〈ZARD坂井泉水の歌はどう生まれたのか? なぜ彼女の言葉は人々の心を捉え続けるのか〉。昨年、NHK BSプレミアムで放送され、大反響を呼んだZARDスペシャルドキュメンタリー番組「ZARDよ 永遠なれ 坂井泉水の歌はこう生まれた」が、デビュー30周年となる2月10日に特別編集版で待望のパッケージ化!!

ZARD 『ZARDよ 永遠なれ 坂井泉水の歌はこう生まれた』 NHKエンタープライズ/Being(2021)


坂井泉水は〈言葉を紡ぎ出す天才〉と語るのは、彼女を見いだし、ZARDとして育て上げてきた長戸大幸プロデューサー。

「坂井は思っていることを会話で上手く伝えられるタイプではなく、いつも自分の中に溜めているような人でした。デビューに向け、〈自分の言葉で歌うため、自分で作詞すること〉という僕からの提案を受け入れたその日から、溜め込んだものをコツコツと、猛然と、書き綴るようになりました」とも振り返っている。

1991年2月10日に『Good-bye My Loneliness』でデビューを果たしてから、今年で30周年を迎えるZARD。“負けないで”“揺れる想い”“マイ フレンド”など、他にも実に多くのヒット曲を世に送り出し、その知名度の高さに関しては疑いようがない。しかしテレビなどメディア露出の少なさも影響してか、楽曲以外の話題は神秘のベールに包まれているという印象を持つ人も多いだろう。

これまでシングル売り上げ1773.3万枚、アルバム売り上げ1990万枚を記録。1990年代女性ソロアーティストとして最も多くのCD売り上げ枚数を誇り、オリコン平成30年ランキングアーティスト別セールスでは第8位を獲得。坂井が2007年5月27日に逝去した後もその人気は衰えを知らないどころか、昨今では「親の影響で自分もファンになった」という10代や20代の若いリスナーも増えている。

それを裏付けるように、昨年NIKKEIプラスから発表された「10代から60代に聞いた、今こそ聴きたい、元気になれる歌15選」では、数ある邦楽の中からZARDの“負けないで”が2位にランクイン。様々な困難に直面するたびに日本中に元気を与えてきた不朽の名曲は、今も尚、世代を越えて多くの人々の心の支えになっているようだ。

〈なぜこんなにも長きに亘りZARDの楽曲は愛され続けるのか?〉……色鮮やかなメロディー、こだわり抜いたサウンド構築、唯一無二の歌声、心くすぐられるビジュアルの良さなど、多面的な魅力の中でも一際支持されているのは、やはり坂井が大切にしてきた〈歌詞〉だろう。

では、〈どうして彼女の〈言葉〉はこれほどまでに人々の心を惹き付けて止まないのか? そして、あれほど多くの名曲をZARDはどのようにして生んできたのか?〉

その答えを導くため、今回のドキュメンタリー映像は坂井の生涯を振り返りながら、彼女が17年間どのように楽曲制作と向き合い、ZARDに人生を賭けてきたのかを様々な側面から探求している。とりわけ、膨大に残された直筆メモから読み解く〈言葉〉へのこだわりは、ZARDファンならずとも見るに値するだろう(インナーには直筆メモの一部が鮮明な写真で掲載されている)。

また、念願のシンガーになるきっかけとなったB.B.クィーンズのコーラス・オーディションを受けた時の歌唱音源(アンルイスの“六本木心中”)や、製品になっていない“負けないで”の英語バージョン、“揺れる想い”の制作途中の音源(製品とはメロディーが違うヴァージョン)など、初公開を含む音源が次々に登場するのも貴重だ。

さらに、生前は表に出ることのなかったレコーディングの舞台裏、ロケ現場での素顔などから、坂井の人間性にも触れることができる。

そして関係者の証言では、デビューから3作目までのミュージックビデオを手掛けた岩井俊二、ZARD初期のコーラスを多く担当し、同じ時代を過ごしたレーベルメイトの大黒摩季、坂井への取材経験もある音楽ライターの伊藤博伸、ZARD楽曲に幾度も助けられてきたというお笑い芸人のチャンカワイ、坂井と共にZARD作品を制作してきた身近なスタッフにより語られるエピソードも実に興味深い。

ドキュメンタリー作品といえど、もちろん楽曲も楽しめる。放送ではワンコーラスのみだったミュージックビデオを可能な限りフルサイズ(一部変則サイズ)で収録。また特典には、本編でナレーションを担当した山本彩による“負けないで”の朗読を収録しており、こちらも楽しみにしてほしい。

2001年2月に体調不良のため約1年間の休養に入った坂井。その間、ファンクラブ会員に向けて、「どんなときも前向きに考えたいと思っていますので、坂井泉水をどうか見守っていてくださいね」とメッセージを送っている。

いかなる状況になっても、自ら選んだ道を後悔せず、ポジティブに歩み続けた坂井泉水。コロナ禍で塞ぎがちな今、彼女から発せられた〈言葉〉、〈歌〉に勇気づけられることは間違いない。