NHKの朝ドラから映画「大長編ドラえもん」シリーズ(99~2005年)、「ゲゲゲの鬼太郎」(2007~2009年)まで、多数のTVドラマ、アニメ、CMなどの作曲とプロデュースを手がける音楽家、堀井勝美。彼が超一流ミュージシャンの面々を起用したポップインスト/アーバンフュージョンプロジェクトが、〈堀井勝美PROJECT〉だ。今回、同プロジェクトが87~90年に発表したアルバム5作が、堀井自身の監修のもと、タワーレコード限定で初めて再発売された。鈴木英人によるイラストも印象的な傑作群の魅力とは? 〈Light Mellow〉で知られる音楽ライターの金澤寿和が解説する。 *Mikiki編集部

 

バブルへ向かう日本で人気を博したシティポップとフュージョン

70年代に形成された(今でいう)シティポップは、その進化のプロセスにおいて、都市生活とリゾートのカルチャーを結びつけた。その先駆者は松任谷由実とインストでは高中正義。そして80年代に入って音とイメージを一体化させて大成功したのが、大滝詠一『A LONG VACATION』(81年)山下達郎『FOR YOU』(82年)である。
その2作を契機に、日本の音楽シーンはバブル景気へ向けて疾走し始めた。

本来は音楽マニアや楽器少年たちに人気だったフュージョンも、ポップ化が進んでドライブのBGMになったり、TV・ラジオのテーマ曲やジングルに使われるなど、歌モノ同様にファンの裾野を広げた。F1テーマで大ブレイクするザ・スクエア(現T-SQUARE)の『TRUTH』と、この堀井勝美PROJECTのデビューが共に87年同時期の発売。そのわずか3ヶ月後に、シンガーソングライター角松敏生の初インスト作『SEA IS A LADY』が堀井とRCA/airレーベルから発売されたのは偶然ではなく、当時のフュージョン人気の高さが伝わってくる。

 

著名ミュージシャンのサウンドと鈴木英人のビジュアルが不可分になったコンセプト

ただデビュー時の堀井勝美は、フュージョン好きの間でも全く無名に等しかった。彼は東京音大作曲科を出て、NHKなどTV劇伴中心に活動してきた作編曲家で、デビュー当時31歳。今でこそ映画やアニメの音楽、例えば「ドラえもん」や「ゲゲゲの鬼太郎」などで知られるが、それはPROJECTで作品を重ねて以後のお話である。

その名もなき主人公の代わりに、難波弘之(キーボード)や鳴瀬喜博(ベース)、是方博邦(ギター)、土岐英史(サックス)、数原晋(フリューゲルホルン)といった著名セッションミュージシャンを多数キャスティング。サウンドの爽快さを視覚的に表現すべく、『FOR YOU』のアートワークで注目された人気イラストレーター:鈴木英人とコラボレイトした。かく言う筆者も、〈ミュージシャンもジャケ作者もみんな名前は知っているのに、肝心の堀井勝美だけ謎……〉状態。もしかしたらその不思議な存在感も、注目度を高める戦略だったのかもしれない。

こうしてデビュー時に始まったコンセプチュアルな手法は、90年代中にairレーベルから発表された全10枚のオリジナル作すべてに共通する。そんな音とビジュアルの不可分要素を、誰もが気楽に、繰り返し楽しめる作品へと落とし込んだのだ。これが堀井勝美PROJECTの真髄。

そして今回は、そのうちの初期5作品が堀井自身の監修の下、2023年最新リマスター、ボーナストラック追加でタワーレコード限定復刻された。90年代に廉価再発されたアルバムもあるが、いずれも中古市場でプレミア価格が付いていたから、まさしく待望の再登場と言える。