田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週は音楽シーンの動向以前に、アメリカの大統領選挙の話題でもちきりでした」
天野龍太郎「世界が注目する選挙です。そのおかげで、音楽関係のニュースやリリースが少なめでしたが……。大統領選は11月3日に投票が行われ、現在も開票作業が続いています。かなりの接戦で、ジョー・バイデンがリードしているとはいえ、ドナルド・トランプ現大統領が勝つ可能性もなくなったわけではありません」
田中「リベラルな民主党の候補、ジョー・バイデンを支持するミュージシャンが多いわけですが、それ以上に最後の最後まで投票を呼びかける活動がたくさん見られましたね。実際に投票率は66パーセントというかなり高い水準だったようです。〈Go vote〉が合言葉でした」
天野「トレイシー・チャップマンが珍しくTVに出演して、直接〈Go vote〉と歌っていましたね。感動的なパフォーマンスでした。ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動など、さまざまな政治的課題が関わる選挙で、結果が本当に気になります。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. Burna Boy “20 10 20”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はバーナ・ボーイの“20 10 20”です。バーナ・ボーイことダミニ・エブノルワ・オグル(Damini Ebunoluwa Ogulu)は、この連載で何回か紹介しているとおり、ナイジェリアのアフロビーツ・シーンを代表するスターです。2018年、“Ye”というカニエ・ウェストのアルバムと同名の曲が勘違いされてストリーミング・サーヴィスでヒットしたこともあって、英語圏でも成功を掴んでいます」
田中「今年8月には、前作『African Giant』(2019年)に続く快作『Twice As Tall』をリリースしたばかりですね。彼に先んじて世界的な成功を手にしたウィズキッドが先週発表した新作『Made In Lagos』では、“Ginger”という曲に参加していました。同じく先週リリースされた、サム・スミスの『Love Goes』にも客演していて、とにかく注目されていますね」
天野「そんなバーナ・ボーイが10月29日に急きょリリースしたのが、この“20 10 20”です。これは明確なプロテスト・ソングですね。ナイジェリアでは現在、ブラック・ライヴズ・マター運動に連動して、警察の暴力への抗議運動が大きなうねりになっています。バーナ・ボーイもデモに参加していて、欧米のアーティストがこれに協力していることも話題になりました。そんななか、10月20日、ラゴスのレキで平和的に抗議活動を行っていた人々に向けてナイジェリア軍が発砲したんです。20人が亡くなったとも言われており、曲名やカヴァー・アートはその痛ましい事件を表しています」
田中「〈2020年10月20日/あんたは軍隊を率いてレキで多くの若者を殺した〉〈ただ語るのは殺人行為の正当化だけ/参謀長や司令官は命令を遂行するだけ/大統領様よ、市長様よ〉と、この曲では歌われていますね。アウトロでは、実際の発砲音や群衆の混乱を捉えた音声が挿入されています」
天野「リリックからは、バーナ・ボーイがアフロビートの創始者であるフェラ・クティの意志を継ぐ音楽家であることを感じさせます。フェラも、生涯を通してナイジェリア政府や軍と闘っていました。アクチュアルな楽曲であることはもちろん大事なのですが、そういった歴史的な観点からも聴きたい一曲です。僕たちもこの曲を聴くことで、ナイジェリア軍と政府の暴力に抗議したいと思います」
2. Maluma & The Weeknd “Hawái (Remix)”
天野「マルーマとウィークエンドによる“Hawái (Remix)”が2位です。もともと“Hawái”はマルーマが今年の8月にリリースしたアルバム『PAPI JUANCHO』からの大ヒット・シングルなのですが、今回ウィークエンドを新たにフィーチャーしたリミックスがリリースされました。今週の話題をかっさらっていますね」
田中「マルーマは、J・バルヴィンなどと同じくコロンビア・メデジン出身のシンガーです。実はキャリアはけっこう長くて、2012年の『Magia』から最新作の『PAPI JUANCHO』まで5作のアルバムをリリースしています。シャキーラやスティーヴ・アオキといったアーティストたちとのコラボレーションも盛んで、すでに欧米圏でもビッグ・スターと言えるでしょうね。日本でも〈ラテンのチョイ悪プリンス〉と言われ、人気を集めています」
天野「たしかにそのとおりなのですが、ほとんど僕が書いた〈レゲトン/ラテン・トラップ、ラテン・ポップのいまを知るための10曲〉の受け売りじゃないですか。〈チョイ悪〉うんぬんっていう、ちょっとダサいあだ名は初めて聞きましたが……」
田中「2018年に『F.A.M.E.』がリリースされる際、日本のソニーがキャッチ・コピーとして使っていたみたいですよ。さて、“Hawái (Remix)”に話を戻すと、イントロからいきなりウィークエンドの歌が入ってきます。原曲自体も彼にぴったりのスムーズなポップ・サウンドだっただけに、ウィークエンドのシルキーな歌声と相性抜群ですね」
天野「ウィークエンドがスペイン語の歌に初挑戦しているのも話題です。テンポは抑えめですが、ハネた感じのあるビートは絶妙の温度感だし、これはロング・ヒットになりそうな予感。プロデュースを担うルードボーイズ(The Rudeboyz)は、マルーマの作品の他にカリ・ウチスの楽曲などを手掛けてきた注目のプロデューサー・チーム。彼らにも注目したいですね」
3. Stats “Come With Me”
天野「3位はスタッツの“Come With Me”。この曲は亮太さんが推したものでしたよね。シンセサイザーのド派手なうねりとか、なんだか懐かしいエレクトロ・チューンに思えるのですが、どうしてそんなにお気に入りなのでしょうか? そもそもこの人、何者?」
田中「スタッツはウェールズ出身のアーティストで、2019年にアルバム『Other People Live’s』をリリースし、同作がUKのメディアを中心に高評価を受け、いくつかのレビューではLCDサウンドシステムやグルーヴ・アルマダの名が引き合いに出されていました。要はダンス・ミュージックの要素を取り入れたロックということですが、そうしたサウンドのなかでも個人的にはホット・チップやグラス・アニマルズといったアート・ポップ寄りのバンドに近い印象です。メロディーやプロダクションにひねりが効いていて、どこかチャーミングなんですよね。フロントマンでソングライターのエド・シード(Ed Seed)を中心とした6人組としている記事もありますが、いまはほぼシードくんのソロ・ユニットに近い感じなんじゃないかなと。アーティスト写真も彼1人で写っていますし。あと、これを言うとさすがに天野くんも興味が出てくると思うんですが、シードくんはデュア・リパのライブ・バンドのメンバーなんですよ! ギタリストとして世界ツアーに帯同しています」
天野「へー」
田中「響かない!」
天野「まあ、たしかにデュア・リパのリミックス・アルバム『Club Future Nostalgia』と一緒に聴くのがいいかも、と思いました」
田中「この“Come With Me”は、11月13日(金)にリリースされるセカンド・アルバム『Powys1999』からのリード・シングル。〈Powys(ポーイス)〉というのはウェールズの地名で、シードくんが育った場所でもあるんだとか。彼の家は街から少し離れた山の上にあったそうで、ハゲタカの鳴き声とイギリス空軍の飛行機の騒音が強く記憶に残っているらしいです。“Come With Me”はスタッツのなかではひときわアグレッシヴでバンガ―な楽曲ですが、そんな荒涼としながらも騒々しい原風景が反映されているんでしょうね」
天野「ウェールズの山の風景と、このビガビガしたエレクトロ・サウンドがどう繋がるのかは謎ですが……(笑)」
4. Paloma Mami “For Ya”
天野「先ほど話に出たレゲトン/ラテン・トラップの記事や〈2020年期待の洋楽アーティスト50〉などで、今年僕が熱心に推しているチリのレゲトン・シンガー、パロマ・マミから新曲が届けられました! マミの“For Ya”が4位です」
田中「彼女のプロフィールはそれらの記事で確認してもらうとして、パロマ・マミはラテン音楽の世界でもどんどん存在感を発揮していますよね。10月23日にリリースされたばかりのメイジャー・レイザーの新作『Music Is The Weapon』でフックアップされていたことは驚きでした」
天野「彼女が参加した“QueLoQue”、攻めたレゲトン・ナンバーで最高でしたね。アグレッシヴなメイジャー・レイザーの楽曲とは打って変わって、この“For Ya”はマミらしいスムーズでセンシュアルな洗練されたレゲトン。このなめらかなビートとマミのセクシーなヴォーカルは極上の組み合わせですね。彼女の真骨頂を聴ける一曲!」
5. Sega Bodega & Låpsley “Make U Stay”
天野「今週最後の一曲です。セガ・ボデガとラプスリーの“Make U Stay”。セガ・ボデガはデビュー・アルバム『Salvador』を2月にリリースしたばかりの、英ロンドンの若手プロデューサーです。シャイガール(Shygirl)の作品をプロデュースしていることも知られています。現行のUKベース・ミュージック・シーンでかなり注目されている新進気鋭の才能、と言っていいでしょう」
田中「セガ・ボデガの作風はわりとエクスペリメンタルなのですが、いかにもUKベース風のビートやシンセのフレーズが聴けるこの“Make U Stay”は、アッパーなダンス・ナンバー。セガ・ボデガが『僕らはトランスとガラージを溶け合わせたかった』と語っているように、トランスのシンセとUKガラージのリズムが重なっている印象。トランスは近年のエレクトロニック・ミュージックの潮流において再評価されていますね」
天野「あと、僕はこの曲でラプスリーが歌っていることがポイントでした。彼女が3月にリリースした新作『Through Water』は、個人的に今年のフェイヴァリット・アルバムのひとつです。セガ・ボデガのビートの力強さはもちろんのこと、2人の才能がそれこそ〈トランスとガラージ〉のように溶け合っているのに感動したんです」
田中「セガ・ボデガはシャイガールが11月20日(金)にリリースするEP『ALIAS』にも参加しているそうで、そちらも楽しみです。今後の動向がとても気になるプロデューサーですね」