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©2019株式会社音響ハウス

 牧村にとってもうひとつの印象深い録音は、82年にリリースされた坂本龍一+忌野清志郎による“い・け・な・いルージュマジック”。この曲の制作のいきさつは、映画の中でも牧村自身によって語られているが、そもそもはひょんな思いつきから生まれたものだった。

 「資生堂の宣伝部の方からキャンペーンのために作られた別の曲のデモテープを聞かせてもらい、何かアイデアを出して欲しいと言われたんですけど、これはつまらないと思うと率直に告げたんです。当時は僕も若かったから(笑)。そのときに坂本さんとキヨシローが一緒にやれば面白い、と思いつきで言ったんですけど、実現するとは思ってなかった。完成前の段階では〈い・け・な・いルージュマジック〉という歌詞の前は坂本さんが白玉のコードを弾いていただけで、歌詞はなかった。でも坂本さんが納得していないような表情を浮かべていたので、矢野顕子の“春咲小紅”のようにしたらいいんじゃないかと助言した。で、〈春咲小紅〉の前に〈ほら〉を付けたように、〈い・け・な・いルージュマジック〉の前にキヨシローお得意の〈Baby Oh Baby〉を付けたんです」

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 ここ数年、70年代の日本のシティ・ミュージックが、海外での反響をきっかけに〈City Pop〉として注目を集めている。「音響ハウス Melody -Go-Round」は、そのシティ・ミュージックの総本山のドキュメンタリーであり、日本の音楽シーンの歴史の一端を垣間見ることもできる。

 「日本の場合、70年代の音楽に関する映像や写真がアーカイヴとしてあまり保存されていないので、たぶん監督はご苦労なさったと思います。でも、この映画には、70年代のシティ・ミュージックの担い手だったミュージシャンやスタッフがたくさん出演している。だからこの映画は、今後もっと価値が上がっていくと思います。10年~20年後の若い人たちは、この映画を通じて日本の音楽の歴史を知るわけだから、これは未来のために作られた作品だと思います」

 


牧村憲一(まきむら・けんいち)
プロデューサー。1946年11月3日東京渋谷生まれ。早稲田大学在学中にユイ音楽工房の設立に参加する。その後CM制作会社オン・アソシエイツにて、大瀧詠一の『サイダー73』などのCM制作。シュガー・ベイブを見出し、山下達郎、大貫妙子をソロデビューさせる。竹内まりやデビュー当時のアルバムプロデュースも担当。

 


CINEMA INFORMATION

映画「音響ハウス Melody-Go-Round」
監督:相原裕美
出演:佐橋佳幸/飯尾芳史/高橋幸宏/井上艦/滝瀬茂/坂本龍一/関口直人/矢野顕子/吉江一男/渡辺秀文/沖祐一/川上つよし/佐野元春/David Lee Roth/綾戸智恵/下河辺晴三/松任谷正隆/松任谷由実/山崎清次/葉加瀬太郎/村田陽一/本田雅人/西村浩二/山本拓夫/牧村憲一/田中信一/オノセイゲン/鈴木慶一/大貫妙子/HANA/笹治正徳/山室久男/山根恒二/中里正男/遠藤誠/河野恵実/須田淳也/尾崎紀身/石井亘<登場順>
主題歌:Melody-Go-Round / HANA with 銀音堂
作詞:大貫妙子 作曲:佐橋佳幸 編曲:佐橋佳幸/飯尾芳史 ブラス編曲:村田陽一
配給:太秦(2019年 日本 99分)
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