天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。この一週間の話題といえば、やっぱり来月に迫ったアメリカ大統領選挙でしょうか」
田中亮太「先日、ドナルド・トランプ大統領と民主党候補のジョー・バイデンとのTV討論会が行われていましたね。非難や中傷でたびたび中断し、米メディアからは〈これまででもっとも最悪な討論会だった〉と評されているみたいですが……」
天野「まさに泥仕合で、米国民じゃないのに情けない気持ちになりましたよ。音楽シーンでは、多くのアーティストが大統領選への投票や有権者登録を呼びかけています。タイラー・ザ・クリエイターが〈俺も初めて投票するんだけど……〉とTwittterにメッセージを投稿したり、ビースティ・ボーイズやセレーナ・ゴメスはドーバー・ストリート・マーケットによるコラボレーション・コレクションに名を連ねたりと、それぞれの取り組みが見られますね。ビリー・アイリッシュやリアーナも同様で、フランク・オーシャンは自身のサイトに登録フォームを設けています。手が込んでいる!」
田中「Pitchforkには〈2020年の選挙に先立って行動を起こしたいと考えている有権者のためのリソース〉なんて記事が掲載されていました。カルチャーのみならず、全世界の人々の生活に直接的にも間接的にも影響を与える選挙だけに、日本で暮らす僕たちもしっかり注目していきたいですね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. Romy “Lifetime”
Song Of The Week
田中「今週はこの曲っきゃないでしょう! The xxのメンバーとして知られるロミー・マドリー・クロフトによる〈ロミー〉名義でのファースト・シングル“Lifetime”が満場一致で〈SOTW〉に選出されました!!」
天野「満場一致っていったって、僕と亮太さんの2人ですけどね……。実際、今週はひさしぶりに、珍しく2人の〈今週の一曲〉が一致しました。推進力に満ちたビートとロミーのパワフルなヴォーカルに踊らずにはいられない。アップリフティングでポジティヴな最高のダンス・ナンバーです!!」
田中「プレス・リリースにも、17歳の頃からDJをしているという彼女のクラブ・カルチャーへの思慕と愛が詰まった楽曲、と書かれていましたね。僕としては、90年代後半から2000年代前半、特にミレニアム前後のテクノやプログレッシヴ・ハウスなどを想起させる曲だと思いました。あの時期の、ひたすらにオプティミクスティックで未来への希望に溢れていたダンス・ミュージックのヴァイブスを、2020年のこのタイミングで蘇らせてくれるとは思いませんでしたよ」
天野「ロンドンがロックダウンされていたときにレコーディングされたらしいですから、その閉塞感を前向きな力に転化したのでしょう。〈もしあなたが孤独で/道を見つけられなかったとしても/この世界が終わったときには/私はあなたと一緒にいる〉というリリックからもわかるように、友人や家族、愛する人たちとの再会を歌った楽曲になっています」
田中「〈人生でただ一度だけ/私はあなたのそばにいるでしょう/あなたは私のそばにいるでしょう〉というフレーズがもう……。ダンスフロアのかけがえのない瞬間を切り取ったフレーズに、涙が止まりません」
天野「ちょっと、泣かないでくださいよ! とはいえ、ノスタルジーに浸るだけの楽曲でないですから。クレジットを見てください」
田中「The xxの盟友であるジェイミー・xxに加えて、フレッド・アゲイン(Fred again..)とマルタ・サローニ(Marta Salogni)が参加していますね。サローニは、前々回の〈PSN〉で取り上げたポリッジ・レディオの新曲“7 Seconds”にも貢献していたイタリアのヴェテランです」
天野「今回はフレッド・アゲインに注目してください。エド・シーラン『No.6 Collaborations Project』やストームジー『Heavy Is The Head』に携わっている売れっ子で、BTSの“Make It Right”(いずれも2019年)にも関わっているんです。今年はUKドリルの顔役的なラッパー、ヘッディ・ワン(Headie One)とのコラボ作『GANG』が最高でした。フレッド・アゲインは、いまの英国シーンでもっとも注目すべき若手プロデューサーのひとりでしょう。彼の名前は覚えておくべきですよ。あと、ロミーとX-girlとのコラボ・アイテムもクールなので、ぜひチェックを!」
2. Ari Lennox “Chocolate Pomegranate”
天野「2位はアリ・レノックスの“Chocolate Pomegranate”です。彼女のことは〈PSN〉で紹介したいなと思っていたんですよ。いいタイミングでカムバック・シングルを発表してくれました」
田中「アリ・レノックスことコートニ・シャネイド・ソルター(Courtney Shanade Salter)は、91年ノーザン・バージニア生まれ、ワシントンD.C.育ちのR&Bシンガー。ステージ・ネームは映画『秘密の花園』(93年)の主人公メアリー・レノックス(Mary Lennox)に由来するそうです。2015年にJ・コールのレーベル、ドリームヴィル(Dreamville)とサイン。映画『クリード 炎の宿敵』(2018年)に提供した“Shea Butter Baby”がヒットし、その曲名を冠したデビュー・アルバムを昨年リリースして高い評価を受けました」
天野「“Shea Butter Baby”はコールをフィーチャーしているんですよね。アルバムは今様かつオーセンティシティーも兼ね備えたR&B/ネオ・ソウルという感じですごくよかったので、3月の来日公演が中止になってしまったのは残念でした……。アリは昨年の話題作『Revenge Of The Dreamers III』にも参加していたのですが、ソロ・シングルはひさびさ。それにしても、素晴らしいですね! スペ―シーで艶めかしい旋律をうねうねと奏でるシンセサイザーの音色が印象的で、アウトロのトランペットもクール。リズム・マシーンと重なったドラム、さりげないコーラス、アナログっぽいドリーミーで豊かな音像と質感などなど、どれを取っても最高!」
田中「主役のレノックスのセンシュアルな歌もいいですね。プロデューサーはヴィンテージ・ヴァンダルズ(Vintage Vandals)と、J・コールの楽曲を多数手がけているエリート(Elite)。ちなみに曲名は、レノックスのお気に入りのスナック菓子から取られているのだとか。〈ポメグラネイト(pomegranate)〉というのは、ざくろのことですね」
天野「ざくろの絵が描かれているカヴァー・アート、かなりエロティックですよね……。あと、この曲を先行披露したGeniusのパフォーマンス映像もぜひチェックを! 〈歌、上手すぎ!〉ってびっくりしちゃいます。シンガーとしてのアリの魅力を堪能できるはず」
3. Goat Girl “Sad Cowboy”
田中「3位はゴート・ガールの“Sad Cowboy”。英サウス・ロンドン出身の彼女たちは、2018年のデビュー・アルバム『Goat Girl』が話題となりました。当時、Mikikiではライターの近藤真弥さんと照沼健太さんによる対談記事〈ゴート・ガールは本物か? 音楽ライター2人が大激論〉を掲載しましたね」
天野「あの対談、両者の意見がぜんぜん一致していなくて、妙に緊迫したムードが漂っていますよね(苦笑)」
田中「それはさておき、ゴート・ガールの新曲“Sad Cowboy”はシンセが前面に出ていて、ハネたビートとジャーマン・ロック風のモトリックなリズムの組み合わせが印象的です。特に、パンピンな鍵盤が大活躍する後半のダンサブルでヒプノティックな展開がヤバい。バンドのサイケデリックな側面にフォーカスを絞った曲、という感じ」
天野「プロデューサーは、前作と同様にダン・キャリー(Dan Carey)です」
田中「ゴート・ガールは昨年、ダン・キャリーと『Udder Sounds』というEPを作っていて、そこでは新曲1曲とアルバム収録曲の再レコーディングをしているんですよ。そのEPがなかなかエクスペリメンタルな内容だったので、いま思うと“Sad Cowboy”を含めた次作に向けた習作的なものだったのかなと」
天野「この曲を収録したニュー・アルバム『On All Fours』は2021年1月29日(金)にリリース予定。タワーレコード オンラインドやこちらの配信リンクでは、先行予約が開始しています。カラフルなアートワークは地獄がモチーフなんでしょうか? めちゃくちゃサイケデリック。期待大です!」
4. PVA “Talks”
天野「4位はPVAの“Talks”。ゴート・ガールに続いて、ロンドン・シーンから登場した新鋭トリオで、2018年に結成されたばかりなんだとか。あの有名なヴェニュー、ウィンドミル(The Windmill)でも演奏しているそうです」
田中「ニンジャ・チューン傘下のビッグ・ダダ(Big Dada)からデビューすることからもわかるとおり、ダンス・ミュージック的な魅力を感じるバンドですよね。ムラ・マサもお気に入りだとか」
天野「この“Talks”を聴けばわかるように、ポスト・パンクとダンス・ミュージックのあいの子という感じのサウンドは、ムラ・マサの新作『R.Y.C』との共振を感じますよね。ディスコ風のパーカッションやハウス調のオルガンがいい塩梅で入っているのもポイントで、ありがちなダンス・パンクとは一線を画したダンス・ミュージック愛と本気度を感じます。つまり、最高ってことです!」
田中「11月20日(金)にリリースされるデビューEP『Toner』は、先ほども名前が挙がった超重要人物のダン・キャリーがプロデュース。ムラ・マサやガール・バンドのダニエル・フォックスによるリミックスが収録されるそうで、12インチ盤が欲しくなりますね!」
5. Nothing “Bernie Sanders”
天野「今週最後の一曲になりました。米フィラデルフィアのシューゲイズ/インディー・ロック・バンド、ナッシングの“Bernie Sanders”です」
田中「ナッシングといえば、地元のグラインドコア/デス・メタル系の老舗レーベル、リラプスに所属しているんですよね。レーベルのラインナップとしては、ちょっと異色かも」
天野「ただ、彼らの出自はハードコアで、それを感じさせる曲も多いんですよね。その一方で、ドリーミーなギター・ポップっぽいサウンドもこのバンドの魅力で、特にセカンド・アルバム『Tired Of Tomorrow』(2016年)と、クィアなアートワークが印象的だったサード・アルバム『Dance On The Blacktop』ではそれが顕著です。今回の新曲“Bernie Sanders”は10月30日(金)にリリースされる新作『The Great Dismal』からのシングル。ギターの弦をこするざらっとした音やグランジ風のヘヴィネスが前面に出ていますね」
田中「曲名が〈バーニー・サンダース〉っていうのがまたすごい。政治的な意図があるのかどうかはよくわかりませんが、フロントマンのドミニク・パレルモ(Dominic Palermo)によれば、日本で迷子になったときのことについての曲だとか。〈Shibuya meltdown〉なんて歌詞も出てきます。グロテスクなミュージック・ビデオも強烈ですね」
天野「それにしても、なんだか今週はロックの曲が多かったですね」
田中「それだけ元気のいいロック・バンドがたくさんいるっていうことでしょう! 僕はいいことだと思います」
天野「そうですね。普段ラップ・ミュージックやR&Bばかりを紹介している僕からすると、新鮮な週でした。さて。僕はBLACKPINK『THE ALBUM』のリピート再生に戻りますかね~」