1991年2月10日、ZARDが“Good-bye My Loneliness”でデビューしてから今年で35年目。90年代J-POPを象徴する華やかなきらめきを纏う楽曲は、今も多くのファンを惹きつけ、トリビュートユニットのSARD UNDERGROUNDを始め若い世代へも着実に聴き継がれている。

そのデビュー記念日にリリースされるのが、CD 3枚組ベスト盤『ZARD Best Request ~35th Anniversary~』だ。インターネットによるファン投票上位35曲を順位通りに収録した選曲と、最新機材を駆使したリマスター作業を経て生まれ変わった高音質。新たな発見と感動を届ける〈究極のベスト盤〉はいかにして生まれたのか? ZARDの活動の全期間にわたってレコーディングエンジニアを務め、今回のリマスターも手掛けた島田勝弘氏(株式会社BIRDMAN MASTERING代表)を、実際に作業を行ったスタジオに訪ねて話を聞いた。

※このインタビューは2025年1月25日発行の「bounce vol.494」に掲載された記事の拡大版です

ZARD 『ZARD Best Request ~35th Anniversary~』 B-Gram(2025)

 

高電圧と最新機材で最大限向上した音質

――昨年末、島田さんがXで〈今回のベスト盤はCDメディアの持つポテンシャルをほぼ達成出来たと自負しております〉とつぶやいているのを読みました。具体的に、どんなことをされたんでしょう。

「今回のリマスターを始める前に、CDのポテンシャルを一番引き出す要素をいくつか想定していました。詳しく言うと、前回の4枚組ベスト(2016年『ZARD Forever Best ~25th Anniversary~』)はケーブル類を変えたぐらいなんですが、今回はマスター音源が入っているPro Toolsに、通常は100ボルトの電源を繋いでいるんですが、200ボルトの電圧にしたらどこがどのくらい変わるのか?とか、全部比較してチェックしたんです。ケーブルも一回一回変えて、音の違いをAとBで比較しているんですよ」

――なんと。そこまでやられていたとは。

「要は、イギリス仕様にしたかったんです。イギリスの電圧は240ボルトで、比較するとやっぱり低域の厚みが違うので。

それに加えて、今回一番音質が変わったのがADコンバータ(アナログ/デジタル変換器)で、最終的にそこが音源を取り込む時の音質の決め手になるので、お世話になっている宮地楽器さんに無理を言って最新のADコンバータを借りたんです。それの効果がかなりあって、何が一番効果があったかというと、音の立ち上がりです。トランジェントと言うんですが、ZARDのボーカルで言うと、口の動きまでわかるというか、薄い膜が取れた感じがするんですよね。音質的には、そのADコンバータの効果が一番大きいのかなと思います」

――その機材は10年前には存在しなかったのですか。

「なかったです。今うちにあるのが2世代目で、借りたのは5世代目ですね。パッと聴いただけじゃわからないんですが、同時に聴きながら切り替えて、広がりとか音の立ち上がりの違いを比較しながら録っていきました。

今までのベスト盤では、EQ(イコライザー)で少し高域を切ったり足したり、低域をいじったりしていたんですけども、それをほとんどしなくて済んだのは、機材側の電圧とADコンバータの違いが一番大きいです」