大好きなビッグバンド活動から様々なサポート、さらには指導者としても活躍……。経験豊かにして、作編曲の才にも恵まれたアルト・サックス奏者である鍬田修一が率いる、Marveling Big Band(マーベリング・ビッグバンド)の新作『Marveling』が発表される。T-SQUARE出身の人気アルト・サックス奏者である本田雅人をゲストに迎えた同作はフュージョン登場以降の色彩感やビートのもと、大人数がスキルを闊達に重ねるリッチな表現を聴かせてくれる。
大掛かりなアレンジも担当する鍬田はどんな狙いを掲げ自らのビッグバンド表現にあたり、『Marveling』を完成させたのか。温厚そうでいかにもリーダー向きとも思わせる77年生まれの彼に、忌憚のない意見を訊いた。
なお、『Marveling』は音楽専門クラウドファンディングとして実績を重ねてきた〈TWIN MUSIC〉のレーベルとしての第1弾リリースとなる。
フュージョンとの出会い、青学ビッグバンドへの参加、そしてプロへ
――メインはアルト・サックスなんですか?
「そうです。アルト・サックスです」
――本田雅人さんのビッグバンドであるB.B.STATIONを観たときに、鍬田さんがバリトン・サックスを吹いていた記憶がありまして。
「本田さんのビッグバンドではバリトンを吹いたり、テナーを吹いたり、いろいろですね。アルト・サックスはミュージンシャン人口も多いですから(笑)」
――もともと、アルト・サックスなんでしょうか。
「そうですね。中学生から始めました」
――その前には、ピアノを習ったりは?
「エレクトーンを習っていました」
――では、楽譜はばっちりだったわけですね。
「まあ。得意ではないですけど(笑)」
――そして、中学校は吹奏楽部ですか。
「エレクトーンもやっていたので、文化系なら吹奏楽かなあとなりました。そのときから、アルトでした。なんか、見た目に惹かれたんです。友達も入っていたので、遊びながら音楽もやっていたという感じですね。吹いていて楽しいな、という感じでした」
――高校に入ってからはどうでした?
「当時好きだったフュージョン系の部活みたいなのがあったので入りました。軽音楽部ですね。たまにキーボードを弾いたり、べースを借りてみたりということもしていました。好きなことをしていましたね」
――そして、大学に入るとジャズ研に入ったわけですか。
「ジャズ研というか、青学(青山学院大学)のビッグバンドですね」
――そのころ、好きな奏者というと誰だったのでしょう?
「昔から本田さんは好きだったんですけど、大学に入るとちょっとジャズっぽいこともやるようになって、一応王道で言ったらチャーリー・パーカーになりますけど、僕はそれほどはまらなくて、フィル・ウッズとか当時はケニー・ギャレットとかをよく聴いて、コピーしたりしてましたね」
――やはり、大学時代に得たものは大きいですか。
「高校の頃は松本にいたんですけど、その地域で一番ぐらいの気持ちで吹いていました(笑)。が、大学に入ったら、みんなアドリブとかも普通にやっているし、カルチャー・ショックのようなものを受けました。それにつられて、もっと上を見て、もっとうまくなりたいなと思いましたね。先輩には上手な人がいっぱいいましたから」
――そして、そのままプロにおなりになったわけですよね。
「なんかプロになろうかなという勘違いをしてしまい(笑)、それでなんとなく就活もせず……。結構、僕の世代って優秀でプロになった人が少なくないんですよ」

ビッグバンド作品は〈厄介〉
――この『Marveling』の前、2017年にもビッグバンドでアルバムを1枚お出しになっているんですね(2017年作『Daybreak』)。やはり、自分のリーダー作を作るならコンボよりビッグバンドで出したいという気持ちはあるのでしょうか?
「今はあまりCDを出せる世の中ではないので、だったら厄介なものを出そうと……(笑)。ビッグバンドのアレンジって大変なんですよ。それゆえ、作品としても重みのあるものとして残るような気がするので、ビッグバンドかなと思ったんです。コンボはコンボで楽しいんですけど、僕はアンサンブルが好きなんでしょうね」
――コンボ作よりも、手間も時間もかかるビッグバンド作品のほうが頑張って作ったなという感じは確かにしますよね。
「そうですよね。あと、ビッグバンド人口は意外と多い気がするんです。ある程度オーソドックスなビッグバンドのアルバムはいろいろあるのですが、新しいというか、聴いたことのないものをやろうとしている人たちも結構多いので、そういう内容を自分で発信した方がいいかなという思いで作りました」
――アレンジは全部、自分でお書きになっているんですよね。
「はい。自分のバンドでは全部やっています」
――ビッグバンドのアレンジなんですが、いつ頃からするようになったのでしょう。
「大学時代から譜面のない曲なんかは自分で書いたりはしていました。ちゃんと本格的にビッグバンドをやり始めたのが2009年なので、そのときからもうちょっとしっかりやり始めましたね」
――当初から、すんなりできちゃったという感じですか。
「最近はすぐにできるようにはなりましたけど、最初の頃は大変でしたね」
――たとえば、よく参考にした、お気に入りのアレンジャーはいたりするんですか?
「うーん、特にはいませんね(笑)。バークリー(音楽大学)から出ている教本で学んだり、あとはこの響きが格好いいなというものを自分の記憶を頼りに譜面にしてみたり。まあ、自己流でやってきています」
――あとは、気に入ったコンボの曲を自分なりに拡大する形でアレンジしているというところはありますか。
「はい、そういうのが僕の場合は結構多いのかと思います」

本田雅人のスピリッツを受け継いでいる
――本田さんに、B.B.STATIONについてインタビューしたことがあるんです。そのときに、〈実はフュージョンとビッグバンドって似ている。カチっと決められた器があって、そこにソロを乗せるということで〉といったことを、仰っていたことがありました。
「そう思います。僕も、同じように感じています(笑)。そうですね、昔から僕は本田さんのスピリッツを受け継いでいると思います」
――そんな師匠筋となる本田さんの、どんなところが一番お好きなんですか?
「まず、T-SQUAREを知ったのは、ちょうど伊東(たけし)さんから本田さんに代わるときだったんです。それで、ライブの映像を観ても毎回アドリブが違っていたりもして、そういうワクワクする感じに中学生ぐらいの僕は心を打たれましたね」
――それで、今回のビッグバンドのメンバーなんですが、みんな勝手知ったる友達ですか。
「そうですね。音楽仲間です」
――だいたい同年代でしょうか?
「上の人もいますし、下の人もいます。最近は下の人に頼るより、上の人に頼ったほうがいろんな意味で、演奏面でも安心してできますね。まあ、いろいろです。リズム隊とかもドラムの平川(象士)さんは年上ですし、ベースの古川(貴浩)くんは年下です」
――たとえば、自分はこういうタイプの奏者が好きで、声をかけているという観点のようなものがあったりは?
「こういう音楽を好んでやってくれる人ですね。そうじゃないと、お互いにストレスを感じてしまうので。すごいジャズ・ドラマーの方に来てきていただいて16ビートを叩けと言っても、お互いにつまらないでしょうし。だから、こういうのを得意な人を呼んでおります。アンサンブルが好きなので、格好よくアレンジしたものを格好よく演奏してもらいたいという思いがありますね」

フュージョンをビッグバンドで演奏する
――さて、この『Marveling』なんですけど、江古田のライブハウスのBuddyで2回録られたものなんですよね。
「2019年と、去年に録ったものを混ぜていますね」
――これは普通のライブを録ったのでしょうか? それとも無観客にしてレコーディング目的で録ったものなのでしょうか?
「普通にライブをそのまま録音し、それをそのまま使いました。編集するときに、逆になるべくライブ感をなくそうとはしましたね」
――はい、それは納得です。拍手も入っていないですし、クレジットを見なかったら、普通にスタジオに入って録ったアルバムかと思ってしまいます。
「多少いじったりはしていますけど。それなりの高いクォリティーの方が集まっているので、基本的には、そのままです」
――捨てた曲もあると思うんですが、今作はこういう方向でまとめたとか、なにか意図はありますか。
「前作もそうなんですが、フュージョンぽいビッグバンドというか、フュージョン楽曲をビッグバンド形態でやっているということを売りにしています。
しかも、本田さんにも参加していただいたライブもあったので、これはT-SQUAREの曲を本家本元に吹いてもらったものを入れたいと思いました。僕も一リスナーとして嬉しいですし、一般のお客さんも嬉しいんじゃないかなと思いました」
――きっちり作っていて、曲の尺は過剰に長くせず、ソロは入れても2人までとなっています。そういう縛りのようなものは決めたのでしょうか。
「やっぱりジャズとしては好きにアドリブを取ってもらったほうが楽しいんですけど、でもだらける場合もあるので、そこはリーダーである自分がいろいろ本番中に長さの指示を出しました。一応、これはお皿(CD)になるかもという話はメンバーにしていましたね」
――ご自身でソロを取っているのは、3曲だけです。控えめなんですね。普通、リーダーはもっと自分の出番を多くしないですか。
「最初の頃はそうしていたんですけど、管楽器だけで13人もいますから、13通りのアドリブが取れるはずなんです。なので、せっかくだからいろんな人にソロをとってもらおうと思いました。ビッグバンドは奏者として主張する場というよりも、楽曲とかメンバーのプレイを尊重する感じが大きいかもしれません」
――集まるメンバーを想定して、アレンジをしたりもするのでしょうか?
「そういう場合もありますが、半分以上は先に作ってから、誰に吹いてもらおうかと考えることもあります」

T-SQUAREの名曲を演奏する難しさ
――それで、T-SQUAREの曲が“宝島”“勇者(YUH-JA)”“BAD MOON”と3つ収められています。
「1曲はドラマーの則竹(裕之)さんの曲です。昔、則竹さんに来ていただいたこともあって、そのときに“勇者(YUH-JA)”という曲をアレンジしてやったので、今度はそれを本田さんに吹いてもらいました」
――T-SQUAREの曲は他のものよりも多くの人の耳に触れていると思います。それに新たなアレンジを施すというのは、チャレンジングな作業であったのでしょうか?
「そうですね。本田さんの曲(“BAD MOON”)って、なんか大変なんですよ。緻密に練られているんです。コンボでも大人数でもできない、難しいフレーズが続くんです。僕がアレンジしたら、トランペットの人たちがもう手を焼いていました」
――曲によっては〈なんだよ、こんなに難しことをやらせるのか〉という声がメンバーから上がったりもしたわけですね。
「そうですね。今までの経験上、初見でも1回か2回通してやれば、〈こんな感じで大丈夫そうだね〉となるんです。ところが、“BAD MOON”に関しては1時間以上みっちりやったんですが、〈結局できないね〉という感じで最初のリハは終わりました」
――そんな話を聞いていると、『Marveling』は今までの活動で積もってきた創意を素直に出したのかなとも思ってしまいます。
「そう思います。(大きな編成のものは)毎日できるジャンルではないので、ここ10年ぐらい続けてきて、なんとか形になっている部分があります。最初は〈こんな音域じゃ吹けないよ〉とか言われて、〈ああその通りだな〉と思い、直してみたり。自分だけで勉強してきたわけではなく、みんなに教えてもらった部分も小さくないです。
そして、今回は本田さんが入ることによって、サックス・セクションが6人になってしまって、それでアレンジし直した曲もあります。“宝島”では、僕はちょっとしか吹いていなくて、本番のときはほとんど手拍子をしていました(笑)」
――鍬田さんが書いた“FLAMENCO”は、鍬田さんと本田さんの2人でソロを取り合っていますね。
「はい。本田さんに入っていただくとき、僕の曲を本田さんに吹いていただきたいという希望もありました。そして、こてんぱんにやられるんだろうなと思いつつ(笑)、バトルをしてみました」
――“BEYOND THE RAINBOW”はメンバーの寺地美穂さんの曲です。難しい譜面をメンバーに渡すサディスティックな部分もある一方、民主的なリーダーでもあるんですね。
「(笑)。いえいえ。どうなんでしょうね」
――それで、僕が一番いい曲だなと思ったのが、3曲目の鍬田さんの曲“しんしんと”なんです。トロンボーンのソロも味わい深いですし、いい曲を書きますね。
「ありがとうございます。トロンボーンって一般的には目立たない部分があるもしれないですけど、僕はビッグバンドで一番好きなのはトロンボーン・セクションなんですよ。僕のオリジナルの“FANTA SEA”でも、2コーラス目のメロディーとかをトロンボーンにソリ(セクションの合奏)で吹いてもらったりしています。トロンボーンって響きというか、ハモり方がすごい綺麗で、やっぱり上手な人にやってもらうとすごい気持ちがいいんです。トロンボーンの優しい音色とか、音程の綺麗な感じとかを、もっと知ってもらいたいですね」

高校生や大学生、アマチュアの方々に聴いて演奏してもらいたい
――今、こうして新作が仕上がってみて、改めてどんな感想をお持ちですか?
「早く、聴いてもらいたいという思いだけです。あと、アマチュアの方々に収録曲を演奏してもらえたら嬉しいかな。やっぱりビッグバンド出身ですので、今のビッグバンドをやっている人たち、とくに高校生や大学生たちが聴いて、自分で言うのもナンですが、格好いいなと思ってもらえたなら嬉しいです」
――Marveling Big Bandと名付けていますが、その由来は?
「理由は特にないんです。昔使っていたメール・アドレスを〈マーベラス・サックス〉というのにしており、〈marvelous(素晴らしい)〉という言葉が好きだったので、それをing形にしてみました」
――そして、今回は『Marveling』と、アルバム・タイトルにも用いました。
「そうですね。日本語にすると素晴らしいという意味なんですけど、シンプルでいいかなと思いました」
――ビッグバンドの名前でもありますし、これこそが僕たちなんですよいう自信が持てるアルバムができたんだろうなという気がします。
「そうです。その通りです」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2021年6月30日(水)
品番:TMCJ-1001
フォーマット:1CD
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
1. 宝島 feat. 本田雅人
(作曲:和泉宏隆)
2. FUSION JUICE feat. 小林太 and 鍬田修一
(作曲:Jeff Lorber、Kenneth Bruce Gorelick)
3. しんしんと feat. 三塚知貴
(作曲:鍬田修一)
4. BELIEVIN’ feat. 安川信彦
(作曲:岩見和彦)
5. FLAMENCO feat. 本田雅人
(作曲:鍬田修一)
6. BEYOND THE RAINBOW feat. 寺地美穂
(作曲:寺地美穂、松本圭司)
7. FANTA SEA feat. 鍬田修一
(作曲:鍬田修一)
8. BAD MOON feat. 本田雅人
(作曲:本田雅人)
9. 勇者(YUH-JA)feat. 本田雅人
(作曲:則竹裕之)
10. PROJECT K feat. 鍬田修一
(作曲:鍬田修一)
※2019年11月6日、2020年11月8日に東京・江古田Buddyにて録音
■メンバー
Saxophones:
鍬田修一(アルト・サクソフォン)
寺地美穂(アルト・サクソフォン)
中江裕気(テナー・サクソフォン)
安川信彦(テナー・サクソフォン)
鍬田智恵子(バス・サクソフォン)
Trombones:
中雅志(トロンボーン)*M1、2、5、6、8、9、10
三塚知貴(トロンボーン)*M3、4、7
川原聖仁(トロンボーン)
須賀裕之(トロンボーン)
朝里勝久(バス・トロンボーン)
Trumpets:
仲兼一郎(トランペット)
小林太(トランペット)*M1、2、5、6、8、9、10
小倉大都(トランペット)*M3、4、7
上石統(トランペット)
野口勇介(トランペット)
Rhythms:
林良(ピアノ/キーボード)
古川貴浩(ベース)
平川象士(ドラムス)
フィーチャリング・ゲスト:
本田雅人(アルト・サクソフォン)
PROFILE: 鍬田修一
77年11月6日、北海道・帯広出身。松本深志高校軽音楽部在籍時、〈Student Jazz festival〉 にて優秀ソリスト賞を受賞。青山学院大学Royal Sounds Jazz Orchestraのコンサート・マスター時代、〈第5回太田市大学Jazz Festival〉にて優秀個人賞を受賞。自身のアレンジによる〈鍬田修一Marveling Big Band〉をはじめ、サポート、スタジオ、ビッグバンド指導、レッスンなどで活動中。

