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二人のケミストリー

 ガガの3作目『Artpop』(2013年)に続く形で登場した『Cheek To Cheek』は、トニーの次男デイのプロデュースの下、デューク・エリントンやビリー・ストレイホーン、ガーシュインら偉大な作曲家たちのスタンダードが歌唱され、伝統的なジャズの作法で歌うガガの素養は、フランク・シナトラやライザ・ミネリが引き合いに出されるほど大きな驚きをもって受け止められた。話題性も相まってチャートでは全米1位を記録、翌年のグラミー賞では最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバム部門に輝くなど華々しい成功を収めている。

 とはいえ、商業的な成功や受賞よりも重要なケミストリーを互いが感じていたことは、アルバムのリリース日にトニーがガガに電話して2作目の話を持ちかけたというエピソードからも明らかだろう。それぞれに忙しく活動しながら具体的なレコーディングは2018年にようやくスタート。録音は2021年にかけてマイペースに行われたが、すでに闘病中だったトニーの変化を感じたガガがレコ—ディング中に涙することもあったそうだ。ただ、70年以上(!)もステージに立ってきた稀代のエンターテイナーにとっての大きな節目にあって、そのパートナーにガガが選ばれたことの意味は言うまでもないだろう。

TONY BENNETT & LADY GAGA 『Love For Sale』 Streamline/Columbia/Interscope/ユニバーサル(2021)

 今回の『Love For Sale』は、前作『Cheek To Cheek』においても“Anything Goes”と“Ev'ry Time We Say Goodbye”(デラックス版のみガガのソロで収録)を取り上げていたコール・ポーターの楽曲集となる。1910年代からミュージカルや映画に多くの楽曲を書いてきた作曲家コール・ポーター(1891〜1964)は、多くの仕事がジャズやポップスの世界でスタンダードとなった音楽史に名を残す偉人で、その半生は伝記映画「五線譜のラブレター DE-LOVELY」(2004年)で描かれたこともあってよく知られているかもしれない。彼のソングブックにするというアイデアは2014年にトニーが電話した時点で決まっていたようだ。

 今回の『Love For Sale』では抜群のコンビネーションによるデュエットに加えて各々のソロ・ナンバーも収録。これにてトニーは95歳と60日という史上最高齢での新録アルバムをリリースしたこととなり、ギネス世界記録にも認定されたばかりだが、そうした記録は別としてもレジェンドの大舞台に相応しい華やかな名演が楽しめるのは間違いないはずだ。

左から、トニー・ベネットらによる2016年のライヴ盤『Tony Bennett Celebrates 90』(Legacy)、レディー・ガガの2011年作の10周年記念盤『Born This Way: The Tenth Anniversary』、レディー・ガガの2020年作『Chromatica』(共にStreamline/Interscope)