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バンド〈合奏形態〉での活動を経て生まれた君島大空『縫層』

――では続いて、君島くんの新作『縫層』について。前作『午後の反射光』リリース時(2019年)のインタビューでは、〈個人的な作品〉という話をしていたと思うんですけど、今作を作るにあたって、作り手としての意識の変化はありましたか?

君島「かなりありました。そもそも『午後の反射光』を出して、今ほど僕の音楽を聴いてくれる人が増えるとは全く考えてなくて。いつも自分の気持ちを整理して、〈そこで終わらす〉みたいな感覚で、でもその中に永遠みたいなものがあって、何度でもそこに行ける、そういう箱を作るような感覚で曲を作ったり、音源を作ったりしてるんですけど、『午後の反射光』に関しては、正直〈遺書みたいなものを作ろう〉っていうのが、自分の中のテーマだったんです。なので、〈アルバムいつ出すんですか?〉とか言われるのがプレッシャーだったんですけど。

でも『午後の反射光』のレコ発からバンドを始めたら楽しくなって、〈バンドの演奏をもうちょっとよくしていこう〉みたいな風に自分の気持ちを作って行って。『午後の反射光』の続きとして作りたい景色も見えてはいるんだけど、でも今のままではできないから、その前にまた整理が必要だなって」

君島大空 『縫層』 APOLLO SOUNDS(2020)

――それで作ったのが今回の『縫層』だと。

君島「〈縫層〉っていうのは去年の〈フジロック〉くらいからずっと頭にこびりついてる言葉で、僕の造語なんです。大きな厚い層、わずらわしい層、街の喧騒だったり、人の言った心無い言葉が、自分の中に作っちゃう嫌な塊だったり……でもそれって結局自分が生んでるものだったりもして。そうやって暗雲がたち込めてる層の先に、たぶん蒼天みたいな空がある。その場所を早く表現したいんですけど、まずはその手前にある〈ここ〉を出さなきゃいけないみたいな……だから、結構攻撃的な気持ちで作りました。

〈そこ〉はずっと雨が止まない場所で、悲しいような、虚しいようなところなんです。SNSとかもそうですけど、人の顔が見えない中、言葉みたいなものが文字で書かれて、それが飛び交って、人の心に少しずつたまって、価値観に影響を及ぼす。こんな悲しいことないだろう、ということへの反発みたいな気持ちで作った曲たちかもしれない。

だから、今回も個人的といえば個人的なものかなと思います。自分一人の中で思い悩んでしまった人の曲というか」

――ただ違うのは、バンド・メンバーだったり、関わる人が増えたことだと思うんですね。

君島「そうですね。西田ともめちゃめちゃ仲いいんで、彼が携わっている佳穂さんのバンドの制作の仕方とかもいろいろ聞いて、自分は宅録で1枚目を作ったけど、そのやり方だけだと今やりたいことはできないなと思ったり。

あと7月に出した“火傷に雨”は、東池袋のKAKULULUの地下で音を出せるから、そこで駿さんと一緒にいろいろ試しながらドラムを録音して、それにサンプルを足したりして作ったんです。それまで〈圧倒的な純度が欲しい〉という偏った気持ちが強すぎたので、自分の作品にいろんな人を呼ぶのはちょっと抵抗があったけど、そこを開いたとしても、それは壊れないなと思って。そう気づいてからは、わりかしガーッと作りました」

『縫層』収録曲“火傷に雨”

 

スーパー・エディット・ジェント“笑止”

君島「“笑止”は西田が一緒に編曲してくれています」

『縫層』収録曲“笑止”

――初めて合奏形態の3人が全員参加してるんですよね?

君島「そうです。僕メタラーなのを黒歴史だと思ってたんですけど、逆に今、周りでメタルをやってる人がいないなと思って。メタルというか、ジェントをやりたかったんです。

実は、西田は“笑止”でギターを弾いてなくて、サウンド・デザインをしてくれてるんです。音色やドラムは自分で打ち込んだのと、KAKULULUで駿さんに叩いてもらったものをエディットしたりして。和輝さんにはめちゃくちゃなベース・ソロをお願いしました。だから、遠隔で作業した初めての作品でもありますね」

※編集部注 ヘヴィメタルのサブ・ジャンルで、メシュガーから影響を受けた複雑なリズムのプログレッシヴ・メタル

――合奏メンバーが参加しているとはいえ……。

君島「一発録音とかではまったくない。スーパー・エディット・ジェント、みたいな感じ(笑)。

次はもっとライブっぽいのも作ってみたいんですけど、“散瞳”みたいな方向性でも何かもっとできないかなっていうのもあって。急にディケイ(音の減衰)がなくなるとか、現実的にない音を作るのが好きなので、そういうのを……ジェントでできないかなって(笑)。

タイトルは〈笑止千万〉からで、わりと皮肉った内容ではあるんですけど、笑っちゃうようなものを作りたかったんですよね」

高井「かっこよすぎて笑っちゃった」

石若「KAKULULUの地下でドラムを録ったのはすごくいい時間でした。KAKULULUの合鍵をゲットして、ドラムを運んで、いろんなマイクのセッティングを試しながらやったんです。

自粛期間明けの6月頃、仕事とかライブがなくなっちゃった時期だったので、逆にみんなゆったりした気持ちで、連絡も密に取り合って。そういう時間が大事だったなって思います」

君島大空合奏形態の2020年のライブ映像

君島「僕は怖かったんですよね。〈次はバンドで出さなきゃいけないのかな?〉って、強迫観念もあったし。自分もそれ(バンドで録音した作品)を聴きたいけど、一人でこっそりやるのも好きで、そのバランスをずっと探ってて……でも、ただ考えてても作品はできないわけで、とにかく手を動かさなきゃっていう中で、コロナの期間になって、整理できた部分はすごくありました。

だから、いろんな時期に録ったものが乱雑に入ってるんですけど、今の自分はこうなんだなっていうのが、わりと素直に見える作品かなって」

――それを一回出すことで、この先の景色が見えてくるんじゃないかと。

君島「だから、最後の“花曇”は、やっと霧が晴れて行くようなイメージなんですよね」