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“恋するカレン”と“FUN×4”のハッピー・エンド

――B面3曲目の“恋するカレン”。ゴージャスなアレンジと狂おしいメロディーが感動的です。イントロのアコースティック・ギターの響きからしてさわやかですが、これも歌詞は失恋についての悲しい歌。こちらも、スラップスティックへの提供曲“海辺のジュリエット”(79年)が元になっています。45回転盤で聴いてみましょう。

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』収録曲“恋するカレン”

村越「音が明るいですね。“雨のウェンズデイ”とはまた異なる色合いを感じます」

――次は“FUN×4”です。

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』収録曲“FUN×4”

村越「日本コロムビア時代、つまり福生時代のノヴェルティー路線、おもしろ路線を感じる曲ですね」

塩谷「ただ、松本さんの歌詞だからこその物語性があって、『ロンバケ』らしい曲になっていると思います」

田中「〈散歩しない〉と歌っているのが太田裕美さんなんですよね」

――ラストは拍手で締め。大団円ですね。

田中「『ロンバケ』というアルバムの本編はここで終わり、ということなんですよね。“FUN×4”までしか入っていないCDもあるんでしょ?」

塩谷「そうです。89年にリリースされたCDとカセットでは、最後の“さらばシベリア鉄道”がカットされています。“さらばシベリア鉄道”は、あくまでアンコールというか」

村越「そう考えると、“FUN×4”で終わるというのは、かなり明るい終わり方ですよね」

松本「失恋ソングが多いのですが、最終的には〈四人の子共〉を授かって終わりですからね(笑)」

村越「先ほど『ロンバケ』の世界には影があるんだという話をしましたが、“FUN×4”はちょっと異質かもしれませんね。なので、“さらばシベリア鉄道”は『ロンバケ』のオチとしては正しいのかも。最後はリゾートではなく、シベリアですから(笑)」

田中「〈涙さえも凍りついて〉終わり、というのはなんとも悲しいですね」

 

多羅尾伴内らしさあふれる“さらばシベリア鉄道”

――そしてB面5曲目、ラストの“さらばシベリア鉄道”です。

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』収録曲“さらばシベリア鉄道”

塩谷「子どもの頃にカセットテープで聴いていて、僕はこの曲がくるのを待っていたんです。それくらい大好きな曲ですね」

田中「『ロンバケ』は夏のアルバムですが、この曲だけ冬。〈12月の旅人〉ですから」

村越「ちょっと歌謡曲的なムードがあって以前は苦手だったのですが、最近ようやくよさがわかるようになってきました」

田中「でも、太田裕美さんが歌っているヴァージョンはポップスなんですよ」

太田裕美の80年作『十二月の旅人』収録曲“さらばシベリア鉄道”。大滝詠一は『A LONG VACATION』のために同曲のレコーディングを始めたが、CBSソニーのディレクターだった白川隆三の発案で太田裕美に提供された

塩谷「“さらばシベリア鉄道”は、多羅尾伴内が大活躍している曲ですね」

※多羅尾伴内は大滝詠一の変名で、編曲などでクレジットされている。元ネタは46年に始まった探偵映画シリーズの主人公の名前

松本「間奏のギターがかっこいいと思います」

田中「加山雄三さんっぽい雰囲気がありますね」

――ジョー・ミーク風のサウンドで、寺内タケシさんの音楽のような〈エレキ!〉という感じです。

塩谷「いわゆる〈北欧インスト〉ってやつですね」

※スウェーデンのスプートニクスやフィンランドのサウンズといった北欧のバンドによる哀愁ただようギター・インストゥルメンタルが60年代に人気を集めた。大滝詠一が〈多羅尾伴内楽團〉名義で発表した『多羅尾伴内楽團 Vol.1』(77年)は北欧インストがテーマ

田中「『ロンバケ』って、当時流行っていた音楽をやっているわけではなくて、こうやって、あえて過去の音楽を当時のサウンドで作っているところがおもしろいですよね」

松本「そうですね。SNSではYMOの『BGM』と同じ日(81年3月21日)にリリースされたことが話題になっていて、2作を聴き比べてみてもおもしろいと思います」

村越「なるほど。すごいバランス感ですね、このアルバムは……。簡単に〈大好き!〉とも言えないし、〈名盤〉と言って済ませるのも気が引けますし。怖いアルバムですね~、これは」