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そのキャリア中でもひときわ異彩を放つ出来事が、サウンドガーデンやナイン・インチ・ネイルズとのジョイント・ツアーではないだろうか? 彼がその体験に触発されて産み落としたのが、OPN諸作でも高い人気を誇る『Garden Of Delete』(2015年)。前述したバンドたちのライブに見た〈音楽産業〉への衝撃と、彼らが奏でていた〈むっつりした、気難しい音楽〉のギャップはロパティンへと巨大なインスピレーションを与え、彼はサウンドガーデンのアルバムのカセットを買った13歳の頃の記憶へと遡ることに……。

同作のインターネット・プロモーション・キャンペーンでは、10代のニキビに覆われたエイリアンのエズラが登場している。彼は、この企画で登場したカオス・エッジという創作バンドのガイド/指南役的な存在であった。そこから「自分にとってエイリアンというのは〈思春期を体験してる10代の子たち〉の究極のメタファーじゃないか」と思い立ったロパティンは、思春期の子どもたちのグロテスクさや不安、グランジ、青春といったキーワードを、自身の記憶とリンクさせ、創作を交えながらトラウマティックに照らし出す。

2015年作『Garden Of Delete』収録曲“Animals”

同作は過去最大級にパーソナルな世界観に貫かれているのみならず、ロック的な衝動が大いに滲んだアルバムでもあり、電子音楽以外のリスナーにとっては、彼の音楽の最良のガイドともいえる一枚だと思う。個人的にはリアルタイムで初めて意識的に触れた彼の作品というのもあって、この意匠とサウンドへの憧憬は今なお僕のエクスペリメンタル・ミュージック観の軸のひとつだ。

2017年には、サフディ兄弟監督の犯罪スリラー映画の 「グッド・タイム」のサウンドトラックへと携わり、イギー・ポップとのコラボを実現。カンヌ国際映画祭でサウンドトラック賞を受賞したことも記憶に新しい。2019年にも、同監督が手掛けた犯罪映画「アンカット・ダイヤモンド」の音楽をダニエル・ロパティン名義で担当しているのだけど、ナンと本作にはウィークエンド(!)が本人役で出演している……。

2018年には、2年もの歳月を費やした渾身のアルバム『Age Of』をリリース。アノーニやジェイムズ・ブレイク、イーライ・ケスラー、プルリエントなど、ジャンルの垣根を越えたユニークな面々を起用しているところもとても意欲的だ。〈ポストモダン・バロック〉と評されている同作では、初めて他のミュージシャンをOPN自身の音楽の世界に招き入れた。そして、自身のヴォーカルを初めてフィーチャーしている点にも注目したい。

2018年作『Age Of』収録曲“Black Snow”

『Age Of』には、その世界観をさらに深く読み解くヒントともいえるマルチメディア・インスタレーション〈MYRIAD〉が付随し、ニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーにて初演された。これは往年の仕事仲間であり、ヴィジュアル・アーティストのネイト・ボイスが発案したもので、彼を始め、『Age Of』に参加しているイーライ・ケスラー、ワープのレーベルメイトであるケリー・モーランといった面々やダンサーが参加。変形スクリーンなどのテクノロジーを駆使し、ヴィジュアル表現の極限に挑戦するエキサイティングな企画となっている。ここでは、ロパティンはMIDIキーボードの後ろから静かにパフォーマンスを先導し、『Age Of』収録曲たちの更なる深みへと聴衆を招き入れることとなった。〈MYRIAD〉の模様の一部は下の動画で見られるので、是非ともチェックしてみて欲しい。

〈MYRIAD〉公演の模様とOPNへのインタビュー