田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。昨年の12月からは〈年間ベスト・ソング25〉〈2020年に発表された洋楽クリスマス・ソング14選〉〈2020年の洋楽アルバム20〉〈2021年期待の洋楽アーティスト20〉と特別企画を行っていたので、ひさしぶりの通常回ですね」

天野龍太郎「毎週の積み重ねがあってこその年間ベストだと思うので、2021年も頑張っていきましょう! 今年も年始からさまざまなトピックがありましたが、亡くなってしまったミュージシャンが多くてショックを受けました。MFドゥームに始まり、ジェリー・マースデンやチルドレン・オブ・ボドムのアレキシ・ライホら、数々のミュージシャンの訃報が届いて……」

田中「ここ数日もセンスレス・シングスのマーク・ケッズ、ヴァニラ・ファッジのティム・ボガート、ニューヨーク・ドールズのシルヴェイン・シルヴェインと、ロック史に名を残すミュージシャンたちが逝去。悲しみが募るばかりです」

天野「世界に衝撃を与えたのは、1月6日に起きた米国連邦議会議事堂への襲撃事件です。音楽の世界では、アリエル・ピンクとジョン・マウスが事件のきっかけになったドナルド・トランプを支持する集会に参加していて、波紋を広げでいます。音楽家がどんな政治思想を持っていようと構わないのですが、民主主義の努力を無に帰すような暴動を教唆したトランプを心の底から支持できるのでしょうか? 僕は甚だ疑問ですし、一度自身の胸に問い返してほしいです」

田中「気を取り直して、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から! なおプレイリストは、更新していなかった1か月分の楽曲を網羅していますので、かなりのヴォリュームになっています。ぜひチェックしてください」

 

1. Olivia Rodrigo “drivers license”
Song Of The Week

天野「2021年最初の〈SOTW〉は、オリヴィア・ロドリゴのデビュー・シングル“drivers license”です! この曲、すごく話題なんですよね。現在Spotifyの〈グローバル トップ50〉で1位ですし、いまは2位になってしまいましたが歌詞サイト〈Genius〉のチャートでもずっと1位でした。Billboard Hot 100で初登場1位になるんじゃないか、と予想されています」

田中「というのも、オリヴィアは〈Disney+〉のTVシリーズ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』の主役の一人、ニニ役で人気の俳優なんですよね。挿入曲“All I Want”(2019年)がヒットするなど、アクターとしてもシンガーとしても注目されている存在です」

天野「まさに、いまのアメリカのエンターテインメントの最前線に立っているわけですね。彼女はカリフォルニア出身、2003年生まれのまだ17歳! 幼稚園時代からヴォーカル・レッスンを受け、12歳で作曲を始め、小学生の頃から俳優を目指していた、という早熟すぎる才能の持ち主です」

田中「プレス・リリースによると、〈スウィフティーズ〉、つまりテイラー・スウィフトのファンで、この曲がヒットしたことでテイラーから〈さすが私のベイビー。本当に誇りに思う〉なんてコメントをもらったのだとか。オリヴィアはテイラーのことを〈ママ〉と呼んでいるそうですね(笑)」

天野「本題の“drivers license”について話しましょう。作曲はオリヴィア自身と、作曲家でプロデューサーのダン・ニグロ(Dan Nigro)。プロデュースはニグロが担当しています。彼は2010年に解散したバンド、アズ・トール・アズ・ライオン(As Tall As Lions)のフロントマンで、解散後はプロデューサーとしてカーリー・レイ・ジェプセンやスカイ・フェレイラなどを手がけてきました。サウンドは切々と歌い上げるオリヴィアのヴォーカルとピアノが中心で、次第にビートやコーラスなどが加わってドラマティックに盛り上がっていきます。テイラーというよりも、ロードの歌やサウンドにかなり近いなと思いました。だから、個人的にすごくツボなんです」

田中「なるほど……(笑)。歌詞の内容はストレートな失恋ソングですね。歌い出しは、〈運転免許を取った/いつも話していたように/ついにあなたの家まで運転して/あなたは興奮していたよね/でも今日は一人で郊外を流していた/なぜならあなたがそばにいないから〉という歌詞です」

天野「この曲が話題なのは、オリヴィアがジョシュア・バセットとの過去の恋愛関係を歌ったんじゃないか、というゴシップと関係しているからなんです。ジョシュアは〈ザ・ミュージカル〉のリッキー役で、現在サブリナ・カーペンターと付き合っているのだとか。なので、“drivers license”にはオリヴィアの複雑な感情が込められているのだろうと……。ただ、そのことを抜きにしても感動的なバラードで、このヒリヒリとした感傷にたくさんの聴き手が共感しているんだと思います。早くも2021年を代表する一曲になるのではないでしょうか」

 

2. Lana Del Rey “Chemtrails Over The Country Club”

天野「2位は、ラナ・デル・レイの新曲“Chemtrails Over The Country Club”です。傑作『Norman Fucking Rockwell!』を2019年にリリースして、米国を代表するアーティストに上り詰めたラナ。2020年は詩集とスポークン・ワード作品の『Violet Bent Backwards Over The Grass』を発表、シングル“Let Me Love You Like A Woman”、そしてジョージ・ガーシュインのスタンダード・ナンバー“Summertime”のカヴァーもリリースしています。後者は自身の“Summertime Sadness”(2012年)を意識してか、〈The Gershwin Version〉というかなり挑発的な副題がつけられていますね(笑)」

田中「今回の新曲は、3月19日(金)に発表されるニュー・アルバムの表題曲です。前作が2019年8月にリリースされたことを考えると、約1年半ぶり。けっこう早いペースですが、もともとは2020年9月のリリースを予定していたのだとか。COVID-19のパンデミックで遅れたようです」

天野「“Chemtrails Over The Country Club”は、ハチロクのリズムが印象的なロッカバラードですね。ピアノやストリングス、アコースティック・ギター、ドラムがゴーストリーに響いていて、〈いかにもラナ〉という感じの古いアメリカン・ポップを思わせるサウンドですが、imdkmさんが〈歌のリズムが現代的〉と指摘していて、〈なるほど〉と思いました。たしかにグリッドに対して遅れ気味だったり、先行していたり、3連のリズムで歌っていたりと、なかなかおもしろい。プロデューサーはラナとジャック・アントノフ。リヴァーブが全体的にかかっていて、幻想的な音像が印象的です」

田中「注目の歌詞は、〈カントリー・クラブ上空のケムトレイル〉というフレーズが強烈です。というのも、〈ケムトレイル(chemtrail)〉とは陰謀論の一種。通常よりも長く空に残る飛行機雲について、航空機が有害な化学物質をまき散らしている、それが病気を引き起こしているんだ、という考えのことです。陰謀論者のQアノンが跋扈するいまのアメリカの状況を考えると、かなり含みがありますよね」

天野「〈カントリー・クラブ〉をアメリカ、〈ケムトレイル〉を陰謀論の象徴や暗喩だと考えると……。歌詞はかなり深読みできそう。ちなみに、ラナはまた炎上中なんですよ。〈BBC Radio 1〉のインタビューで『米国議会の襲撃事件は起こるべくして起こった。ソシオパスとナルシシズムの問題。トランプは、彼が暴動を引き起こしたなんて思っていない』などと語って、それが〈トランプは暴徒を扇動していない〉と擁護しているように取られたんです。彼女は発言を切り取って報道するメディアの印象操作に怒っていて、Twitterなどで反論していますね。平常運転とも言えますが、大丈夫なのかな……。とにかく、新作が楽しみです」

 

3. Jazmine Sullivan feat. H.E.R. “Girl Like Me”

天野「先週1月8日にリリースされたジャズミン・サリヴァンの新作『Heaux Tales』は、かなり評判ですね。同作のシングルとして発表された“Girl Like Me”が3位です」

田中「米フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライターであるジャズミンは、2008年にアルバム『Fearless』でデビューしています。ニーナ・シモンのトリビュート作『Nina Revisited...』(2015年)への参加、カインドネスのアルバム『Something Like A War』(2019年)など数々の客演も話題でした」

天野「今回のアルバムは通算4作目。EPですが、ほぼアルバム・サイズですね。NYタイムズ紙は〈もっとも黒い〉〈ヴィンテージなサザン・ソウルを日常やエレクトロニックなヒップホップのサウンドスケープに落とし込んだ〉と褒め称え、ローリン・ヒル『The Miseducation Of Lauryn Hill』やビヨンセ『Lemonade』などの名盤を引き合いに出しています。Pitchforkは〈Best New Music〉に選んでいますし、スポークン・ワードを効果的に配置した構成、現代の愛の在り方や女性性に向き合ったコンセプト性が高く評価されているんです」

田中「このシングルは現在のR&Bを代表するH.E.R.をフィーチャーしていて、2人の深い歌声が絡まり合うさまは圧巻です。ヒップホップ・プロデューサーのボンゴ(Bongo)によるサウンドは簡素なギターの爪弾きのループが中心ですが、ヴォイス・サンプルの挿しこみ方などがトリッキーでおもしろい。とはいえ音数は少なくて、だからこそ歌のパワーが伝わってきますね」

天野「離れていった恋人のことを思いながら感傷を歌った歌詞にも注目してほしくて、〈Tinder〉や〈(SNSでの)ブロック〉など、現代的なワードを使っているあたりがいいなと思いました。2021年最初の話題作と言っていい『Heaux Tales』、ぜひ聴いてみてください」

 

4. Hiss Golden Messenger “Sanctuary”

田中「4位はヒス・ゴールデン・メッセンジャーの“Sanctuary”。 ヒス・ゴールデン・メッセンジャーは〈オルタナ・カントリー/インディー・フォークの良心〉なんて言われることが多いバンドですが、意外にもMikikiにはまったく記事がなかったので、ちょっと説明しますね。フロントマンのM.C.・テイラー(M.C. Taylor)を中心に、2007年に結成。以降コンスタントに活動を続け、オリジナル・アルバムの数は10枚を超えています。芳醇なバンド・アンサンブルとテイラーのまろやかな歌声が魅力で、2019年にリリースしたアルバム『Terms Of Surrender』は2020年のグラミー賞で〈ベスト・アメリカーナ・アルバム〉にノミネートされました」

天野「もはやウィルコやマイ・モーニング・ジャケットと並ぶ、現代アメリカーナを代表するバンドと言えるのではないでしょうか。この“Sanctuary”は、『Terms Of Surrender』以来の新曲。ミュージック・ビデオでも象徴的に使われている、逆さまの星条旗をあしらったアートワークがまず目を引きますね。なお、上下を逆にした星条旗は〈救難信号〉の意味を持っています。冒頭で言った議会襲撃事件が起きるなど、大統領選挙以降のアメリカはますます混迷を極めている。この曲からは、そうした祖国への憂いや悲しみを感じずにはいられません」

田中「〈あなたはいいニュースを聞きたい/あなたは聖域を求めている〉というコーラスは、多くのアメリカ国民がいま抱いている願望を映し出しているように思います。とはいえ音楽自体は暗かったり重かったりするものではなく、軽やかに弾むリズムや活き活きとした演奏はとてもブライト。〈気分はバッド/そしてブルー/自分の心から抜け出せないよ/でも歌う方法は知っているんだ〉というラインが象徴的で、ほのかなポジティヴィティーを漂わせた楽曲になっているんですよね」

天野「歌詞には昨年亡くなったジョン・プラインへのトリビュートと思しきフレーズがあって、偉大な先人の遺志を生きている自分たちが継承していくんだ、という意思を表明した曲でもあるのかなと。〈混乱した世界で互いにケアし合うことについて、真実とともに生きることがいかに困難かについて、2020年を通して考えていた〉というテイラーのコメントにもぐっときました。アメリカ音楽の強さを感じた一曲です」

 

5. Wild Pink “Oversharers Anonymous”

田中「今週最後の曲はUSインディー・ロック・バンド、ワイルド・ピンクの“Oversharers Anonymous”。今回の5曲を選ぶにあたって、田中の推薦曲を天野くんに伝えたら、〈なんでそんなに推しているのか、まったくわかりませんでした〉と冷たく言われてしまい、悲しかったのですが……」

天野「すみません(苦笑)。亮太さんが前から彼らのことを好きなのは知っていますけど、〈ポップ〉を掲げる〈PSN〉で取り上げるにはそれなりの理由が必要なんじゃないかなって思うんです。アメリカーナとシンセ・ポップを独特のクールな質感で混ぜ合わせたような彼らのサウンドは、個人的な好みではあります。でも、フレッシュさや先鋭性に欠けるんですよね~。フロントマンでソングライターのジョン・ロス(John Ross)は透明感あふれる歌声が魅力的で、あのナイーヴさに亮太さんが強く惹かれるのは理解できますが」

田中「的確に魅力を捉えているじゃん……。〈PSN〉で紹介するのは初めてなので簡単に紹介しておくと、彼らはNY・ブルックリンを拠点にしている3人組。2018年のセカンド・アルバム『Yolk In The Fur』が高く評価され、Stereogumの年間ベスト・アルバムでは24位に選ばれていました。僕にとってはこの年のNo. 1アルバムでしたね」

天野「やたらと盛り上がってましたよね。いかにも亮太さんらしいというか、なんというか……。この“Oversharers Anonymous”は、2月19日(金)にリリースされる新作『A Billion Little Lights』からのリード・シングルです。ペダル・スティール・ギターの音色が印象的なカントリー調のサウンドが彼ららしい。今回は、大きくフィーチャーされたストリングスが優美なムードを湛えていますね」

田中「うっとりしてしまいます。ワイルド・ピンクというバンドは、ソングライティングやアンサンブルの面ではブルース・スプリングスティーンやトム・ペティといったアメリカン・ロックの系譜にあると思うんですけど、そういったミュージシャンたちが持っていた男っぽさや汗の臭いをまったく感じさせないところがおもしろい。とにかくフェミニンで清涼なんですよね。ニュー・アルバム、今年もっとも楽しみにしています!」