
崎山蒼志の海外アクト初体験はブラック・ミディ
――崎山さんのブラック・ミディとの出会いは?
崎山「僕は〈KEXP〉のYouTubeチャンネルに登録していて、上がっている動画をざっと観ていくことが多いんです。知らないミュ―ジシャンを知れることも多いので。
そんななかで、前日に上がったくらいのタイミングでブラック・ミディの動画を見つけて、まず〈すごく若そう、年が近いんじゃないかな〉と興味を持ったんです。実際に動画を観て、やばいなと思いました。ギタリストの方(マット・クワシニエフスキー・ケルヴィン)がスマホから音源を流してその音をギターのピックアップで拾ったり、でもバックの演奏はタイトだったり、もう本当にかっこいいなと思いました。
その後にリリースされたアルバムを聴いて、めちゃめちゃテンションが上がりましたね。僕は未聴感のある音楽がすごく好きなので、〈新しいロック・バンド、きた!〉と思いました。それで、お父さんにも〈やばいから〉って言って、実家のスピーカーで一緒に聴いて(笑)」
荘子it「たしかに、崎山くんに近いヴァイブスを感じるよね。音楽性は高いんだけど、変にインテリっぽくなりすぎずに、若さがほとばしっている感じがいい。ファーストの1曲目(“953”)なんて、〈ちょっとバカなのかも?〉と思うくらいの勢いだし(笑)」
崎山「来日公演が決まったときは行くしかないなと思いました。東京公演は行けなくて、大阪に行ったんです。まだ高校生だったので、学校帰りに急いで地元・浜松から新幹線に飛び乗って。海外のバンドの単独公演を観にいったのは初めてだったので、ドキドキしましたね。ちょっと怖いなと感じたり、ライブハウスがどこかわからなかったり」
生 black midi 大阪で観れた。超かっこよかった!!!ぐおおおお(;_;)(;_;)(;☆;) また観たいなぁ
— 崎山蒼志 (@soushiclub) September 6, 2019
――いいエピソードですね。
崎山「ライブが始まったら最初にベーシストの方(キャメロン・ピクトン)が出てきて、パッドを叩いてSEが流れた瞬間に〈やべえ!〉と思いました。ライブは、めちゃめちゃかっこよかったです。曲間がなくて、ずっとジャム・セッションのように演奏している感じとか。最初、始まったときはラフな印象だったんですけど、どんどんヴァイブスが上がって集中していっている感じがありました。特に“Near DT, MI”(2019年)という曲が大好きで、演奏されたときはたまらなくて、めっちゃアガって。〈うわっ、やばい!〉って、一瞬トびそうになりました。あと、横で観ていた人がすごく盛り上がっていて、ぶつかったのが痛かったです(笑)」
荘子it「初海外アクトの思い出だから、細部がめっちゃヴィヴィッドな感想がいいね(笑)」
遺産食いつぶす系加速主義的パンク
荘子it「たしかに、あんなに激しい演奏をするバンドなのに、ぬるっと始まるのがいいよね。たとえば、クリス・デイヴのライブなんかもほんと適当に始まるんだけど、いつのまにかやばい演奏になっている。ブラック・ミディはみんな上手いし、ああいう音楽性でありながらジャズ・ミュージシャンのようなノリで演奏するのが、またすごいよね」
――突飛な音楽的なアイデアが注目されがちですが、バンドで演奏することによろこびを見出しているバンドだと思います。
荘子it「あとコスチュームを揃えたり、3DCGのアバターをアー写にしたり、退廃的な世界観の構築がすごいですよね。その世界観をアツい演奏にうまく混ぜていて、そこはプログレ・バンドに近い。
プログレにも2種類あって、宮殿みたいな建造物を音楽で作る様式美や構築美を目指す方向性のバンドもかっこいいんだけど、俺はキング・クリムゾンの一部の作品のような〈構築して壊す〉タイプが好き。イタリアのプログレ・バンドもそう。イタリアといっても、両極端なバンドがいるけど」
――イタリアン・プログレといえば、アレアとか?
荘子it「そうそう。俺はプログレのなかでもアレアやオザンナがとにかく大好きで、構築しながらフリー・ジャズ的な即興をうまく溶け込ませてるんですよね。
オーセンティックなヒップホップのミュージシャンってサンプリング・ソースに対してリスペクトを示すんだけど、俺はどっちかというと〈ぶっ壊してやる〉という感覚でやっていて。〈親の遺産を食いつぶしてやる〉というモチベーションやガッツだけで生きている、みたいな(笑)。サンプリングされた側にしてみれば、〈勝手に使っておいて壊さないでくれ〉って感じだろうけど(笑)。
本人が〈タイトルにまったく意味がないことが重要〉〈アルバムは(曲を届けるための)単なる容器にすぎない〉と明言してたから、これはあくまであえてする言葉遊びなんだけど、ブラック・ミディのファーストのタイトルの〈Schlagenheim〉って、直訳すると〈hit / beat home=家を打つ〉に変換できて、それが俺には〈家をぶっ壊す〉と言っているように思えるんだよね。ブラック・ミディのメンバーはたぶん、親がレコード・コレクションを持ってたり、由緒正しき音楽一家の出身だったり、さらにブリット・スクールで音楽を学んだり、いろいろなインプットや遺産を持っているんだろうけど、それを全部叩き壊してやるという意志がバンドのコンセプト・レベルである気がする。一周回ったパンク感というか、〈遺産食いつぶす系〉のパンク感(笑)。権力を転覆させるんじゃなくて、〈有り余る遺産を全部食いつぶしてなきものにしてやる〉という、ちょっと独特の加速主義的なパンク感。そういう、ブリティッシュ・パンクの伝統のなかの新しい空気を感じましたね」
――崎山さんは、いま荘子itさんが言った〈構築して壊す〉というスタイルについてどう思いますか?
崎山「それは、ブラック・ミディにすごく感じますね。リフレインしていて気持ちいいなと思っても、それが突然崩れていくとか。“Ducter”の〈Pitchfork(Music Festival 2019)〉でのライブ映像でも、お客さんがノってきたのに演奏が一回壊れるんです。演奏が止まったと思ったら、またアガってきて、すごいキメがあったり。〈加速主義〉という荘子itさんのたとえは、〈あ~!〉と思いました。
あと、モーガン・シンプソンさんのドラムがめっちゃかっこよくて。〈好きなドラマーを3人挙げてください〉と言われたら、僕は彼を入れると思います。新作ではジャジーなアプローチもありましたが、めちゃめちゃタイトで、リズムをちょっとずらしてもバネみたいに戻ってくる。あのドラムは、僕がブラック・ミディを好きであることの大きな要素のひとつですね。大好きです」
荘子it「僕も元マーズ・ヴォルタのトーマス・プリジェンがいちばん好きなドラマーでした(笑)」