4、5割程度の完成度で終わりたい

――食品くんの音楽は以前から、偶然性やエラーを活かすのが特徴だと思っていたんですが、今回はその面でさらに洗練されていると感じました。なんとなく生まれたエラーを採用しているというより、すでにエラーの出し方をわかっていて、コントロールしているように聴こえたんです。

「おっしゃるとおりです。エラーのコントロールに関しては、意識的にやっています。〈飽きたな〉というときに、あえて機材を触らない時間を2か月とか作って、使い方を忘れた状態にして、また作りはじめたり。〈新たな自分になる〉というか、そこは心掛けているところです。

あとはソフトを変えてみたり、なるべく予定調和にならないようにしています。手癖になっているなと思ったら、違うところに行きますね。この新作は、ループをベースに膨らませていったんですけど、ループのスタート・ポイントを変えて変拍子的なビートを作りました。これ以前はDAW上に音を置いていくという作り方だったんですけど、今回は少し作り方を変えたんです」

『やすらぎランド』収録曲“Yasuragi”
 

――あと、食品くんの音楽は無音部分の作り方がおもしろいなと思っています。

「無音部分についても意識して作っていますね。音が一瞬パッとなくなったりとか、いきなり音数が極端に減るとか、あの感じがかっこいいというか、お笑い的な感じでおもしろい。いきなり音がなくなって、〈えっ?〉となったあとに音が入ってくると、笑えるじゃないですか。そういう視点から、無音というか〈間〉を作っているんです。自分はギチギチにアレンジメントされているものよりも、間のあるものが好きですね」

――食材を活かす感じというか。

「そうですね。完成度についても、どちらかというと適当なところで終わりたいというか。4、5割くらい出来た時点でもう完成」

――10分の7くらいまでいかなくていいんだ(笑)。

「7だと、意識的に7をめざしてやってるなという感じに聴こえると思うんですけど、自分はさらに〈これでいいんですか?〉みたいなところまで突っ込んでいきたいんです」

――7までは世の中の普通の範疇だから、もう5よりも少なくしちゃう。

「これを出していいのかっていうギリギリのラインというか。そんくらいのほうがおもしろいんですよね」

――Boiler Roomの食品くんのライブを観たときに、外国人が書いたものだと思うんだけど〈彼には助けが必要だ〉というコメントがあって、すごく印象に残っています。

「そうなんですよね。Boiler Roomはテクノ/ハウス系が多いから、僕みたいな音楽だと〈この人、大丈夫かな〉って、なっちゃうみたいで」

食品まつり a.k.a foodmanのBoiler Roomでのライブ映像

 

小さい機材とアイデアだけでヤバいものを作る

――食品くんは、既存のダンス・ミュージックのフォーマットにチャレンジしているわけですよね。クラブ・ミュージックだと持続するグルーヴがベーシックにあるわけだけど、そのなかで間をこれだけ強調しているのは珍しい。

「間があるのがおもしろいし、それゆえの気持ちよさもあると思うんです」

――音楽の歴史のなかで蓄積されてきた〈こうやるとかっこいい〉というフォーマットがあるとして、食品くんは音色の選び方や音の組み合わせ方も含めて、そういう既定の型には絶対にしたくないと思って作っているんじゃないですか?

「それは結構あるかもしれない。自分はそこまでいろいろな音楽をたくさん聴けているわけじゃないですけど、どうせやるんだったら〈これが僕のオリジナルです〉と言えるような音楽を作りたい。何かに似そうだったら、ズラします。そして、〈あんまり聴いたことのないものが出来たぞー〉となったとき、ちょっと嬉しい気持ちになる。答えのないパズルを永遠にやっているような感じです」

――失礼な物言いかもしれないけど、クォリティーよりオリジナリティーを重視しているようにすら思えます。

「まさにそうです。クォリティーを高めるより、ほかにないものにいきたい。力の使い所的にも、そっちを優先していますね。誰かに提供するものに関しては、ある程度クォリティーを大切にしていますけど、自分の作品に関しては聴き手を〈えっ?〉って感じにしちゃうものがいいんですよね」

『やすらぎランド』収録曲“Hoshikuzu Tenboudai”
 

――機材の面でも普通の民生機で作りたいと思っているんじゃないですか?

「まったくおっしゃるとおりですね。SP-303とレコードだけでやっています、みたいな人に惹かれるんですよね。昔から、身の回りにあるものや限られたものだけですべてやれる――たとえばスパイ七つ道具みたいなものへの憧れがあるんです」

――だから、食品くんはロマン派だと思うんですよ。立派なものではなく、ボロくて小さい機材とアイデアだけでヤバいものを作ってやるという。もともと初期のテクノやハウスも、当時は捨て値だった機材から作られたという面もあるじゃないですか。最新機種じゃなく、人気がなかった古い機材で作られている。

「知識はないけど気合いでやる感じというか。自分が音楽をしっかり勉強してたらいいんだけど、僕も〈触ってたら出来た〉みたい感じからスタートしているので」

――立派なスタジオとシンセサイザーを与えられえて、〈ここで作りなさい〉と言われたらどうします?

「いやー、どうでしょ。自分の機材を持っていって、それでやっちゃうかも。で、大きな機材はカーテンで隠す(笑)」

――目に毒だと(笑)。