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コルトレーンに近付いたなと思っても、知れば知るほど遠くなっちゃう

――『plays Coltrane』は、『plays Standards』よりアレンジへの意志を強く感じます。

「コルトレーンは昔から好きで聴いていましたが、今回のアレンジや選曲をするにあたって、改めてたくさんいろんなものを聴きました。そして考えたんです。原曲を極力そのまま演奏したほうがいいのか、私なりのアレンジを加えたほうがいいのかって。もちろん原曲の方が美しいに決まっています。でも私はあえてアレンジしようと決めました。やはりそれも表現方法の一つだし、たとえ稚拙であっても、自分なりの解釈でコルトレーンの音楽をきりひらいてみようと思ったからです」

――サックス奏者であるコルトレーンゆかりの曲を、ピアノ・トリオでこれだけまとめて演奏していくうちに、なにか彼に対する印象が変わったところはありますか?

「コルトレーンの音楽を、私はこれまで〈かっこいい〉と思っていました。でも今は〈美しい〉と感じます。実は私、ほとんどマッコイ時代しか聴いてこなかったんですね。でも今回のことがあったので、フリーっぽくなっていった頃やアリス・コルトレーンに変わってからのアルバムも聴いてみたんです。そうしたらもう、びっくりしちゃった。あまりに美しかったからです。今ではアリスも大好きになりました。

何よりコルトレーンって、マッコイの時代もアリスの時代も、本質は何も変わっていないんですよね。それに気付けたことも大きな収穫でした。このプロジェクトに向けて、私なりにコルトレーンを勉強し直したつもりだったんだけど、これで少しはコルトレーンに近づけたかな、と思いきや、どんどん離れていっちゃった(笑)。知れば知るほど遠くなっちゃうんですよね」

――特に“Naima”は圧巻だと思います。踊り出したくなりました。

「ひたすらピアノに向かっているうちにアイデアが生まれ、ベース・パターンを作っているうちに、ヴォイシングもサウンドも大幅に変わっていきました。原曲からずいぶん変化してしまったので、あのコルトレーンの『Giant Steps』に入っている“Naima”のイメージからすると、〈なに、このアレンジ〉って思う人もいるでしょう。でも、これがたぶん〈今の私〉なんです」

――片倉さんは2008年にニューヨークのケネディ・センターで行なわれたコンサートでも“Naima”を演奏したそうですね。〈NPRミュージック〉にライブ評が掲載されています。

「あの時は全然違うアレンジでした。でも、もう十何年も前のことですしね。いまアレンジしたらまったく別のものが出てくることは分かっていたので、新たに“Naima”に取り組んだんです。いまだからできることがあるはずだとの思いで。それとアレンジする時って、やっぱり一緒に演奏するプレイヤーのことを考えるんですよね。この人たち(粟谷と田中)と3人でやるんだから、こういうサウンドを作りたい、というのがありますね」

――そして58年のアルバム『Soultrane』でコルトレーンが名演を残した“Theme for Ernie”(作曲はギター奏者のフレッド・レイシー。〈Ernie〉は57年に亡くなったサックス奏者アーニー・ヘンリーを示す)の、とても美しい解釈を聴くことができます。片倉さんはこの曲を、岡本太郎記念館のアトリエで行なわれたライブでも演奏していました。

「この曲が大好きなんですよ。いろんな良い演奏があるけれども、コルトレーンの演奏するこの曲は本当にソウルフルで素晴らしいと思う。絶対に絶対に入れようと思ったナンバーです」

――あと“Love”の選曲が興味深いと思いました。晩年の、実はそれほど聴かれていない時期に録音された清らかな曲です。

「選曲についてサックス奏者の池田篤さんに相談したんです。そうしたら〈『First Meditations』に“Love”という曲が入っている。とても美しい曲だから聴いてごらん〉って言われて。この頃のコルトレーンの音楽って、スピリチュアルでしょう? そういうフリーのスタイルを私は普段あまりやらないから慣れていなくて。それでも演奏したのは、田中さんがいたからです。さまざまな音楽に長けている人だから、こういう曲においても、私に新しい何かをもたらしてくれるんじゃないかと思って。

やるかやらないか、入れようか入れまいか迷いましたが、一度やろうと決意したんだから、そのときの思いを大切にしようと考えて収録しました。演奏がいいとか悪いとかじゃなくてね。CDに収めた曲はいずれも、これから繰り返し演奏していくうちに、どんどん変わっていくはず。ライブでどう発展していくのか楽しみなんです」

――今に立脚しつつ、いかに伝統と繋がっていくか……。

「ジャズを創造してきたレジェンドたちへの限りない尊敬があって、わたしはいつもそこから学んでいる。でも私が生きているのは、まぎれもなく〈いま〉。先ほど言ったように、20代の頃は、先人の誰かのサウンドが私の中から聞こえてくることこそが、ジャズへのリスペクトだと考えていました。じっさいアメリカ時代に、さんざん〈あなたは誰? 別の誰かなの? あなた自身を表現しなければ〉と言われたけれど、その時はぜんぜんピンと来なかったんです。

〈なぜ自分はピアノを弾いているのか〉〈今を生きる自分にとって、ジャズとは何なのか〉〈今ジャズを演奏する自分とはいったい何者なのか〉……。30代になって、ようやくそういったことに少しずつ思いが至るようになりました。今回の2作品(『plays Standards』『plays Coltrane』)が、さらにいろいろと考えるきっかけを与えてくれたように思います」

 


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