリー・フェス出演などで、その大きな存在感を世間に再認識させていく姿をとらえている。

 ただし、監督2人はその復活劇を主に人間リアムの成長という視点で描き、音楽自体についてはあまり語られない。リアムのソングライティングがどのように成長したのか、オアシスやビーディ・アイ時代の作品から変化はあるのか。音楽ドキュメンタリーとして見ると、共作者やプロデューサーにも取材して、もう少しつっこんでほしかったと思う。とはいえ、稀代のカリスマを追った人間ドキュメンタリーとしては、とても楽しめる映画となっているし、ファン必見の作品なのは言うまでもない。

 


CINEMA INFORMATION

映画「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」
監督:ギャビン・フィッツジェラルド/チャーリー・ライトニング
出演:リアム・ギャラガー/ホーンヘッド/ノエル・ギャラガー/ポール・ギャラガー/クリス・マーティン/他
配給:ポニーキャニオン(2019年 イギリス 89分)
©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED @AsItWas Movie
ASITWAS.JP
◎2020年9月25日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

タグ
TOWER DOORS