別れがあった、震災が起きた、思春期を過ごしたあの海の風景を思い出した。私だけの寂しさに向き合った3人がニュー・アルバムで描く本当のこと――天使は遠くにいるようで、傍らにいる。
かつて海で聴いていた音
ギター・ロック回帰と進化でこの10年を美しく総括した『New Neighbors』から1年半。Homecomingsの新作『see you, frail angel. sea adore you.』が到着した。石田成美(ドラムス)の脱退を経て、3人体制では初のアルバムとなる。
「なるちゃん(石田)の卒業の準備をしていた一方、次作の構想も早い時期からあって。4人で曲を持ち寄って、外に向けて大きく開いた『New Neighbors』に対し、今度はそれと表裏一体のものを作りたいなと。〈他人との繋がり〉を描いた前作とは違う、個人にフォーカスする方法で社会を描けたらと思ったんです」(福富優樹、ギター)。
その着想には、元旦に発生した能登半島地震も大きな影響を与えたという。
「僕と彩加さん(畳野彩加、ヴォーカル/ギター)は石川県出身で、高校生の頃に音楽を聴いたり本を読んだりして過ごした海岸があるんですけど、地震のときはそこにも津波警報が出て、家族も避難して。そういう体験のなかで、あの頃の海と自分、そのときに聴いてた音楽とかを、Homecomingsとしてひとつの形にしたいって思ったんですよね。それで〈今回は自分に任せてほしい〉ってみんなに話して。サウンド面で意識したのは、地元の海で聴いていたくるりの『THE WORLD IS MINE』やスーパーカーの『HIGHVISION』、そこからの流れで知ったスクエアプッシャーやエイフェックス・ツインとか2000年代初頭のIDMの感触もイメージにはありました。制作は、まず当時の雑誌やディスクガイドで基本を学んで、そこからプラグインを買ったり、YouTubeでHow To動画を観たりして、トライ&エラーを繰り返しながら進めていきました」(福富)。
ストレイテナーの『LINEAR』とent、Sketch Showにレディオヘッドの『Kid A』。シー・アンド・ケイクやトータスといったシカゴ音響派に、アンチコンやミル・プラトーの周辺など、福富の好みに共通するのは、90年代後半から2000年代中盤頃までの、ポスト・ロックとエレクトロニカの境目が曖昧だった時期のプロダクション。それらをバンドの嗜好と重ねることで、本作の音世界が形成されていった。
「バンドとしての方向性はオルタナで、そこにエレクトロニカやクリック・ハウス、韓国のパランノールとかの宅録っぽいシューゲイザーを混ぜた感じです。自分がリスナーとしていまキュンときているものをシンプルに取り入れたっていうのはありますね」(福富)。
タイアップ曲の“Moon Shaped”と“Tenderly, two line”を除くと、福富が最初にほぼ完成形のデモを用意したのは“Air”“luminous”“ghostpia”の3曲。ハウシーな“Air”はもちろん、畳野は残る2曲からも新鮮な感覚を受けたという。
「今回、自分のなかでは〈宅録感〉と〈オルタナ感〉っていう緩い決め事があったんですけど、それは大きな声で歌うようなものではなくて。“luminous”と“ghostpia”を聴いたときも〈新しいな〉って感覚があったから、いろんな歌い方を試しました。今回の歌は基本的に座って録ったんですけど、なかでも宅録っぽさを意識した2曲だと思います」(畳野彩加)。