©Yuri Manabe

シンプルなギターの旋律にたくさんの思いを込めて

 2019年に日本でのコンサート・デビュー50周年を祝ったギタリストの荘村清志。その年には、それまでの演奏経験を詰め込んだバッハの作品を中心とするアルバム『シャコンヌ』を発表し、未来を見据えた演奏で意欲を感じさせてくれた。そしてコロナ禍の今年には、その暗く重い時代の雰囲気を癒すかのように、バリオスとタレガというクラシック・ギタリストにとっては欠かせないレパートリーを録音した。題して『ノスタルジー~郷愁のショーロ』である。

荘村清志 『ノスタルジー ~郷愁のショーロ』 ユニバーサル(2020)

 「録音のスケジュールとしては以前から決まっていたので、あえて今年の状況に合わせてという意図ではなかったのですが、たまたまリリースがこういう時期に重なりました。最近ではテクニカルに高度な作品ばかりが若いギタリストたちに取り上げられる機会が多くなり、バリオスやタレガのような〈歌心〉を持った作品が見過ごされています。ギターという楽器はとても歌う楽器であり、そしてギターで歌うということは、そこにたくさんの経験や自分の想いがないと表現出来ないこと。そこで、ふたりの作品を取り上げました」

 と、荘村は語る。バリオスの作品との出会いはスペイン留学中に遡る。

 「1960年代はバリオスの楽譜というのはまだ出版されておらず、僕も友人から手書きの楽譜を見せられ、その作品を知りました。それが“郷愁のショーロ”でした。バリオスは自分の書いた作品を手書き楽譜のまま誰かにあげてしまうことが多く、彼の作品はほとんどが手書きの楽譜、その写譜といった形でした」

 その“郷愁のショーロ”は日本に帰ってからも様々な機会に演奏してきた。

 「実は武満徹さんに作品を委嘱した時も、武満さんの前でこの曲を弾いたのです。そうしたらとても気に入って下さって、何か機会があるごとに、呼び出されてこの曲を弾くということになりました。そういう点でも思い出深い作品です」

タレガも有名な“アルハンブラの想い出”を含む8曲を録音した。

「今回はタレガの作品の中でも、あえてメロディーが美しく、構造がシンプルな作品を中心に選びました。そのシンプルさをどう表現するか? そのためにはギタリスト自身がたくさんの表現のパレットを持っていないといけないのですが、あえてそれに挑戦することで、ギターの表現の奥深さに挑んでみました」

 荘村の熱い演奏のなかに、19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したふたりのギタリストの姿がまざまざと浮ぶ。今後のプロジェクトにも期待したい。

 


LIVE INFORMATION

荘村清志 ギター・リサイタル
〇11月8日 (日)18:00開演 会場:宗次ホール(名古屋)
〇11月13日(金)13:30開演/19:00開演 会場:浜離宮朝日ホール
〇11月23日(月・祝)14:00開演 会場:青嶋ホール(静岡)
〇11月29日(日)14:00開演 会場:サンポートホール高松
〇12月18日(金)19:00開演 会場:フェニーチェ堺
www.hirasaoffice06.com/artists/view/304