そしてこの後に、ロバート・グラスパーたちがやってきた。
60年代のジャズ・アルバムのようなジャケットに包まれて、21世紀に急逝したジャズ演奏家のライヴ・レコーディングがリリースされた。この二人のことを故人と呼ぶには記憶があまりにフレッシュすぎるけれど、調べてみるとトランペッターのアルバムは2009年、ピアニストのは、2012年で打ち止めになっていた。ピアニストは、マルグリュー・ミラー、トランペッターはロイ・ハーグローヴ。録音されたのは、2006年と2007年のニューヨークとペンシルヴァニア。ホールでのライヴ。少しオフ気味に聴こえるピアノの響きにホールのアンビエンスが滲み、ドライなトランペットとの距離感が、心地いい。
RHファクターでの自身の活動やディアンジェロのプロジェクトに参加していた当時のロイ・ハーグローヴ・ファンからすると、このコンサートでのレパートリーは少し意外なものだっただろう。
彼らが選んだセットリストには、スタンダードだけが並ぶ。2000年に録音され2010年にリリースされたマルグリュー・ミラーの“Solo”のレイアウトのままデュオで演奏してみた、そんな雰囲気だ。ケニー・ギャレットの“Simply Said”、カサンドラ・ウィルソンの“ブルー・スカイ”での演奏に惹かれてこのピアニストを追っかけるようになった。バランスの取れた、素晴らしいプロポーションのジャズを造形するピアニストの一人。このライブでも彼のピアノは、メロディをそれ以外にないと思わせる自然な響きで肉付けしていく。そのピアノの航跡は、確かにあのソロ・アルバムのまま。数少ない、動画に残されたソロ・ピアノの、あのまま。
RHとMM、この二人の間で何が起きていたのか。アルバムのブックレットには様々なミュージシャンや、プロデューサーの言葉が寄せられている。音楽はそんな証言を他所に、この時だけ、あの瞬間だけに芽生えた何かをしっかりと伝えてくる。生前に記録された音楽が、彼らの死後もこんなに暖かく、優しく語りかけてくることに(よくある事だとしても)、改めて驚いた。