おっ、いきなり“めざせポケモンマスター”のデモだ! やっぱりアニメのオープニングっていうのはこうじゃないと!(でもサビは今のヴァージョンの方がパッとしてるな!)次は……うわああ、“ひゃくごじゅういち”のデモだ! この曲〈キミたちとのであいはぜんぶ ちゃんとおぼえてる〉のところでなぜだか無性に泣けるんだよな。え、じゃあ次は……うわああ!! “風といっしょに”(「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」主題歌)のデモだ! すごい!! この頃からこのアレンジの原型ができていたとは!!

たなかひろかずのプライヴェート・デモ音源集『Lost Tapes』を聴き始めた感想は素直にこんな感じで、すっかり気分は97~98年(正確には、80~2000年に作られた大量のカセット、MD、DAT、データから佐藤優介が選曲、編集したもの)。すると次第に〈これはいかにも「MOTHER」っぽいな〉とか〈これは「マリオペイント」とかにありそう〉とか〈これは絶対宇宙のステージ!〉と、古き良き打ち込み音楽のデモがたくさん飛び出してきて、その世界観にグングンと引き込まれていく。温かくて、切なくて、ちょっとどこか抜けてるところもあって、きっと自分のように80年代に生まれていなくても誰しも幼稚園~小学校低学年を思い出すことでしょう。

しかし、どの曲も初めて聴く曲なのに、絶対どこかで聴いたことがある音で作られているように感じられるのが不思議だ。音源の奥にかすかに聴こえるホワイト・ノイズも相まって、まるでヴェイパーウェイヴを聴いているような感覚に陥るが、しかしヴェイパーウェイヴが既存の大衆音楽の切り貼りから始まったのに対し、これは既存の大衆音楽とは同じ部品を使ってはいるけど、今までどこにもなかった音楽。それはまるで〈初めて来た場所なのにおばあちゃん家のにおいがする〉みたいな感覚なのだ。

そんな体験にクラクラしながら、この〈知ってるはずの未知の冒険〉を“Fugacity A”、“Waltz 3”と聴き進んでいくと、いつの間にか自分がダンジョンの奥へ奥へと向かっていることに気付く。そしてその最深部(“Space Attack "Q"”)でついにはラスボス戦へと突入。長き長きバトルの末に、楽しかった物語はついにエンディング(“Spacemen's March”)を迎える。

幼少期、ゲームをしたりアニメを観たりしながら、〈この時間がずっと続けばいいのに〉とか〈大人になんかなりたくない〉なんて考えてたあの頃。あれから20数年が経ち、世界も自分もすっかり様変わりしてしまったけれど、忘れて、失っていた〈あの頃〉の続きが、この音源には詰まっているような気がするのだ。