インタビュー

ヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)『Uneasy』現代ジャズの哲人が語る、新トリオで挑んだ〈明日のための音楽〉

©Ebru Yildiz

アメリカ人の有色人種アーティストとしての、明日のための音楽

 コンテンポラリー・ジャズの哲人、ヴィジェイ・アイヤーのECM7作目は、6年ぶりの自らの原点と位置づけるピアノ・トリオ作品である。『Uneasy』(不安な)とタイトルされた新作にアイヤーは、「社会の構造やシステムは、人々の日々の生活、健康状態、思考に大きな影響を与える。近年のコロナ禍、人種差別の社会的流動性に翻弄されたアメリカの中で、アメリカ人の有色人種のアーティストとして、音楽を通して政治的メッセージを伝えるのではなく、明日のために音楽で表現したかった」と、思いを込める。

 本作は、長年行動を共にし現在もワーキング・バンドと語るステファン・クランプ(ベース)、マーカス・ギルモア(ドラムス)ではなく、リンダ・メイ・ハン・オー(ベース)とタイショーン・ソーリー(ドラムス)とのニュー・トリオで2019年末に録音した。

 「タイショーンとは、20年近く前から共演し家族のような存在だ。リンダとも10年に及ぶ付き合い。2人とは、アンサンブルのリズム・セクションとしてプレイしてお互いのことをよく理解しあっていたが、3人での演奏は2019年から始まった。機会を見つけてプレイするこのトリオには、長年共演してるステファン、マーカスとのトリオとは異なった、新たな可能性を感じる。今年はこのトリオでもっと演奏したいし、将来的にはステファン、マーカスも参加したダブル・トリオもやるかもしれない(笑)」とアイヤーは語る。

 アルバム・ラインナップには、2019年にアイヤーが書いた新曲の“Children Of Flint”、“Retrofit”と、スタンダードでマッコイ・タイナー(ピアノ)に捧げた“Night and Day”、ジェリ・アレン(ピアノ)の “Drummer’s Song”を除くと、この20年間のアイヤーのオリジナルが散りばめられている。

Linda May Han Oh, Vijay Iyer, Tyshawn Sorey ©Craig Marsden / ECM Records

 「このニュー・トリオで、今までのレパートリーをやるとどうなるか? ワイド・レンジなプレイで、スリリングだった」とアイヤーは話す。タイトル曲の“Uneasy”についてアイヤーは「この曲は、2011年のセントラル・パーク・サマーステージでキャロル・アーミテージのダンス・カンパニーとの共演で、制作した曲だ。カッサ・オーヴァーオール(ドラムス)と、チェロとギターで、私もフェンダー・ローズを弾いた。大音量の野外で、ビートを強調したロック・フィールな曲で、ダンスに合わせてタイムを決めて、しっかりと構成されたている。このトリオでは、よりオープンで自由に演奏することができる」と解説する。

 “Drummer’s Song”を捧げたジェリ・アレンの思い出を、アイヤーに語ってもらう。

 「ジェリの斬新なハーモニー、卓越したリズム&グルーヴ感、両手が機能的に別々に動くテクニックと、素晴らしいピアニストで、大きな影響を受けた。本当に優しい人で、私の家でリハーサルができるようにと、ドラム・セットをくれたこともあった。2011年に、彼女のホームタウンのミシガンで、クレイグ・テイボーン(ピアノ)とダブル・ビルのコンサートを催いたときに、楽屋に遊びに来てくれた。私は翌日、初めてのグラミー・ノミネーションで授与式に出席する話をすると、自分のことのように喜んでくれる。3人で盛り上がって、3ピアノのコンサートをやろうと約束した。いろいろ紆余曲折があって、2018年にサンフランシスコ・ジャズで実現したのだけれど、ジェリは2017年に逝ってしまった。クレイグと、ジェリへのトリビュート・コンサートにして演奏をしたよ」

 ポスト・コロナのミュージック・シーンについて問うた。

 「アーティストたちは自粛期間中、練習や創作に没頭していた。私もクラッシックのソロ・ピアノ作品、クラリネットのクインテット作品、チェロ協奏曲に取り組んでいる。多くのアーティストたちの作品が、一気に噴き出して凄いことになるだろう」

 1年の充電期間を経たヴィジェイ・アイヤーの、次なる展開にも期待が高まる。

 


ヴィジェイ・アイヤー (Vijay Iyer)
NY、オルバニー生まれ。幼少よりヴァイオリンを学びながら独学でピアノを習得。イェール大学で数学と物理学を学び、カリフォルニア大学バークレー校で音楽認知科学を学びながらジャズ・クラブに出演し音楽の道へと進んだという異才。マンハッタン音楽学校、ニューヨーク大学、ニュー・スクールで教鞭をとり、カナダ、アルバータ、バンフ・センターのジャズ・クリエイティブ・ミュージック国際ワークショップのディレクターをつとめている。2014年1月には、ハーバード大学の芸術科学学部に初のフランクリン・D、フローレンス・ローゼンブラット教授に就任した。

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