これさえあれば他の音楽はなにもいらない
それでは、早速試聴会をスタート。田中さんの選曲で、“瞳はダイアモンド”(83年)から。まずは田中さんが持参した7インチ・シングル、そしてアルバム『Canary』(83年)のマスター・サウンド仕様盤(CBSソニーがリリースしていた高音質盤シリーズ)で聴いてみます。


聖子ちゃんの切なげな歌声が、真空管ステレオ・パワー・アンプのMcIntosh MC275で増幅され、TOWER VINYL自慢の巨大スピーカーALTEC A5から響きわたります。ゆったりとしたイントロに導かれて紡がれる、メロウなグルーヴに思わずうっとり。
「いいですね。7インチはラウドで、まるでガレージ・ロックみたい(笑)。ちなみに、“瞳はダイアモンド”のB面は“蒼いフォトグラフ”で、最強のダブル・サイダーなんですよ。マスター・サウンドのLPは、7インチとはまたちがった音ですね」(田中さん)。「良い歌ですね~。これさえあれば、他の音楽はなにもいらないくらい」(村越さん)。


ブツとしてヤバい! 聖子ちゃんのピカピカの〈新譜〉
7インチ盤ではザラついた迫力ある音、LPではまろやかな音の“瞳はダイアモンド”を聴くことができました。では、今回の主役『Bible -bright moment-』の音は?
レコードを開封して、「これはブツとしてヤバい!」と驚く田中さん。聖子ちゃんの顔が大きく印刷されたピクチャー・レーベルの見事さに目を見張っています。最新技術が用いられているためか、70~80年代のピクチャー・レーベルとは比べものにならないほどに綺麗な印刷の盤面がスリーヴのなかから現れました。遠目から見ると、レコードに見えないほどの美しさです。「なるほど、この聖子ちゃんの顔でターンテーブルの上で回るんですね」と松本さん。聖子ちゃんの顔が印刷されたレコードに針を落とすなんて、なんだか気が引けますね。


では、早速『Bible -bright moment-』で“瞳はダイアモンド”を聴いてみましょう。
「音がクリアで、それほどレコード感がないですね」と言う村越さんに、「後ろのコーラスもすごく綺麗に聴こえますね」と返す松本さん。たしかに透明度が高くて、とてもすっきりした音像です。7インチやLPでは潰れてしまうようなヴォーカルのハイ・トーンが、突き抜けるように聴こえてきます。また、“瞳はダイアモンド”は全体的に音数が少なく、音と音との隙間が活かされた編曲だからこそ、余計に一音一音の良さがくっきりと際立って聴こえました。

「前回の田中さんの素晴らしい聖子ちゃん語りに対抗すると、この新しいアナログでは、リリース当時、発売日にレコードを買ってきて家で聴いたときの新鮮さがよみがえってきますね。中古盤を聴くよりも、これを買って聴いたほうが、当時の聖子ちゃんの歌のピカピカな感じが伝わってくるのではないでしょうか。出たての新録を聴いているような気持ちになれました。昭和歌謡の中古盤を聴いているときとはまったくちがう、時を超えている感じがしますね」(村越さん)。
村越さんが言うように、フレッシュかつエヴァーグリーンなサウンドで、2021年に〈新譜〉としてよみがえった松田聖子さんの音楽がそこで鳴っているかのようです。