
“恋するカレン”と“FUN×4”のハッピー・エンド
――B面3曲目の“恋するカレン”。ゴージャスなアレンジと狂おしいメロディーが感動的です。イントロのアコースティック・ギターの響きからしてさわやかですが、これも歌詞は失恋についての悲しい歌。こちらも、スラップスティックへの提供曲“海辺のジュリエット”(79年)が元になっています。45回転盤で聴いてみましょう。
村越「音が明るいですね。“雨のウェンズデイ”とはまた異なる色合いを感じます」
――次は“FUN×4”です。
村越「日本コロムビア時代、つまり福生時代のノヴェルティー路線、おもしろ路線を感じる曲ですね」
塩谷「ただ、松本さんの歌詞だからこその物語性があって、『ロンバケ』らしい曲になっていると思います」
田中「〈散歩しない〉と歌っているのが太田裕美さんなんですよね」
――ラストは拍手で締め。大団円ですね。
田中「『ロンバケ』というアルバムの本編はここで終わり、ということなんですよね。“FUN×4”までしか入っていないCDもあるんでしょ?」
塩谷「そうです。89年にリリースされたCDとカセットでは、最後の“さらばシベリア鉄道”がカットされています。“さらばシベリア鉄道”は、あくまでアンコールというか」
村越「そう考えると、“FUN×4”で終わるというのは、かなり明るい終わり方ですよね」
松本「失恋ソングが多いのですが、最終的には〈四人の子共〉を授かって終わりですからね(笑)」
村越「先ほど『ロンバケ』の世界には影があるんだという話をしましたが、“FUN×4”はちょっと異質かもしれませんね。なので、“さらばシベリア鉄道”は『ロンバケ』のオチとしては正しいのかも。最後はリゾートではなく、シベリアですから(笑)」
田中「〈涙さえも凍りついて〉終わり、というのはなんとも悲しいですね」
多羅尾伴内らしさあふれる“さらばシベリア鉄道”
――そしてB面5曲目、ラストの“さらばシベリア鉄道”です。
塩谷「子どもの頃にカセットテープで聴いていて、僕はこの曲がくるのを待っていたんです。それくらい大好きな曲ですね」
田中「『ロンバケ』は夏のアルバムですが、この曲だけ冬。〈12月の旅人〉ですから」
村越「ちょっと歌謡曲的なムードがあって以前は苦手だったのですが、最近ようやくよさがわかるようになってきました」
田中「でも、太田裕美さんが歌っているヴァージョンはポップスなんですよ」
塩谷「“さらばシベリア鉄道”は、多羅尾伴内※が大活躍している曲ですね」
松本「間奏のギターがかっこいいと思います」
田中「加山雄三さんっぽい雰囲気がありますね」
――ジョー・ミーク風のサウンドで、寺内タケシさんの音楽のような〈エレキ!〉という感じです。
塩谷「いわゆる〈北欧インスト※〉ってやつですね」
田中「『ロンバケ』って、当時流行っていた音楽をやっているわけではなくて、こうやって、あえて過去の音楽を当時のサウンドで作っているところがおもしろいですよね」
松本「そうですね。SNSではYMOの『BGM』と同じ日(81年3月21日)にリリースされたことが話題になっていて、2作を聴き比べてみてもおもしろいと思います」
村越「なるほど。すごいバランス感ですね、このアルバムは……。簡単に〈大好き!〉とも言えないし、〈名盤〉と言って済ませるのも気が引けますし。怖いアルバムですね~、これは」