Kroiを形成するアルバム10枚
――それでは次に、前回のインタビューの最後で宿題にしていた〈Kroiを形成するアルバム10枚〉を教えていただければと思いまして、一人2作品ずつ選んできていただいたそうなので、それぞれお話を伺えればと思います。まず千葉さんが挙げたのが、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の『Xscape』(2014年)です。
千葉「マイケルっていろんなジャンルからエッセンスを持ってきて、その時代の新しい音作りに挑戦して、結果ポップにしていますよね。『Xscape』はマイケルの死後に出た一番新しいアルバムで、マイケルが亡くなってしまった後は、新しいマイケルの音楽を聴く手立てがないと思っていたんですけど、彼の遺志をティンバランド(Timbaland)たち錚々たるメンバーが受け継いで、〈マイケルが生きていたらこういう音楽を作るだろう〉っていう作品を作り上げたんです。キックはガシガシ鳴ってるのにストリングスがたくさん入ってたり、意味分かんないようなシンセがたくさん入ってたり、常に聴いたことのない音楽が鳴っているのがいいなと思うんですよね」
――さっき話があった、Kroiの〈トゥモローランド感〉にも関係してそうですね。
千葉「めっちゃ活きてます。マイケルって他のアーティストよりズバ抜けて変な音を出していて、それはいろんなアプローチをしているということでもあるんですけど、なのにポップなのがいいんですよね」
――もう一つが、サムO.B.(Sam O.B.)の『Positive Noise』(2017年)。
千葉「僕はKroiに加入する前は一人でトラックを作ったり、アレンジャーをしたりしてたんですけど、高校生の頃からCAPSULEを聴いて中田ヤスタカさんに憧れてたんですね。そこからヨーロッパのプロデューサーの作品を聴いたり、EDMに行ったりして、エレクトロやダンス・ミュージックを聴くようになったんです。で、最終的にハマったのがこの人で、あまり知られてないと思うんですけど、アメリカのプロデューサーの人です。この人自身が楽器を演奏して歌も歌ってバンド・サウンドなんですけど、これもスペーシーで、めっちゃトゥモローランドです。この音使いも今のKroiのアレンジに活きてますね」
――Kroiを紹介する時に、どうしてもブラック・ミュージックの話は避けては通れないですけど、それ以外の要素もたくさんあると思っていて、そういうのは千葉さんのこういう趣味が影響してるのかもしれないですね。
千葉「そうですね。僕はトラックメイカーから受けた影響がめちゃくちゃ大きいので、サムO.B.の作品に参加しているSeihoさんとかも好きですし、ムラ・マサ(Mura Masa)とかも聴くし、SoundCloudでずっとダンス・ミュージックを聴いてたし、それは他の4人にはない部分かもしれないですね」
――次は長谷部さん。まずハービー・ハンコック(Herbie Hancock)の『Secrets』(76年)。
長谷部「みんなが挙げてるアルバムの中に俺も選びたいのが結構あったんですよ、レッチリとかレイジとか」
内田「お前、先出してたやんけ(笑)!」
長谷部「(笑)。なのでハンコックはギタリスト目線で入れました。ハンコック自体もKroiのルーツの一つになってると思うんですけど、ワー・ワー・ワトソン(Wah Wah Watson)っていう人のギターに結構ハマっているというのもあって選びました」
内田「ジャズ・ファンクの名盤ですよね」
――めちゃくちゃカッコいいですよね。そしてもう一つがマリーナ・ショウ(Marlena Shaw)の『Who Is This Bitch, Anyway?』(74年)。
長谷部「こっちはゴリゴリのR&Bですね。デイヴィッド・T・ウォーカー(David T. Walker)というギタリストがとにかくすごくて、これも名盤ですね」
内田「『ギター・マガジン』かよ!」
一同「(笑)」
長谷部「歌い回しとかR&BのエッセンスはKroiの音楽に確実に影響を与えていて、パッと思い付きました。メジャーどころですけど、4曲目の“Feel Like Makin' Love”がオススメです」
――次は益田さん。一つめはスライ&ザ・ファミリー・ストーン(Sly & The Family Stone)『Fresh』(73年)。
益田「僕はブルースにめっちゃハマってたんですけど、その前にスライのこの作品に出会ってめちゃくちゃ聴いていて。スライの綿々と続くネトネトした感じが良くて」
内田「ネトネト……」
益田「え、ネトネトしてない?」
一同「……」
千葉「益田さんの音の例え方って独特だよね(笑)」
内田「ドラムの音も〈バシャバシャ〉とか言うし」
益田「曲全体がネトネトしてるんですよ。で、ストーリー性もあってカッコいいんです」
内田「ビートに絡みつくような雰囲気ってことかな?」
――なるほど。音符には表せないグルーヴとか。
益田「そうです。独特のノリ感がいいんです」
――もう一つが、ジョン・スコフィールド(John Scofield)の『That's What I Say(John Scofield Plays The Music Of Ray Charles)』(2005年)。
益田「これは怜央に〈これやべーよ!〉って教えてもらったんですけど、(スティーヴ・)ジョーダン(Steve Jordan)がほとんどの曲で叩いていて、そのビートを聴いた時にビックリして腰を抜かしました。〈こんな野性的なドラミングがあるんだ〉って衝撃を受けて」
内田「あれは唯一無二のサウンドだよね。ワンショット聴いただけでスティーヴ・ジョーダンって分かる音で」
益田「バック・ビートで人殺すんじゃないかくらいのカッコいい音で」
千葉「それはジョーダン?」
益田「それは冗談(笑)」
――そういうドラムが益田さんの目指すところですか?
益田「ああいうビートを叩けるようになりたいですね」
内田「めっちゃかわいいな!」
関「中学生のコメントみたい」
一同「(笑)」
――関さんは、カーディガンズの(The Cardigans)『Life』(95年)と、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against The Machine)の『Rage Against The Machine』(92年)を挙げています。
関「どちらもKroiのルーツというより個人的なルーツなんですけど、この2枚が洋楽を聴きだしたきっかけで、後にブラック・ミュージックにハマる始まりでもあるので今回挙げました。これが無かったらファンクの魅力に気付かなくて、今みたいなベースを弾くこともなかったかもしれないし。
カーディガンズは、中学生の時に『ドライヴィン2』っていう車のCMの曲ばかり集めたオムニバス・アルバムが実家にあって、そこに入ってた“Carnival”っていう曲が特に好きで、そこから〈この人たち他はどんな曲をやってるんだろう〉って思って。そしたら当時PerfumeがペプシのCMでカーディガンズの“Lovefool”をカヴァーしていて、同じタイミングだったので、そこからどハマりしていきましたね。それが洋楽にハマった最初のきっかけです。
その後、大学で周りにメタル好きがたくさんいてメタルにハマるんですけど、でも人と同じなのはイヤなので〈何か新しいメタルはないかな〉と思って掘ってたら、ラップ・メタルというジャンルに出会いまして。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンはサウンドが唯一無二だし、ベースラインもエグいくらいにカッコよかったんです。でも、ラップ・メタルってメタルの破壊的な音色も出てくるのに、ラップっていう元はブラック・ミュージックの要素を取り入れてるだけあって、身体が揺れるようなノリがあるんですよね。そのミクスチャー感にハマったんです。レイジのベーシストのティム・コマーフォード(Tim Commerford)に憧れて、楽器を買ったり、改造したり、弾き方を真似したりしましたね。そのサウンドはKroiにも活きていると思います」
――最後に内田さん。フージーズ(The Fugees)の『The Score』(96年)と、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)の『Stadium Arcadium』(2006年)です。
内田「2枚とも大名盤を挙げさせてもらいました。もう俺はローリン・ヒル(Lauryn Hill)とアンソニー・キーディス(Anthony Kiedis)によって構成されているので、この2つを聴いてもらえれば、〈ああ、コイツはこれで曲作ってんだな〉って思うと思います(笑)」
一同「(爆笑)」
内田「フージーズの方は、フージーズ自体よりローリン・ヒルにかなり食らってしまって、ちゃんと歌も歌えるしタイトなラップもできて、純粋に〈俺もそういうふうになりたい〉と思いましたね。そこからはガッツリ、歌もラップも頑張る気になりました」
関「ラップを始めたのは高校だっけ?」
内田「高校の時だね、ヴォーカルも高校からです。フージーズは、バチバチした演奏の中にどこか仲間内でダラっとレコーディングしているような雰囲気があって、わざと音程を外して歌っていたり、サンプリングの幅が広くて遊び心があったりして、それが今のKroiのクリエイションに直結してると思います。
レッチリの方は、俺はレッチリに出会ってなかったら絶対ここにいないと思います。出会ったのが中2の時で、リアルタイムじゃないんですけど、『デスノート』(映画『デスノート 前編』の主題歌が“Dani California”)と『BECK』(映画『BECK』の主題歌が“Around The World”)で聴いたことあったし、当時ドラムを習ってて、その課題曲が“By The Way”だったし。それでライブ映像を観てみたらシガール(「Live La Cigale 2006」)っていうところのフェスの映像で、アンソニーがチャド(・スミス)のバスドラに向かって走って腕でハネ上がるシーンがあって、〈あ、この人たち頭おかしいな〉って思ったんですよね。だから最初はオモシロ動画として観てたんですけど、そこから〈これはカッコいいぞ〉ってなって、それからはメンバー全員のモノマネをしてましたね」
――一人レッチリ(笑)。いい趣味ですね。
内田「実際に動画作りましたもん。どこかにアップするわけでもなく、長谷部にだけ見せて(笑)。一番好きなアルバムってなると、『Blood Sugar Sex Magik』(91年)なんですけど、Kroiを構成するアルバムってなると、このクリエイション大爆発な感じと、曲が多いところで『Stadium Arcadium』なんですよね。2枚組で28曲も入ってるんですけど、もう全曲好きで」
長谷部「俺おととい“Wet Sand”聴いて泣いてたわ」
内田「そう! 俺ら“Wet Sand”のギター・ソロが大好きで、2006年の〈Pinkpop Festival〉の映像がYouTubeに上がってるんで是非観てほしいです。あれの“Wet Sand”のアウトロのジョン・フルシアンテ(John Frusciante)のソロは涙出ますよ」
長谷部「何がいいって、そのソロの前にジョンが叫ぶんですよ。それがたまらない」
内田「やっぱり自分で挙げたかったんだね(笑)」