©Kazuya Rachi

原点回帰と新境地が同居する世界的ギタリストの最新盤!

 2019年にデビュー50周年を迎えた世界的ギタリスト・荘村清志。この偉大なる巨匠は、風貌、語り口、そして演奏そのものが、年々瑞々しくしなやかに成熟していくという稀有な音楽人生で私たちを魅了している。昨今のコロナ禍による演奏会の減少もあり、企画からじっくりと生み出された当盤もその一つ。そこにはスペイン国民楽派の重要作曲家アルベニスの8つの傑作(“朱色の塔”“セビリア”“入り江のざわめき”“グラナダ”など)が収録されている。

荘村清志 『旅の思い出』 ユニバーサル(2021)

 「私は16歳から4年間スペインに留学したこともあり、アルベニスは長年思い入れの深い作曲家の一人でした。30代前半まではよく弾いていたのですが、その後少しずつ感情移入が上手くできなくなって。以来、半世紀近く遠ざかっていたのですが、近年楽譜を読み返す中で、静かな情熱の中に宿る豊かな響きや彫りの深い表現に魅了され、私自身が過ごしてきた人生とも重なるようになりました」

 アルベニスは天才的ピアニストだったこともあり、創作の大半がピアノ作品。今回の収録曲もすべてギター用に編曲されたものだ。

 「アルベニスは、ピアノという減衰する打鍵楽器でいかに歌うかを追求し続けた人。ですから録音では、ギターでその歌心を大切にしながら、聴き手の皆さんと私が酔いしれられる演奏を目指しました。この点、今回の編曲も数多く手がけているタレガとリョーベートの功績に感謝したいと思います」

 名ギタリストでもあった2人の編曲の手腕のみごとさを荘村に尋ねると、次のような答えが。

 「ピアノの原曲に忠実でありつつ、ギターでも弾きやすいように調性や和声を巧みに変える編曲方針が徹底されていることですね。例えば、胸を引き裂くような嘆きの歌でおなじみの“グラナダ”は、作曲者が編曲者のタレガに向かって〈まるでギターのオリジナル作品のようだ〉と絶賛したそうです。ただ今回は、原曲への忠実性を尊重して私が再編曲した部分も幾つか。その一つが“セビリア”で、リョベートが中間部の歌の約2小節に施した新たな音楽を、私はあえて原曲に近い表現に戻しました」

 17~20年にかけてギターの様々な可能性を追求する〈荘村清志スペシャル・プロジェクト〉を行い、最終回でアコーディオン奏者cobaに委嘱した新作協奏曲を披露した荘村。来年に録音予定の新譜でも彼とのコラボが実現するという。

 「サイモン&ガーファンクルの“明日に架ける橋”や“スカボローフェア”など約10曲の編曲を依頼していて、武満徹さんの“12の歌”のような作品になればと思います。cobaさんは本当に美しいメロディメーカーなので、心から期待しています!」

 


LIVE INFORMATION
荘村清志 ギター名曲選「スペイン」

2021年11月3日(水・祝)愛知・名古屋 宗次ホール
開場/開演:13:30/14:00

2021年11月12日(金)北海道・札幌 ふきのとうホール
開場/開演:18:30/19:00

2021年11月20日(土)東京・築地 浜離宮朝日ホール
開場/開演:13:15/14:00

2021年11月23日(火・祝)静岡 青嶋ホール
開演:14:30

2021年11月25日(木)神奈川 横浜市栄区民文化センターリリス
開場/開演:13:15/14:00

2021年12月4日 (土)青森 リンクモア平安閣市民ホール(青森市民ホール)
開演:14:00
https://www.kiyoshishomura.com/concert