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気持ち悪さや女々しさを隠さない言葉の魅力

――モリタさんはヘルシンキの新作『Eleven plus two / Twelve plus one』を聴いてみていかがでしたか?

モリタ「良いアルバムなのはもう大前提として、薫くんが考えていることもちょっとわかる気がした。というのも、新しい要素を積極的に取り入れている印象があったから。アルバムの後半では、かなり実験的なことをやっていたし、俺はあれ好きだったな。早くも〈次のアルバムはめっちゃ良さそうだな〉と思った(笑)。あと、薫くんは読書家ということもあって、歌詞がおもしろいし、読み応えありますよね。自分の音楽にはそれ絶対ないから」

――橋本さんの歌詞のおもしろさはどんなところにあると思います?

モリタ「気持ち悪いところ(笑)。いい意味で女々しかったりもするし、そこがまたよくて。本当は誰もがそういうところを持っているんだけど、〈男は男らしく〉とかそういう風潮があるなかで、なかなか出せない。でも、薫くんは歌詞のなかで女々しさや弱さを表現できている。音楽ってもともとそういう表現だと思うんです」

――確かに橋本さんの歌詞は、彼自身の抱えている不安感や失意を含めて、気持ちがつまびらかに表れている気がします。

橋本「ナオくんが汲み取ってくれたことは本当にそうだなと思いますね。ただ、表現として出す以上は、解釈は受け手次第という部分も意識しています。起こった出来事をそのまま言ってもただの日記だと思う。リアルな出来事を描くのであれば、そのなかにリアルではない、人によっては気持ち悪いと感じる表現を挟むことで、聴き手の意識を一瞬変なところに飛ばしたい。そういう仕掛けを作ることは常に意識していますね。音楽をやっているのだから、音に言葉が乗ったときに何かが喚起されるようなものでありたいんです」

――仕掛けと言えば本作はコンセプト・アルバムにもなっています。前半の6曲はいままでのヘルシンキがやってきたサウンドにフォーカスした〈過去・現在盤〉。そしてインタールード的な“Mind The Gap”を挟んでの後半6曲は、未来のヘルシンキがやっている音楽を想像して作ったという〈未来盤〉。

モリタ「そういう発想は薫くんっぽいよね」

――〈未来盤〉は、橋本さんが未来に旅して今後数十年間のヘルシンキのキャリアを見てきたうえで、その時々でバンドが演奏していた楽曲を再現したそうですね。CDにはバンドの未来年表も付いてくるという。そうした構想自体はどのように出てきたんですか?

橋本「〈未来盤〉というイメージが思い浮かんだのは2年前くらい。『Tourist』(2018年)を作ったあとに“you are my gravity”の断片ができて、まだ歌詞はなかったんですけど、曲から浮かぶ風景が未来だったんです。そのあとフル・アルバムを作るとなったときに、いろいろなアプローチの曲を入れたかったんだけど、とっ散らかった印象を持たれるかも……という不安もあった。であれば〈未来のヘルシンキ〉というある種の縛りを設けて、そのなかでいろいろやっているのがおもしろいんじゃないかなと。

さらに去年“Good News Is Bad News”を作っているあたりで、その頃は20代の終盤だったんですけど、僕らが影響を受けてきたガレージ・ロックとかって衝動的なものだし、若いうちに鳴らせているものが本物だなと思って。そういうものをちゃんと嘘なく鳴らせるうちに出しておきたい、ということで〈過去・現在盤〉をカップリングしようと考えたんです」

『Eleven plus two / Twelve plus one』収録曲“Good News Is Bad News”

 

橋本薫、未来へ行く

――〈過去・現在盤〉と〈未来盤〉で歌詞のアプローチも変わりました?

橋本「そこは、そんなに意識的ではなかったですけど、特に〈未来盤〉は、未来のヘルシンキがそれぞれの曲をやっているうえでの背景までを一応想像しながら作りました。〈未来盤〉の歌詞は、温度感がなくなっているというか、無機質っぽいんだけど、言葉の端々には人間の本質とか世の真理みたいなものが垣間見えるものをめざしたんです。未来の空気感とかをふまえつつ歌詞も書いているから、そういった部分で結構〈過去・現在盤〉とは違っているんじゃないかと思います。何を言ってるんだという話ですけど(笑)」

一同「(笑)」

――未来の空気感をふまえてってすごい(笑)。

橋本「自分でもマジで見てきたものだと錯覚してますね(笑)」

モリタ「メンバー変わってた?」

橋本「いや、変わってなかった。でも〈未来盤〉“Sabai”という曲をやっている時代には、僕が脱退していて、だからこの曲は稲葉(航大、ベース)が作詞作曲して歌ってる。稲葉はなかなか作ってこなかったんですけど、『いや、俺は脱退しているんだから!』と何度も言って作らせました(笑)。あの曲、僕はレコーディングでも何も関与してないです。そこは徹底しました」

『Eleven plus two / Twelve plus one』収録曲“Sabai”
 

――そもそもメンバーのみなさんは〈未来盤〉というコンセプトについてはすんなり理解してくれたんですか?

橋本「いや、まったくですね。2年間ちょこちょこ伝えていたんですけど、レコーディングが始まっても全然理解していなかった。〈未来〉の曲とかを録りはじめて、“you are my gravity”をみんなで練り直したあたりで、ようやく理解が追いついてきた。この曲は未来の細部についていちばん説明したんで」

『Eleven plus two / Twelve plus one』収録曲“you are my gravity”
 

モリタ「(爆笑)。細部どんなの?」

橋本「“you are my gravity”の未来はかなり先で、2XXX年なんですけど、もう地球がめちゃくちゃ荒廃していて、ビルとかも崩れまくっていて。ほとんど砂地なんですよ」

モリタ「結構ベタな設定だね(笑)」

橋本「僕はいまもiPhone 6sを使っているんですけど、その2XXX年でもiPhone 6sを使い続けているんです。だから僕は未来でも4G回線でインターネットをしていて。だけど、その時代のみんなはもう5Gどころじゃないテクノロジーを使っているから、そうした技術の進歩によってみんなは……。この話、大丈夫?」

モリタ「とりあえず続けてよ」

橋本「あまりにすごいテクノロジーを使っているので、人類はもう肉体を失ってしまっているんですよ。僕だけが肉体を持って生き残っている唯一の人間。だからメンバーももう脳みそだけ、みたいな(笑)。そのなかで僕はiPhone 6sのGarageBandを使って曲を作るんです。その曲をメンバーがなんとかキャッチして、〈俺も参加しなきゃ〉と脳内で作ったギターとベースを入れてくるっていう」

モリタ「なるほどね。じゃあ、お薬出しときますね(笑)」

橋本「ってことを説明したら、納得したみたいで。ギターを入れるときも、あーちょっとこれはまだ肉体あるね、みたいな。ようやくそこらへんでコンセプトを共有できて、7曲目の“Mind The Gap”は過去・現在と未来を繋ぐタイムスリップ感を持ったインストとして太起が作ってきたんですよ」