INTERVIEW

ポップスという〈形式〉から解き放たれた(((さらうんど)))、ひとつの到達点にして新たな出発点示すニュー・アルバム

【特集:インディー・ポップ百景】 Pt.5

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[ 緊急ワイド ]インディー・ポップ百景
10年代も半ばまで過ぎました。まだそんなこと言ってんの?という声もおありでしょうが、旬も流行も浅薄な理屈も時代のムードも超えた地平で響いてほしい音楽たちは、世界中から毎日のように登場しています!

 


 

(((さらうんど)))
ナルシズムを肯定することで生まれた、新たな可能性

 

 未知の領域へと足を踏み出した初作、その勢いを加速させた2作目、そして3作目での大跳躍――(((さらうんど)))のサード・アルバム『See you, Blue』を目の当たりにし、ここに至るまでの彼らの歩みから思い浮かんだのはそんな三段跳びのイメージだった。ここには確かな進化を遂げた3人の姿がある。統一感のあるサウンドからは一切の迷いや淀みが見受けられず、それゆえに力強い。

(((さらうんど))) See you, Blue KAKUBARHYTHM(2015)

 「トラックメイクに関しては前からCrystal(キーボード)の意見がベースになっていたんですけど、今回は完全に彼に任せました。そこが統一感に繋がっているのかもしれない。音に限らず、バンドのパーソナルな作品になったという印象なんですよね。ゲストも呼んではいるんですけど、基本的にはメンバーだけで作った感じがあって」(鴨田潤、ヴォーカル/ギター)。


ポップスを諦めた

 聴き手はまず、大胆なモデル・チェンジを遂げた音像に驚かされることだろう。ソリッドでエレクトロニックな直球のダンス・ミュージックが全編で展開されているのだ。シティー・ポップ的な枠組みで捉えられることの多かった彼らが、新たなフェイズに進んでいることが如実に見て取れる。

 「今回はシティー・ポップうんぬんの前に、そもそもポップスが無理だと気付いたことが大きくて。ポップスを諦めた(笑)。それで出来た結果がこれなんです」(鴨田)。

【関連動画】(((さらうんど)))の2013年作『New Age』収録曲“きみは New Age”

 

 「制作を進めるなかで、必然的にこういう方向性になったんです。自分たちのポップスの定義が変わったというか。すでにある〈ポップスとされるもの〉にこっちから近付いていくというよりは、〈自分たちが作った音楽がポップスである〉と定義するという意識がありましたね」(Crystal)。

 CrystalとK404ことKenya KoarataTraks Boysは言うまでもなくテクノやハウスに根差したプロデューサーであり、鴨田もイルリメとしての過去作では、エレクトロニクスと楽しげに戯れていた。そんな出自を見つめ直したこともサウンドの変遷に影響しているという。

 「ジェイムズ・ホールデンのアルバムをCrystalがお薦めしていて、聴いてみたらすごく衝撃的だったんですよね。〈そもそもこういう音のほうがフィットするんだった〉と(笑)。そのショックがきっかけで、日本のポップス以外の音楽にどんどん関心が向いて」(鴨田)。

 「メンバーの間で音楽の話をいつも以上にしていましたね。普段の〈あれ聴いた? 良かったよね〉みたいな話から曲のイメージが生まれてくる。鴨田さんがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを聴いてたのでそういう要素を入れてもいいな、とか」(Crystal)。

 大まかな方向性はメンバーの原点に立ち返りつつ、具体的なプロダクションにおいては新たなアプローチが取られている。アルバムのひとつのトーンを形成しているのは、リード・トラック“Siren Syrup”などで聴くことのできる、サンプリングのカットアップによる隙間を活かしたグルーヴ感だ。また、ジュークトラップを消化した“Boys & Girls”など、4つ打ち以外のビートを搭載した楽曲も多い。

 「カシミア・キャットとかを聴くようになったのが、自分にとっては大きな変化で。テクノやハウス以外のダンス・ミュージックが好きになってきたんです。ゲストとしてDORIANSeiho君と砂原(良徳)さんに参加してもらいましたけど、この人選も4つ打ちじゃない要素を持っている人というのがありました」(Crystal)。

 そんなゲストとの共作曲とは意味合いが異なるものの、ある種のコラボ・ナンバーとしてトピカルな花を添えているのが佐野元春“カム・シャイニング”をサンプリングした“乙zz姫”だ。スクリッティ・ポリッティを想起させる原曲のビートを拝借して、見事なポップ・リサイクルを成立させている。

 「これは鴨田さんのアイデアですね。ファースト(2012年作『(((さらうんど)))』)でもAhh! Folly Jetをサンプリングした曲を作っていて、この手法はまたやりたいと思っていたんです」(Crystal)。

【参考動画】カシミア・キャットの2014年のシングル“Wedding Bells”

  

ナルシズムを肯定する

 ダンス・ミュージックのフォーマットに即した結果として楽曲の展開はかなりシンプルなものとなったが、そこに鴨田の叙情的な詞世界と人懐っこい歌が乗るという構造はこれまで通り。だが詞の有り様には変化があったと鴨田は語る。

 「Aメロ、Bメロ、サビっていう構成がないぶん、詞を書くスピードが速くなったし、あまり悩まなくなりましたね。それから、衒いたくないし演じたくないという気持ちがあって。花がきれいだったら〈花がきれいだね〉って書きたいというか。そういうこともポップスを諦めた結果なのかもしれないけど(笑)」(鴨田)。

 

 野暮を承知で書き添えると、彼らの言う〈ポップスを諦めた〉は〈形式〉から解き放たれたということであって、〈ポップであること〉を志向しなくなったという意味ではないだろう。むしろサウンドが明快にシェイプアップされたゆえなのか、これまで以上にキャッチーな訴求力を備えた作品に感じられるのがおもしろい。

 「個人的にはもう、歌が入ってればポップスじゃないかと思ってますね」(Crystal)。

 「それで成立すればいいし、実際のところ、いまの状況だと成立していると思うんですよね。アルカとかが受け入れられているわけで。免疫がついてる時代なんだから、もっとやってしまっていいんじゃないかって」(鴨田)。

 つまりは〈やりたいようにやる=自身の皮膚感覚に忠実な作品を作る〉ということ。アルバムに漲る圧倒的なクールネスや説得力は、そのシンプルな考え方から生まれたものなのかもしれない。

 「音楽を作るというよりも、自分たちの表現をするということが何よりも念頭にあったんですよね。頭に描いた理想を完成させることにしか興味がなくて、〈他人のなかの自分〉を気にすることを止めた。それはナルシズムを肯定していくという気持ちでもあるんですよ。ナルシズムによる誤解が個性になるってことと、孤独でいることで個性が生まれるってことに気付いたんです。そのふたつの個性を肯定しようという確信からアルバムが出来たところはあります」(鴨田)。

 間違いなくひとつの到達点にして新たな出発点。堂々たる風格を湛えた本作は、彼らの未来のみならず、ポップスの未来を切り拓く可能性を秘めている。

 「このアルバムが出来たことで、(((さらうんど)))は自分の活動のなかでもいちばん自由な場所になりましたね。何をやってもいい。この先の展開がいろいろ広がったと思います」(Crystal)。  

 

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