トランペット奏者/作曲家として前衛音楽の発展に大きな功績を残したジョン・ハッセルが、2021年6月26日に亡くなった。

ハッセルは、1937年3月22日にアメリカのテネシー州で誕生。後年にカンを結成するメンバーらとともに、独ケルンにてカール・ハインツ・シュトックハウゼンに師事した。米国に戻ると、68年にテリー・ライリーのアルバム『In C』のレコーディングに参加。ラ・モンテ・ヤングが結成したシアター・オブ・エターナル・ミュージックのメンバーにも名を連ねる一方で、インド人歌手、パンディット・プラン・ナートに、キラニック・スタイルの歌唱を学んだ。インド古典音楽の旋法〈ラーガ〉に心酔したハッセルは、ラーガを習得すべく鍛錬を重ねたという。

そして、世界中の伝統音楽に対する関心が高まりから、〈第四世界〉のコンセプトを開発。エスニックな音楽とエレクトロニックなサウンドを融合させ、70年代後半に『Vernal Equinox』(77年)や『Earthquake Island』(78年)などの傑作を世に出した。これらの作品は、ブライアン・イーノに大きな影響を与え、イーノがプロデュースしたトーキング・ヘッズの『Remain In Light』(80年)にハッセルも参加している。

近年も精力的に作品を発表しており、2020年には新作『Seeing Through Sound(Pentimento Volume Two)』をリリース。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやヴィジブル・クロークスら新世代の電子音楽家からも支持されている。

今回、追悼文を寄稿してもらったDJ KENSEIもハッセルに大きな影響を受けたプロデューサーのひとりだ。訃報が届いた際、〈Jon hassellの音楽は出会ってからずっと好きで昨日も聴いてたくらいだから本当にハマった数少ないプライベートでもよく聴く音楽なんだなと改めて思った〉とTwitterに投稿していたKENSEIに、ジョン・ハッセルの音楽が自身にどんなインスピレーションを与えていたのかを綴ってもらった。 *Mikiki編集部

 


音は無限だとという発見

もしジョン・ハッセルのような音楽と言われたらワクワクして聴いてみたいなと思ってしまいます。(なかなかないと思うけど……。ブライアン・イーノよりもサム・ゲンデルの方がムードというか感覚は近いかな?)。

ジョン・ハッセルの2014年のライブ映像
 

自分は様々な場所へ旅に行ったり、DJをしに行ったりします。そして色々な音に出逢ってきました。水の音一つ取っても、気持ち良い音。心地がよい音。 湿った質感のものから乾いた質感のもの。池に大きな石を投げ込んだ時の身体に感じる低音感を持った音。スコールがいきなりトタン屋根に大量に降ってくるときのびっくりする音。川の流れのポイントから出るフランジャーのかかった違和感のある音。屋久島の大川の滝のような、塊でくるノイズみたいで圧倒されるも、水分をたっぷり含んでいて潤いまくったマイナスイオンたっぷりの音。水琴窟のなかに落ちる一滴の響きのようにミクロで緊張感があるけどリラックスする音。全く流れの無い穏やかでさほど大きくない湖にボートに乗り、ゆったりオールを漕ぐ際の、鳥のさえずりとミックスされた音。大きな岸壁から大量の水の粒が滴っている音。太い音、細い音、早い音、ゆったりした音、、、、水のサウンドだけで無限なヴァリエーションがあることに気付きます。

その気付きには、自分が様々な環境に身を置いて体験し、その音のレンジ感を再現しようと現場でトライアンドエラーを繰り返してきながら肌で感じ、身に付いてきたことが関係しているように思います。また、日常的な環境や生活を丁寧に生きることにより、周りのサウンドが与える影響をダイレクトに感じ取れるようになってきたのだと思います。

ジョン・ハッセル&ブライアン・イーノの80年作『Fourth World Vol.1:Possible Musics』収録曲“Charm(Over Burundi Cloud)”

 

音楽の持つ個性はオリジナルなオトマノペ

また自分の好きなインドの古典音楽ラーガは世界に元から存在していて、奏者はそれを発明するのではなく発見するだけであると、ヒンドゥーの伝統では信じられています。音楽が人間に訴えかける力を持つのは音楽にこそ世界の調和が現れるからだ、という考えもあるらしいです。

ラーガは、〈インドで使用される非常にきめの細かい旋法であり、音階と混同してはならない。音階はあくまでもラーガの一要素に過ぎない。ラーガは基本的に旋律を構築するための規則で、音列と同時に、メロディーの上行・下降の動きを定めるものである。つまり、音列上の特定の音をより強調する、より控え目にする、装飾音をつける、ビブラートをつける等の規則があり、さらに使用すべき旋律形および避けるべき旋律形等の規則が存在する。それらの規則の枠組みの中で作曲や即興演奏がなされることにより、そのメロディーがどのラーガであるかを判別することが可能となり、その規則のなかでの無限の変奏が可能となる〉とWikipediaでは説明されています。

水や自然界に存在する失われつつある様々な美しい音、ラーガのように普遍的で人間に発見された幻想的なサウンドや変奏を感じたことで、音楽の持つ個性(フレーズやグルーヴ、言語)をオリジナルなオノマトペ(言語)とするなら、自分もそれを追求し表現したいと常々思うようになりました。余計な情報を入れることなく、そのサウンドに無意識にピュアに引き込まれる音楽には簡単には出会えない昨今で、一際美しさと気持ち良さを感じられる種類のトランペットオノマトペが、ジョン・ハッセルの音楽だったのではないでしょうか?

ジョン・ハッセルの2020年作『Seeing Through Sound(Pentimento Volume Two)』収録曲“Fearless”
 

ハッセルは〈世界のエスニックなスタイルと高度なエレクトロニック・テクニックの融合という特徴を持った、原始的かつ未来的なサウンド〉である彼の作品を説明するために〈第四世界〉という用語をつくり出したと言われています。

Jon Hassell、1937年3月22日 - 2021年6月26日 R.I.P.

DJ KENSEI

 


PROFILE: DJ KENSEI(Sarasvati Music Ashram, Sorameccer Sound Community, Sure Record Pool Japan)
DJ/PRODUCER/BEATMAKER/LAPTOP MUSICIAN
東京都出身のDJ。多彩なセレクト/サウンドコントロールによって、オリジナルな空間作りを意識し、それらを反映する音源を国内外の様々なレーベルからリリース。ソロ活動以外に、INDOPEPSYCHICS、FINAL DROP、NUDE JAZZ、OUTERLIMITS INC、KEMURI PRODUCTIONS、KENSEI & QUIET STORM、Banana Connection, COFFEE&CIGARETTES BAND、OMA’N’SEI(W/SUZUKI ISAO)、ISPAAR BAND、COLORFUL HOUSE BAND、KOKENSHOW、LOOPSなど、多くのプロジェクトの中心として幅広く活動し、様々なイベントや作品、動画に参加。2021年にはDJ 35周年を迎える。

DJ KENSEIが2020年からはじめたYouTubeチャンネル〈Sarasvati Music Ashram〉の動画。同チャンネルは、KENSEIの持つ秘蔵レコードや彼の友人の楽曲などをアップロードしている