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音が話したいことを紡ぐ

――そういったことをふまえて、青葉さんが歌詞を書くときに大切にしていることはありますか?

「言葉が持っている音、みんなが使いこんだ言葉に染みこんでいる音階やフレーズみたいなものがあるじゃないですか。言葉を発するとき、おのずと声という音や旋律が伴いますよね。だから歌詞を書くことは、なにを語りたいかよりも、できるだけ音が行きたい方向から大きく外れない言葉を選んであげること、音がもし言葉を持っていたら話したいであろうことを紡ぐ仕事だと思っています。音に対して耳を澄ます、と言いますか。

〈歌〉って伝えるためのものだから、伝わらないと意味がないんです。歌詞は、受け手がそこに入っていきやすい状態にする役割を担うと思って書いています」

――なにかメッセージを伝えるというより、曲のイメージを知るための手がかりみたいなものなんですね。

「今回のアルバムはいろいろな時空や人々の駅のような場所にしたかったので、〈私の願いはこれです〉と差し出すよりも、落ちている貝がらを見つけて拾ったらこういう言葉が聞こえてきそうだなとか、そういう表現の仕方なんです。発光する生物は〈光る〉という表現をしたけど、それがもし言葉や歌詞になったとしたら、こういうことが言いたかったんじゃないかな、とか。

自分がなにかを表現したいと思っても、身体ってそこまで言うことを聞いてくれないんです。たとえば、レコーディングの前日に扁桃炎になって高熱が出たこともありました。“Dawn in the Adan”や“Hagupit”は扁桃腺に激痛を感じるなかで歌っているんです(笑)。私が〈こうしたい〉ということよりも、状況が表現させてくれることのほうが圧倒的に多い。状況に従って歌わされる、と言いますか」

『アダンの風』収録曲“Dawn in the Adan”

――では、青葉さんの身体は状況が奏でる楽器みたいなもの?

「そうですね。ツールでしかないように感じます」

 

音楽家という天命

――10年という節目にきて、音楽活動を振り返って思うことってありますか?

「いままでどおり、でしょうか。……〈続けなくては〉というか、〈続いていくのだろうなあ〉という感じですね」

――デビューされた頃は、〈ミュージシャンとして食べていけるようになりたい〉とか、そういう強い思いを持っていたわけではないですよね?

「まったくないですね。むしろ拒否していたくらいです。どうにかしてデビューしたくない、って(笑)。

ただ、さっき言ったように、自分が考えていることよりも状況のほうが圧倒的に強いんです。ちょっと語弊があるかもしれませんが、どうにもならないんですよね。なにかこう、連れていかれるような、音楽というものに使われる身というか。

音楽や作品という〈脈〉のなかを通るひとつの〈管〉としての役割を感じているんです。身体のなかを音楽や作品たちがよどみなく通過していけるように調整したり、様子を見たり……。そういうことを意識して日々暮らしていくのが大事なんじゃないかと思いました」

――最近は、その役割を受け入れられるようになってきた?

「そうですね。どこかのタイミングで〈従うしかない〉という諦めに近いものを感じました。〈これだけ拒んでも離してくれない音楽の存在って、なんなんだろう?〉とびっくりしたんですよね」

――きっと、音楽は青葉さんのことをしばらく離してくれないと思いますよ(笑)。

「自分が〈管〉であることが徐々にわかってきたんですね。それぞれの命に授けられた役割のようなものがあると思うんです。たとえば、私が考えていることをみなさんにわかりやすく伝えるには、こうやって話を訊いてくれる方が絶対に必要です。もし私一人だったとしたら、こんなにお話しできませんでした。そうやって、それぞれが与えられた役割をまっとうする。

この人生において私が与えられた役割は、歌うことなんですよね。これだけ音楽に誘われているんだったら、天命だと思って使われよう、と思っています」

 


EVENT INFORMATION
Ichiko Aoba Exhibition “Windswept Adan”
2020年12月4日(金)~2021年1月31日(日)東京・代官山 蔦屋書店3号館 2階 音楽フロア
主催:代官山 蔦屋書店
共催・協力:株式会社 スペースシャワーネットワーク
お問い合わせ:03-3770-2525
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/music/17314-1330391123.html