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2. Lana Del Rey “Chemtrails Over The Country Club”

天野「2位は、ラナ・デル・レイの新曲“Chemtrails Over The Country Club”です。傑作『Norman Fucking Rockwell!』を2019年にリリースして、米国を代表するアーティストに上り詰めたラナ。2020年は詩集とスポークン・ワード作品の『Violet Bent Backwards Over The Grass』を発表、シングル“Let Me Love You Like A Woman”、そしてジョージ・ガーシュインのスタンダード・ナンバー“Summertime”のカヴァーもリリースしています。後者は自身の“Summertime Sadness”(2012年)を意識してか、〈The Gershwin Version〉というかなり挑発的な副題がつけられていますね(笑)」

田中「今回の新曲は、3月19日(金)に発表されるニュー・アルバムの表題曲です。前作が2019年8月にリリースされたことを考えると、約1年半ぶり。けっこう早いペースですが、もともとは2020年9月のリリースを予定していたのだとか。COVID-19のパンデミックで遅れたようです

天野「“Chemtrails Over The Country Club”は、ハチロクのリズムが印象的なロッカバラードですね。ピアノやストリングス、アコースティック・ギター、ドラムがゴーストリーに響いていて、〈いかにもラナ〉という感じの古いアメリカン・ポップを思わせるサウンドですが、imdkmさんが〈歌のリズムが現代的〉と指摘していて、〈なるほど〉と思いました。たしかにグリッドに対して遅れ気味だったり、先行していたり、3連のリズムで歌っていたりと、なかなかおもしろい。プロデューサーはラナとジャック・アントノフ。リヴァーブが全体的にかかっていて、幻想的な音像が印象的です」

田中「注目の歌詞は、〈カントリー・クラブ上空のケムトレイル〉というフレーズが強烈です。というのも、〈ケムトレイル(chemtrail)〉とは陰謀論の一種。通常よりも長く空に残る飛行機雲について、航空機が有害な化学物質をまき散らしている、それが病気を引き起こしているんだ、という考えのことです。陰謀論者のQアノンが跋扈するいまのアメリカの状況を考えると、かなり含みがありますよね」

天野「〈カントリー・クラブ〉をアメリカ、〈ケムトレイル〉を陰謀論の象徴や暗喩だと考えると……。歌詞はかなり深読みできそう。ちなみに、ラナはまた炎上中なんですよ。〈BBC Radio 1〉のインタビューで『米国議会の襲撃事件は起こるべくして起こった。ソシオパスとナルシシズムの問題。トランプは、彼が暴動を引き起こしたなんて思っていない』などと語って、それが〈トランプは暴徒を扇動していない〉と擁護しているように取られたんです。彼女は発言を切り取って報道するメディアの印象操作に怒っていて、Twitterなどで反論していますね。平常運転とも言えますが、大丈夫なのかな……。とにかく、新作が楽しみです」