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フュージョンをビッグバンドで演奏する

――さて、この『Marveling』なんですけど、江古田のライブハウスのBuddyで2回録られたものなんですよね。

「2019年と、去年に録ったものを混ぜていますね」

2020年のライブ映像。会場は東京・江古田Buddy。『Marveling』にはこの演奏が収録されている

――これは普通のライブを録ったのでしょうか? それとも無観客にしてレコーディング目的で録ったものなのでしょうか?

「普通にライブをそのまま録音し、それをそのまま使いました。編集するときに、逆になるべくライブ感をなくそうとはしましたね」

――はい、それは納得です。拍手も入っていないですし、クレジットを見なかったら、普通にスタジオに入って録ったアルバムかと思ってしまいます。

「多少いじったりはしていますけど。それなりの高いクォリティーの方が集まっているので、基本的には、そのままです」

――捨てた曲もあると思うんですが、今作はこういう方向でまとめたとか、なにか意図はありますか。

「前作もそうなんですが、フュージョンぽいビッグバンドというか、フュージョン楽曲をビッグバンド形態でやっているということを売りにしています。

しかも、本田さんにも参加していただいたライブもあったので、これはT-SQUAREの曲を本家本元に吹いてもらったものを入れたいと思いました。僕も一リスナーとして嬉しいですし、一般のお客さんも嬉しいんじゃないかなと思いました」

――きっちり作っていて、曲の尺は過剰に長くせず、ソロは入れても2人までとなっています。そういう縛りのようなものは決めたのでしょうか。

「やっぱりジャズとしては好きにアドリブを取ってもらったほうが楽しいんですけど、でもだらける場合もあるので、そこはリーダーである自分がいろいろ本番中に長さの指示を出しました。一応、これはお皿(CD)になるかもという話はメンバーにしていましたね」

――ご自身でソロを取っているのは、3曲だけです。控えめなんですね。普通、リーダーはもっと自分の出番を多くしないですか。

「最初の頃はそうしていたんですけど、管楽器だけで13人もいますから、13通りのアドリブが取れるはずなんです。なので、せっかくだからいろんな人にソロをとってもらおうと思いました。ビッグバンドは奏者として主張する場というよりも、楽曲とかメンバーのプレイを尊重する感じが大きいかもしれません」

――集まるメンバーを想定して、アレンジをしたりもするのでしょうか?

「そういう場合もありますが、半分以上は先に作ってから、誰に吹いてもらおうかと考えることもあります」

 

T-SQUAREの名曲を演奏する難しさ

――それで、T-SQUAREの曲が“宝島”“勇者(YUH-JA)”“BAD MOON”と3つ収められています。

「1曲はドラマーの則竹(裕之)さんの曲です。昔、則竹さんに来ていただいたこともあって、そのときに“勇者(YUH-JA)”という曲をアレンジしてやったので、今度はそれを本田さんに吹いてもらいました」

――T-SQUAREの曲は他のものよりも多くの人の耳に触れていると思います。それに新たなアレンジを施すというのは、チャレンジングな作業であったのでしょうか?

「そうですね。本田さんの曲(“BAD MOON”)って、なんか大変なんですよ。緻密に練られているんです。コンボでも大人数でもできない、難しいフレーズが続くんです。僕がアレンジしたら、トランペットの人たちがもう手を焼いていました」

――曲によっては〈なんだよ、こんなに難しことをやらせるのか〉という声がメンバーから上がったりもしたわけですね。

「そうですね。今までの経験上、初見でも1回か2回通してやれば、〈こんな感じで大丈夫そうだね〉となるんです。ところが、“BAD MOON”に関しては1時間以上みっちりやったんですが、〈結局できないね〉という感じで最初のリハは終わりました」

――そんな話を聞いていると、『Marveling』は今までの活動で積もってきた創意を素直に出したのかなとも思ってしまいます。

「そう思います。(大きな編成のものは)毎日できるジャンルではないので、ここ10年ぐらい続けてきて、なんとか形になっている部分があります。最初は〈こんな音域じゃ吹けないよ〉とか言われて、〈ああその通りだな〉と思い、直してみたり。自分だけで勉強してきたわけではなく、みんなに教えてもらった部分も小さくないです。

そして、今回は本田さんが入ることによって、サックス・セクションが6人になってしまって、それでアレンジし直した曲もあります。“宝島”では、僕はちょっとしか吹いていなくて、本番のときはほとんど手拍子をしていました(笑)」

――鍬田さんが書いた“FLAMENCO”は、鍬田さんと本田さんの2人でソロを取り合っていますね。

「はい。本田さんに入っていただくとき、僕の曲を本田さんに吹いていただきたいという希望もありました。そして、こてんぱんにやられるんだろうなと思いつつ(笑)、バトルをしてみました」

――“BEYOND THE RAINBOW”はメンバーの寺地美穂さんの曲です。難しい譜面をメンバーに渡すサディスティックな部分もある一方、民主的なリーダーでもあるんですね。

「(笑)。いえいえ。どうなんでしょうね」

――それで、僕が一番いい曲だなと思ったのが、3曲目の鍬田さんの曲“しんしんと”なんです。トロンボーンのソロも味わい深いですし、いい曲を書きますね。

「ありがとうございます。トロンボーンって一般的には目立たない部分があるもしれないですけど、僕はビッグバンドで一番好きなのはトロンボーン・セクションなんですよ。僕のオリジナルの“FANTA SEA”でも、2コーラス目のメロディーとかをトロンボーンにソリ(セクションの合奏)で吹いてもらったりしています。トロンボーンって響きというか、ハモり方がすごい綺麗で、やっぱり上手な人にやってもらうとすごい気持ちがいいんです。トロンボーンの優しい音色とか、音程の綺麗な感じとかを、もっと知ってもらいたいですね」