田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週も重要なミュージシャンたちの訃報が複数届けられました。ミートローフやボニー・タイラーなどの楽曲を作曲したことで知られる作曲家/プロデューサーのジム・スタインマンに、ベイ・シティ・ローラーズのフロントマンだったレスリー・マッコーエン……。そしてつい数時間前には、デジタル・アンダーグラウンドのリーダーであるショック・Gが逝去した、と報じられました」
天野龍太郎「2パックに多大な影響を与えたことでも知られる、偉大なラッパーでした。ご冥福をお祈りいたします」
田中「それ以外の話題では、今週は2人のミュージシャンによるカム・アウトがありました。まずエズラ・ファーマンが、トランス女性であること、2年前に母親になったと公言。そして、エンジェル・オルセンは同性愛者であることを表明しました」
天野「今年は、ケラーニがレズビアンであると言ったり、デミ・ロヴァートがパンセクシュアルであると明らかにしたり、多くのアーティストが自身のジェンダー/セクシュアリティーについてカム・アウトしました。こういったことを言いやすい風潮になってほしいし、日本も含めて、より一層多様な生き方を認めあう社会になっていくといいですよね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
Little Simz “Introvert”
Song Of The Week
田中「〈SOTW〉はリトル・シムズの“Introvert”! リトル・シムズは、前作『GREY Area』(2019年)で脚光を浴びた英ロンドンのラッパーですね。“Introvert”は、彼女が9月3日(金)にリリースするニュー・アルバム『Sometimes I Might Be Introvert』からの表題曲です。〈Introvert〉、つまり〈内向的〉という意味ですが、これは新作のテーマのひとつなんですかね」
天野「プレス・リリースによると、新作は〈恐怖、疲労、フラストレーション、そして政治的に煽られ社会の矢面に立って生きてきた人生をストレートに物語るエッセイ〉と表現されていますね。それにしても、この曲はハンパじゃないですね。リリックは、いまだ苦境に立たされつづけている黒人女性の姿をリアルに描いているんです」
田中「あと、西ロンドンを拠点に活動しているセルビア系シンガーのクレオ・ソル(Cleo Sol)をヴォーカリストとしてフィーチャーしていて、さらにNetflixドラマ『ザ・クラウン』で故ダイアナ妃を演じたことで注目された俳優のエマ・コリン(Emma Corrin)がナレーターとして参加していますね」
天野「そうですね。黒人のみならず、女性たちの人種を越えた連帯を表明しているのでしょう。サウンドもめちゃくちゃパワフルで、厳かなファンファーレとストリングス、マーチング・ドラムが効果的に使われています。プロデュースは、これまでどおりインフロー(Inflo)。6分を超える長い曲ですが、常に緊張感があって、聴き手は曲に引き込まれます。ちょっとすさまじいですね。アルバムは相当な力作なのではと予想できます」
Wolf Alice “Smile”
天野「ウルフ・アリスが、6月11日(金)に待望のサード・アルバム『Blue Weekend』をリリース。この“Smile”は、同作から2曲目のリード・シングルです。2月に発表された“The Last Man On Earth”も、当連載で紹介しましたよね」
田中「60~70年代の英国ロック・バラードをほうふつとさせる“The Last Man On Earth”とは打って変わって、“Smile”はグルーヴィーで激しいサウンド。マッドチェスターや90年代のミクスチャー・ロックを思わせるドラムとベースのコンビネーションがめちゃくちゃかっこいいですね」
天野「エリー・ロウゼル(Ellie Rowsell)のヴォーカルのフロウはラップ風ですしね。でも、現代的なサウンドに仕上がっていてさすがだし、最高。エリーいわく、この曲は〈ライブを想定して作った曲〉だとか。コロナ禍によって観衆の前でパフォーマンスできない状態が続いているので、ライブへの恋しさが作らせた曲なんでしょうか。ミュージック・ビデオも、小さなパブで演奏している模様を収めたサイケデリックなものです。女性が踊り狂っているシーンもいいですね!」