ドリーミーな感じ

 こう書くと言葉に比重が傾いているように思われるかもしれないが、そこと滑らかに融和した彼女らしいメロディー&リディムの魅力はもちろん大前提だ。

 「リリックがちゃんと聴こえることは意識したし、全体的にダンス・ミュージックでありながらドリーミーな感じにしたいなって考えてました。わりとアンビエント要素の入ったR&Bが、よりしっくりきてたのもあるかもしれないですね。この数年だとブラッド・オレンジとか。あと、サンティとかオドゥンシとか、あのへんのナイジェリアのアーティストの、低音は鳴ってるんだけど全然シャキシャキしてないっていうか、ふわっとしてる不思議な音像が好きで、ちょっと懐かしいけど、いまっぽいバランスは意識したかもしれないです」。

 そんなアトモスフェリックな意匠の心地良さは、冒頭の“Body Temperature”から圧倒的。同曲とオリエンタルな情緒を湛えた“Tolerance”の2曲は、韓国のthe Others(HahmとXin Sehaのユニット)と共同で制作されている。

 「もともとアルバムを作りはじめる前ぐらいに、彼らが連絡をくれて、〈韓国のとあるスターに曲を提供できるかもしれないチャンスがあるんだけど、あなたの作ってるものが好きだから一緒に曲を作ってくれないか?〉っていうコンタクトがあったんです。で、Xin Seha君の曲は私もいくつか知ってる曲があったのでビックリして、しばらく一緒に曲作りをしてたんですね。まあ、それは最終的に採用にはならなかったんですけど(笑)、彼らとの作業が刺激的でおもしろかったので、〈じゃあ、私のアルバムでも一緒に作ってみない?〉って訊いてみて出来た2曲です。Xin君は歌えるから、テーマを伝えて“Tolerance”に入ってもらいました。たぶん20代だと思うんですけど、凄いレスポンスが早かったり、アイデアのやりとりもスムースで、凄く情熱を感じたんですよね。作ってて楽しかったです」。

 そのXin Sehaを筆頭に、要所でゲストも好演。アフロビーツ調の“i wanna know”における鎮座DOPENESSとの好相性は言わずもがな、“PMS”ではNENEの痛烈なマイク捌きが光る。

 「今回は世代も男女もいろんな人に入ってもらいたいなって思っていて、NENEちゃんは去年の『夢太郎』が素晴らしかったし、自分の言葉を持ってると思ったのでお願いしました。で、会って私が最近思ってるようなこととかもいろいろ話して、トラック作って送ったら、先に乗せて返してくれて。彼女はトランスもやってるぐらいなんで、ダンス・ミュージックに貪欲なマインドも持ってるし、こういうのをやるならNENEちゃんだなって」。

 同曲ではマイケル・ジャクソン“The Lady In My Life”を思わせるメランコリックな風情がプリミティヴなビートも相まって実に魅力的だ。

 「ギターは完全にそうです(笑)。その曲をネタ使いしたジュークみたいなのを作りたいなと思って、それを意識しながら違う感じでKASHIFさんに弾いてもらって。でも、トラックはそこと全然かけ離れた不思議な感じにしたくて。やっぱ海外のジュークとかフットワークって、そういう昔のソウルを凄い上手にサンプリングしてるので、そういうものが作りたかったんです」。