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電子音楽の最前線に受け継がれるポリゴン・ウィンドウのサウンド
by 坂本哲哉

レディオヘッドやビョーク、ティンバランドはもとより、フランク・オーシャンやアルカ、あるいはコリン・ステットソンに至るまで、エイフェックス・ツインが影響を与えたアーティストは数多存在する。だが、果たして彼のポリゴン・ウィンドウ名義での『Surfing On Sine Waves』からの影響と考えるとどうだろう。ワープが〈Artificial Intelligence〉シリーズで標榜した〈エレクトロニック・リスニング・ミュージック〉を具現化したような、アナログ・シンセとリズム・マシンで作られた荒涼としつつもロマンチックな音楽。そんな音楽はリリースから27年経った今、どのようにして現代の電子音楽家/プロデューサーに受け継がれているのだろうと考えたとき、牽強付会な見立てかもしれないが、一つのアルバムが思い浮かんだ。ベルリン・テクノの総本山といってもいいオストグート・トンからリリースされたシェッドによる『Oderbruch』(2019年)である。

彼の生まれ育ったドイツとポーランドの国境の地域をタイトルに冠した同作は、90年代初頭のレイヴを想起させる”Sterbende Alleen”のようなブレイクビーツ・トラックも印象的だが、何よりも魅力的なのはアルバム全体を覆う鬱々としながらもロマンチックなムードだ。とりわけ、”Nacht, Fluss, Grille, Auto, Frosch, Eule, Mücke”から”Seelower Höhen”までの流れが素晴らしく、まるで『Surfing On Sine Waves』の”If It Really Is Me”から”UT1-Dot”の展開を再現し、更に深化させたサウンドのように聴こえる。

シェッドの2019年作『Oderbruch』収録曲”Nacht, Fluss, Grille, Auto, Frosch, Eule, Mücke”

『Surfing On Sine Waves[完全版]』収録曲“If It Really Is Me”

また、シェッドが『Oderbruch』をリリースする4年前に発表したEP『Constant Power』(2015年)では、ポリゴン・ウィンドウの”Supremacy II”や”Quoth”あたりのハードなテクノ・トラックを彷彿とさせるような、凶暴なブレイクビーツを鳴らしており、彼のサウンドのブループリントとなったのが、エイフェックス・ツインの諸作品ではなく、『Surfing On Sine Waves』であることを強烈に印象づけるだろう。

シェッドの2015年作『Constant Power』収録曲”Break up III Tk4.”

そんなシェッド以外にも『Surfing On Sine Waves』の影響下にあると思われる作品を二つほど紹介したい。一つは、韓国はソウルを拠点とするレーベルのブレインダンスからリリースされた、IRT2000とUnreg Alienによるユニット、THAADのEP『Infrared Sat』(2018年)だ。一聴するとド派手なIDMのように聴こえるが、後半にいくにつれて立体感のあるシンセのうねりが脳と身体を揺さぶる。そのサウンドはまるで、ポリゴン・ウィンドウの”Supremacy II”をサンプリングし、チョップド&スクリュードしてしまったようなサウンドで、ある意味ではそのサウンドはヴェイパーウェイヴ化されたポリゴン・ウィンドウと呼ぶことができるだろう。

THAADの2018年作『Infrared Sat』トレイラー

『Surfing On Sine Waves[完全版]』収録曲“Supremacy II”

そしてもう一つは、クロアチア出身のロバート・メルラクの新作『Finomehanika』(2020年)。20年以上のキャリアがありながらソロ・アルバムとしては2作目となる同作は、メランコリックであると同時にインダストリアル的な質感も持ったアンビエント作だ。その荒涼としたダーク・アンビエントは、今まではエイフェックスの『Selected Ambient Works Volume II』くらいしか接続点がなかったといっていい『Surfing On Sine Waves』本編最終曲”Quino-Phec”の続編を描いたよう。今『Surfing On Sine Waves』の次にこの作品を聴くと、新たな電子音楽の可能性を発見できるかもしれない。

ロバート・メルラクの2020年作『Finomehanika』“Bilo jednostavno feat. Miro Merlak”

このようにして現在もそのサウンドが受け継がれている『Surfing On Sine Waves』は、エイフェックス・ツインの膨大なディスコグラフィーの中でも、未だに再解釈の余地を残す、ミステリアスでロマンチックな作品なのだ。

 


INFORMATION

POLYGON WINDOW 『Surfing On Sine Waves[完全版]』 Warp/BEAT(2020)

​リリース日:2020年12月4日
仕様:国内盤CD
国内盤特典:ボーナス・トラック追加収録/解説書封入
品番:BRC-645
価格:2,200円(税別)

TRACKLIST
1. Polygon Window
2. Audax Powder
3. Quoth
4. If It Really Is Me
5. Supremacy II
6. UT1-dot
7. Untitled
8. Quixote
9. Portreath Harbour
10. Redruth School
11. Quino-Phec
12. Bike Pump Meets Bucket
13. Iketa
14. Quoth (Wooden Thump Mix)

 

WARP RECORDS CAMPAIGN 2020
2020年10月16日(金)~2021年2月28日(日)

■ステッカー封入商品(初回生産分のみ)
オウテカ『SIGN』国内盤(2020年10月16日リリース)
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Magic Oneohtrix Point Never』国内盤(2020年10月30日リリース)
ポリゴン・ウィンドウ『Surfing On Sine Waves[完全版]』国内盤(2020年12月4日リリース)
オウテカ『PLUS』国内盤(2020年11月20日リリース)

 

対象商品3枚以上購入して応募すると、Warpオリジナル卓上カレンダーを必ずもらえる!

■対象商品
スクエアプッシャー『Be Up A Hello』国内盤(発売中)
スクエアプッシャー『Lamental EP』国内盤(発売中)
イヴ・トゥモア『Heaven To A Tortured Mind』国内盤(発売中)
ロレンツォ・センニ『Scacco Matto』国内盤(発売中)
ダークスタ―『Civic Jams』国内盤(発売中)
オウテカ『SIGN』全形態(デジタルは対象外)
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Magic Oneohtrix Point Never』全形態(デジタルは対象外)
ポリゴン・ウィンドウ『Surfing On Sine Waves[完全版]』国内盤(2020年12月4日リリース)
オウテカ『PLUS』国内盤(2020年11月20日リリース)

■応募方法
対象商品に貼付された応募券を集めて、必要事項をご記入の上、官製ハガキにて応募締め切り日までにご応募ください。
締め切り:2021年2月末日消印有効
http://www.beatink.com/user_data/warp2020.php