Wizkid “Ojuelegba”(2014年)
ウィズキッドは90年生まれ、ナイジェリアのラゴス出身のアーティストだ。これまでに『Ayo』(2014年)、『Sounds From The Other Side』(2017年)というアルバムをリリースし、2020年10月に新作『Made In Lagos』を発表したばかり(ただし、アフロビーツのアーティストは必ずしもアルバムを重視しているわけではなく、シングルに重要なものも多い)。
話は逸れるが、カニエ・ウェストが2011年にフックアップしたナイジェリアのディバンジ(D’banj)は80年生まれである。この記事で紹介するのはその下の世代、80年代後半から90年代前半生まれのミュージシャンが中心で、ウィズキッドはその世代における最大のスターのひとりだと言えるだろう。
彼のファースト・アルバム『Ayo』は、現代のアフリカン・ポップを考えるうえでも重要な作品だと言える。そこに収録されているこの“Ojuelegba”は、現在のミニマルなアフロビーツに比べてパーカッションやシンセサイザーなどの装飾が多く、当時のムードやナイジェリア色を強く感じる。この曲は2015年にドレイクとイギリスのスケプタをフィーチャーしたリミックスが発表され、ウィズキッドの知名度をアフリカの外へと広げるきっかけになった。
このほか、『Ayo』からのシングル“Show You The Money”、ドレイクとの“Come Closer”(2017年)、“Soco”(2018年)、“Joro”(2019年)など、重要な曲は多い。また、彼のあだ名を冠したレーベル〈スターボーイ・エンターテインメント(Starboy Entertainment)〉の運営もシーンにおいて大きな役割を果たしている。
Burna Boy “Ye”(2018年)
ナイジェリア、ポート・ハーコート出身のバーナ・ボーイ(90年生まれの現在30歳)は、ウィズキッドに続くアフロビーツのスターだ。
彼のサード・アルバム『Outside』(2018年)の収録曲“Ye”は、そぎ落とされたサウンド・プロダクションとバーナの特徴的な低い歌声が陶酔的。同年にリリースされたカニエ・ウェストの同名アルバムと混同されてヒットした、というちょっと不思議なエピソードで知られている。
その後、バーナ・ボーイは2019年のアルバム『African Giant』で高い評価を得た。今年8月には、セネガルのヴェテラン=ユッスー・ンドゥールからクリス・マーティン(コールドプレイ)まで多彩なミュージシャンを呼んだ新作『Twice As Tall』をリリース。植民地主義への批判を歌詞に盛り込み、彼にしかなしえないアフロビーツが展開されている。また10月には、軍隊によるデモ隊への発砲事件をテーマにしたポリティカルな楽曲“20 10 20”を発表した。
バーナ・ボーイの存在感を考えると、イギリスの老舗ロック誌「NME」が彼を表紙にしたのも納得がいく。まさにアフロビーツの最前線に立つアーティストだ。
Davido “If”(2017年)
ウィズキッド、バーナ・ボーイと並び立つアーティストといえば、ダヴィドだろう。92年に米アトランタで生まれ、その後ナイジェリアのラゴス、米アラバマ、英ロンドン……と各地を転々としてきたそうで、その経験から豊かな国際感覚を持っていることがうかがえる(父親は豪商で億万長者のアデデジ・アデレケ)。
2012年にデビュー・アルバム『Omo Baba Olowo』を発表したあと、2016年にソニーとメジャー契約を交わす。そこで彼は〈Davido Music Worldwide(DMW)〉を立ち上げ、ナイジェリアのアーティストを世界へと送り出す役割を果たしてもいる。
この“If”は、のちにセカンド・アルバム『A Good Time』(2019年)に収録された2017年のシングル。レゲエ/ダンスホール色が色濃いものの、明るく清涼で軽妙な感覚があるのは、ダヴィドのアフロビーツならでは(プロデューサーは後述するテクノ)。ほかに“Fall”(2017年)などを収録した『A Good Time』にはアメリカのラッパー/シンガーが多数参加しており、現地での評価はそこそこだったものの、英米のメディアから絶賛された。
ダヴィドは前作の続編的な新作『A Better Time』を11月13日にリリースしたばかりだ。
Mr Eazi “Leg Over”(2016年)
ミスター・イージーはバーナ・ボーイと同じくポート・ハーコート出身で、16歳でガーナに移り住んだアーティスト。アフロビーツのサブジャンル〈バンクー・ミュージック(Banku music)〉のパイオニアとして知られ、ガーナのハイライフとナイジャ・ポップ、ダンスホールなどをミックスした独自の音楽を作っている(ちなみに、〈バンクー〉とはキャッサバとトウモロコシを発酵させて練ったガーナの主食のこと)。
アフリカでヒットした“Skin Tight (Feat. Efya)”で2015年に成功をつかんだ彼が、ミックステープ『Life Is Eazi, Vol. 1 – Accra To Lagos』(2017年)からのシングルとして発表したのがこの“Leg Over”。ダンス・ビデオの定番曲として広がり、いまで言うヴァイラル・ヒットした一曲だ。バンクー・ミュージックらしい、レイド・バックした感覚を味わえる。
彼はレゲトンのJ・バルヴィン&バッド・バニー『OASIS』(2019年)、J・バルヴィン『Colores』(2020年)、ドラムンベースのルディメンタル『Toast To Our Differences』(2019年)などに参加し、アフリカ外のアーティストと積極的に交流している。
Tekno “Pana”(2016年)
ナイジェリア北東部、バウチ生まれのテクノは、もともと〈Tekno Miles〉として活動していた。“Duro”(2015年)と並ぶ彼のヒット曲が、“Pana”である。残響や反響を活かした空間性のあるサウンド・プロダクションは、情熱的な愛を歌い上げるリリックとあいまって、とても陶酔的だ。
シンガー・ソングライターでありながら、前述したダヴィドの“If”などでプロデュースを担うこともできるのは、音楽学校で専門的に音楽を学んだ経験を持つからこそ。テクノはアフロビーツのキーマンたちと共演した楽曲やソロ・シングルを断続的に発表しているが、まとまった作品をまだ作っていない。アルバムのリリースが待たれる。