イチベレと日本の〈家族〉による、パスコアル直系ブラジル音楽の鮮烈なライブの記録

 2019年11月2~3日静岡県掛川市で開催された〈FESTIVAL de FRUE 2019〉。ジャンルや国境を越えた〈魂の震える音楽体験〉を掲げ、魅力的なラインナップを見せるフェスにて、耳の肥えたオーディエンスを狂喜させたのが、イチベレ・オルケスタ・ファミリア・ド・ジャパン。ブラジル音楽界の至宝、エルメート・パスコアルのベーシストとして40年以上活躍してきたイチベレ・ズヴァルギのプロジェクトだ。有望な若手から名の知れたベテランまで、日本人音楽家25人が公募に参加を表明し、約3週間のリハーサルを重ね、イチベレの書き下ろし曲12曲が演奏された。今作はそのライブ録音となる。

ITIBERÊ ZWARG『Orquestra Família Do Japão』 Unimusic/Scubidu Music(2021)

 核にあるのはパスコアルの提唱する〈ユニバーサル・ミュージック〉で、バイオーン、マラカトゥをはじめとするブラジルの北東部(ノルデスチ)の伝統的リズムが欠かせない。イチベレは、それらを深いレベルでメロディやハーモニーと結びつける。ホーン、ストリングス、リズム隊を、時に変拍子も取り入れ、キレのある曲展開で、自在に組み立てる。暖かく親しみやすい音楽世界は、会場全体を揺さぶり、さらには重層的な叙情的風景を巧みに喚起する。

 録音からは、当日のイチベレの、指揮し、スキャットし、キーボード・ソロを弾き、(もちろんベースを弾き)MCをする、魅惑的なパフォーマーとしての姿が浮かび上がってくる。また、息子のアジュナリンは、群を抜く安定度と技量で、生き生きとしたリズムの根幹を支えている。サックスやフルートをはじめとする日本人音楽家たちのソロも冴えを見せる。さらにダイナミックなピアノやコーラス。日本におけるブラジル音楽の功労者、ケペル木村氏のザブンバでの登場も、全体に華を添えている。

 複雑なリズムを取り込み、日に日に深みを見せるアンサンブルには、一演奏家として参加した筆者も、驚かされた。現在進行形のブラジル音楽が、掛川の地を大いに震わせた。その歴史的事件が、細部にわたる丁寧なミックス作業を経て、ここに鮮明に記録されている。